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観客のいない世界  作者: 亀


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第329章 誰を先に助けるか

第二拠点へ向かう途中、主人公たちは道路の脇で足を止めた。


前方には二つの経路があった。


左へ進めば、第二拠点の裏口に近づける。ただし、途中には敵が使っていると思われる建物がある。


右へ進めば、中央基地の西側へ回り込める。だが、そこでは別チームが敵と交戦している。


「どっちへ行く?」


同行する隊員が尋ねた。


主人公は通信機を確認した。


第二拠点からの連絡は戻っていない。中央基地の西側からは、短い救援要請が繰り返されていた。


「二人は西側へ向かってくれ。敵を倒そうとする必要はない。交戦中のチームが離脱できる経路を探してほしい」


「お前たちは第二拠点か?」


「そうだ。裏口まで行って、まだ離脱できるか確認する」


「もし、向こうも動けなくなっていたら?」


「そのときは、現場を見てから決める」


二人は西側へ向かった。


主人公は残った隊員とともに、第二拠点へ続く左の経路を進んだ。


建物の角まで来たところで、敵の姿が見えた。


二人が入口を警戒している。さらに奥にも人影があった。


主人公はすぐに引き返した。


「正面からは入らない。建物の裏側へ回ろう」


二人は隣接する建物を通り抜け、裏手の細い通路へ進んだ。途中、壁の向こうから銃声が聞こえた。


第二拠点の方向だった。


「まだ戦っているな」


隊員が言った。


「そうだな。でも、音だけで人数や位置を判断するのは危険だ」


主人公は通路の出口から慎重に周囲を確認した。


第二拠点の裏口は、まだ完全には塞がれていなかった。


しかし、その近くに敵が一人立っていた。少し離れた場所にも、別の敵が移動している。


こちらが裏口へ近づけば、敵に気づかれる可能性が高い。


「俺が注意を引く。君は建物の反対側へ回って、向こうのチームに合図を送ってくれ」


「一人で大丈夫か?」


「戦うつもりはない。相手が追ってきたら、こっちも引く」


主人公は建物の陰から姿を見せた。


敵がすぐに反応した。


「そこにいたか!」


敵が近づいてくる。


主人公は武器を構えず、距離を保ったまま後退した。右手にはまだ痛みが残っている。長く交戦すれば不利になることはわかっていた。


敵が追ってきたところで、主人公は別の通路へ入った。


狭い角を曲がり、視界から外れる。


敵は追撃を続けたが、建物の構造を知らないためか、途中で足を止めた。


その間に、もう一人の隊員が第二拠点の味方と連絡を取ることに成功した。


「こちらの声が聞こえるか? 裏口の外にいる。今なら移動できるか?」


短い沈黙の後、返答があった。


『負傷者が一人いる。自力で走れない。残りの三人は動ける』


「裏口から出て、建物の南側へ進め。こちらが合流する」


主人公は通信を聞きながら、頭の中で経路を組み直した。


負傷者がいる以上、速い移動はできない。


敵が裏口に気づけば、全員が逃げ切る前に追いつかれる可能性がある。


「全員を一度に出すのは危険だ。まず、動ける三人が外へ出て、南側の通路を確保する。負傷者はその後に運ぶ」


「俺たちだけ先に出ていいのか?」


通信の向こうから、ためらう声が聞こえた。


「先に出るのは、負傷者を置いていくためじゃない。運び出すための道を確保するためだ。三人で通路を確保できなければ、別の方法を考える」


数秒後、返答があった。


『了解した』


裏口の扉が静かに開いた。


三人が外へ出る。


一人はすぐに南側へ移動し、もう一人は周囲を警戒した。残る一人が、負傷者を運び出すために入口へ戻った。


主人公たちは合流地点で待ち、敵の動きを確認した。


敵はまだ裏口に気づいていない。


やがて、負傷者が二人に支えられて外へ出てきた。


全員が通路へ入った直後、背後から敵の声が響いた。


「裏口だ! 追え!」


主人公は隊員たちに合図を送った。


「走れる人は先へ。負傷者のそばには一人だけ残ってくれ。俺は後ろを確認する」


「またお前が残るのか?」


「俺は速く動けない。ここで全員が固まるより、先に安全な場所へ移動してもらったほうがいい」


隊員は一瞬迷ったが、負傷者の移動を優先した。


主人公は通路の角に身を隠し、追ってくる敵の動きを見た。


敵は三人。


正面から撃ち合えば、勝ち目は薄い。


彼は近くにあった訓練用の障害物を倒し、通路の幅を狭めた。敵の進行が一瞬止まる。


その隙に主人公も後退した。


数十秒後、全員が南側の建物へ到着した。


第二拠点のチームは、負傷者を含めて全員が離脱できた。


だが、任務の状況は改善していなかった。


中央基地の西側では、別チームがまだ交戦している。北側の輸送路も敵に押さえられたままだ。


主人公は通信機を確認した。


西側へ向かった二人から連絡が入った。


『交戦中のチームは、建物の中にいる。敵が出口を押さえている。こちらから攻撃すれば救出できる可能性はあるが、敵の増援が近づいている』


主人公は目を閉じ、短く息を吐いた。


第二拠点の救援は成功した。


しかし、別の場所ではまだ味方が動けずにいる。


今から西側へ向かえば、救援に間に合うかもしれない。だが、そうすれば中央基地へ向かう時間がさらに減る。


「どうする?」


隣の隊員が尋ねた。


主人公はすぐには答えなかった。


今回の任務で、全員を助けることはできないかもしれない。


それでも、何を優先するかを決めずに動けば、結果的に誰も助けられなくなる。


「西側へ向かう。ただし、全員で攻撃するわけじゃない」


彼は地図を開いた。


「二人は敵の増援が来る方向を確認してくれ。俺たちは交戦中のチームに連絡を取り、建物から出られる経路を探す。救出が無理だと判断したら、すぐに撤退する」


「中央基地は?」


「今は、救援を優先する」


その言葉を口にしたとき、主人公は自分が何を選んだのかを理解した。


任務達成の可能性を、少し下げる判断だった。


しかし、中央基地へ進むことだけを優先して、動けない味方を見捨てるという選択も、簡単にはできなかった。


彼は通信機を手に取った。


「こちら、第二拠点から離脱したチームだ。西側の状況を教えてくれ。こちらから、出口を探す」


返答が届くまで、数秒かかった。


『……了解。だが、敵が近い。無理はするな』


主人公は地図を閉じた。


次に待っているのは、さっきよりも難しい判断になるだろう。


助けに行くと決めた以上、今度は、どこまで危険を引き受けるのかを決めなければならない。

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