↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観客のいない世界  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

320/460

第320章 予想外の援軍

合同訓練の開始まで、残り三十分。


彼は参加者一覧を開き、前回の訓練で組んだ二人に招待を送った。


一人はすぐに承諾した。


もう一人からは、短い返事が届いた。


『今日は無理だ。固定チームの任務が入った』


彼は了解の返事を送り、別の候補を探した。


前回の訓練で学んだことを試すなら、同じ相手と組む方が比較しやすい。しかし、相手にも都合がある。自分の練習に付き合ってもらうことを当然だとは考えられなかった。


候補を探していると、見覚えのある名前が目に入った。


レイヴンの合同演習で、三人側の指揮を担当していた選手だった。


前回はレイヴンに敗れたものの、再戦では陣形を変え、引き分けまで持ち込んでいた。


彼は招待を送った。


返事が来るまで、少し時間がかかった。


『参加する。ただし、今回は俺が指揮を執る』


彼は画面を見つめた。


自分の判断を練習するつもりだったが、相手が指揮を担当するなら、別のことを学べるかもしれない。


『分かりました。よろしくお願いします』


返事を送ると、相手からもう一通届いた。


『君は右手を負傷しているんだろう。無理な交戦はさせない。ただし、状況判断には参加してもらう』


彼はその条件を受け入れた。


⸻


訓練場に入ると、相手はすでにマップを確認していた。


今回の任務は、三人で敵の補給拠点を突破し、内部にある装置を停止させることだった。


敵は五人。


こちらは三人。


正面からの撃ち合いでは不利だが、装置の停止が目的であり、敵全員を倒す必要はない。


指揮役はマップを拡大した。


「正面には敵が二人。側面の通路に一人、奥の装置付近に二人いる。正面を突破するのは難しい」


彼は配置を見ながら言った。


「側面の通路を使えば、装置に近づけるかもしれません」


「その通路は狭い。先に敵が待っていた場合、こちらが一人ずつ倒される可能性がある」


「では、正面の二人を動かしてから側面へ向かうのはどうでしょうか」


指揮役は彼を見た。


「どうやって動かす?」


彼はマップ上の遮蔽物と通路を確認した。


「正面から攻撃するふりをして、敵の注意を引きつけます。その間に一人が側面へ回る。ただし、敵が追撃してきた場合は、すぐに撤退します」


「悪くない。だが、正面に残る人間が必要だ」


「僕が残ります」


彼は答えた。


右手はまだ回復していない。


正面で敵と撃ち合う役割は難しいが、遮蔽物を利用して位置を維持し、敵の動きを報告することならできる。


指揮役は少し考えた。


「君は交戦を避けることを優先しろ。敵が近づいたら、無理に持ちこたえようとせずに下がれ」


「分かりました」


もう一人の隊員が、側面への移動を担当することになった。


三人は作戦を確認し、開始位置へ移動した。


合図が鳴る。


彼は正面の遮蔽物へ向かい、敵の位置を確認した。


敵二人は補給拠点の入口を守っている。


彼は遮蔽物の端から一瞬だけ姿を見せ、すぐに引っ込んだ。


敵の一人がこちらを向く。


もう一人も位置を変え、入口の防御を固めた。


通信を入れる。


「正面の二人が反応しました。まだ移動していません」


『了解。側面へ移動する』


指揮役の声が返ってきた。


作戦は順調に進んでいるように見えた。


しかし、側面へ向かった隊員から予想外の報告が入った。


『通路に敵はいない。ただ、奥の扉が閉じている。開けるには装置の認証が必要らしい』


彼はマップを確認した。


側面から装置の近くへ抜ける計画は、そのままでは成立しない。


正面の敵を引きつけても、扉を開けられなければ意味がない。


「正面から装置へ向かうしかありませんか?」


彼が尋ねると、指揮役は即座に否定した。


「まだ決めるな。扉の認証条件を確認しろ」


『確認中……認証装置は扉の横にある。ただし、操作すると警報が鳴る』


三人は一時的に動きを止めた。


扉を開ければ警報が鳴り、敵が集まってくる。


開けなければ、装置へ近づけない。


正面から突破する場合、敵二人を相手にしながら奥の三人にも対応しなければならない。


指揮役は短く考え、命令を出した。


「正面の二人を入口から離す。俺が左側から仕掛ける。君は敵の位置を監視しろ。側面の隊員は認証装置を操作する準備をしておけ」


彼はすぐに返事をした。


「了解」


指揮役が動き出す。


敵二人が反応し、入口から少しずつ離れていった。


その間に、側面の隊員が認証装置へ近づく。


しかし、装置を操作する直前、彼は新たな動きを見つけた。


奥にいた敵の一人が、側面の通路へ向かっている。


「待ってください。敵が側面へ移動しています!」


通信に緊張が走った。


『距離は?』


「まだ遠いですが、こちらへ向かっています」


指揮役は一瞬で判断した。


「操作を中止しろ。側面の隊員は通路を戻れ。俺は正面を維持する」


側面の隊員が後退する。


その動きを見て、彼は一つのことに気づいた。


敵は、正面で起きている動きに引きつけられただけではなかった。


こちらの側面作戦を察知し、装置への接近を阻止するために動いている。


つまり、敵側にも指揮役がいる可能性が高い。


「正面の敵を動かすだけでは、突破できないかもしれません」


彼が報告すると、指揮役は答えた。


「分かっている。だから、次の手を考える」


彼はマップを見つめた。


側面の通路を使えない。


正面の敵を倒すには人数が足りない。


残された選択肢は、敵の配置をもう一度変えることだった。


ただし、今度は単に注意を引くだけでは不十分だ。


敵が側面へ移動したくなる状況を作り、その移動によって正面か奥のどちらかを薄くしなければならない。


彼は、先ほど確認した認証装置の位置を思い出した。


「一つ、提案があります」


『言ってみろ』


「側面の隊員は、認証装置へ向かうふりを続けます。ただし、操作はしません。敵が再び側面へ移動したら、今度は途中で引き返して正面へ合流します」


指揮役は黙って聞いていた。


「その間、正面では敵を入口から離す動きを続けます。敵が側面を警戒している間に、僕たちが正面の防御を崩せるかもしれません」


「敵が動かなかったら?」


「その場合は、こちらも無理に仕掛けません。残り時間を確認して、撤退するか、別の経路を探します」


数秒の沈黙のあと、指揮役が答えた。


「やってみよう。ただし、敵の動きが変わらなければすぐに中止する」


三人は再び動き始めた。


側面の隊員が通路の入口に姿を見せる。


敵はすぐに反応した。


一人が側面へ向かい、残る敵は正面の防御を維持しようとする。


しかし、今回は側面の隊員が認証装置へ進まなかった。


敵が接近する直前に引き返し、正面へ向かった。


敵は追撃するか、元の位置へ戻るかを判断しなければならなくなった。


そのわずかな迷いを、指揮役が利用した。


正面の敵が配置を変えた瞬間、彼は入口の脇へ移動し、射線を切った。


彼も遮蔽物を移り、敵の注意を分散させる。


側面の隊員が合流する。


三人がそろった。


だが、敵はまだ二人残っている。


彼らは入口を突破し、内部へ進んだ。


奥の装置までは、あと一つの通路だった。


そこへ、警報が鳴った。


誰かが認証装置に触れたわけではない。


敵側が、補給拠点への侵入を検知したのだ。


奥の敵が動き始める。


指揮役が声を上げた。


「装置へ向かう。正面から交戦する必要はない。目標を停止したら、すぐに出口へ戻る!」


三人は通路を駆けた。


彼は右手をかばいながら、遅れないように進んだ。


前方に敵影が見えた。


指揮役が左へ回り、側面の隊員が右側の遮蔽物へ入る。


彼は中央を進むのではなく、後方から二人の動きを確認した。


敵が一人、指揮役へ向かう。


もう一人は装置の前から動こうとしない。


指揮役が敵を引きつけている間に、側面の隊員が装置へ近づいた。


停止操作が始まる。


残り時間は四十秒。


警告表示が赤く点滅した。


敵が側面の隊員へ向きを変える。


彼は反射的に前へ出ようとしたが、右手の痛みを思い出し、足を止めた。


自分が直接戦闘に加われば、かえって動きを妨げる可能性がある。


「右側から敵が来ています。後退してください!」


側面の隊員が反応し、装置の陰へ移動する。


指揮役は敵の進路を塞ぎ、数秒の時間を稼いだ。


停止操作が完了した。


三人は出口へ向かう。


背後から追撃が続いたが、彼らは交戦を避け、通路の角を利用して距離を広げた。


最後の一人が脱出判定エリアへ入った瞬間、訓練終了の音が鳴った。


任務成功。


三人とも脱出できた。


⸻


準備区画に戻ると、指揮役が彼に声をかけた。


「さっきの提案は、悪くなかった」


「ありがとうございます」


「ただし、敵が同じ動きをするとは限らない。次に同じ方法を使えば、待ち伏せされるかもしれない」


彼はうなずいた。


今回の成功は、側面作戦が正しかったからだけではない。


敵の動きに応じて、計画を変えられたことが大きかった。


そして、指揮役が自分の提案を採用し、状況を見ながら実行の可否を判断してくれた。


彼一人では、ここまでうまく進められなかっただろう。


「次も、あなたと組んでいいですか?」


彼が尋ねると、指揮役は少し笑った。


「俺は構わない。ただし、次は君が指揮を執れ。今日の経験を、自分の判断に使えるか確かめたい」


彼はすぐには答えなかった。


成功した直後に指揮を任されるのは、少し怖かった。


失敗すれば、今度は自分の判断が直接チームに影響する。


それでも、断る理由はなかった。


「分かりました。次は僕がやります」


指揮役はうなずき、訓練場を後にした。


彼は端末に今回の記録を保存した。


装置の停止、敵の誘導、撤退経路の確保。


どれも、一つだけなら特別な成果ではない。


だが、複数の条件が重なったとき、誰かの判断が次の行動を変える。


自分が強くなるということは、単独で敵を倒せるようになることだけではない。


他人の判断を理解し、自分の判断を説明し、状況が変わればそれを修正できるようになることでもある。


彼は次の訓練予約を開いた。


今度は、成功した方法をもう一度なぞるのではなく、最初から条件が崩れることを想定した任務を選ぶつもりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。