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観客のいない世界  作者: 亀


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第315章 崩れた陣形

訓練場の警報响起时,レイヴンはまだ装備を確認していた。


「予定を変更する。模擬戦を一回追加だ」


向かい側の選手が肩をすくめた。


「こっちは聞いていないぞ」


「今、伝えた」


「便利な話だな。相手が準備できていないところを狙うのか?」


レイヴンは彼を見た。


「実戦で、相手が準備できているかどうかを確認してから始めるのか?」


周囲から小さな笑い声が上がった。


相手は笑わなかった。


「なら、条件をそろえよう。お前のチームは二人。こちらは三人。そっちは一人が負傷者役を連れて移動する」


「いいだろう」


レイヴンは即答した。


観覧区画にいた彼は、思わず身を乗り出した。


二人対三人。


しかも一人は戦闘に参加できず、移動速度も制限される。


勝負になるのだろうか。


「見ておけ」


隣に座っていたカイが言った。


「何をですか?」


「人数だけで勝敗を決めるな。負ける側が、どこで負けるかを見ろ」


訓練場の床が切り替わった。


中央に低い建物群が出現し、東西二つの出口が開く。青い光点が二つ、建物の奥に表示された。


ルールは単純だった。


二つの光点を確保し、指定された出口から脱出する。


先に条件を満たしたチームが勝利する。


三人側は開始直後、二手に分かれた。


一人が中央を押さえ、残る二人が左右から進む。


人数差を利用した、素直な配置だった。


レイヴンの相棒は建物の陰に身を隠した。レイヴン自身は中央通路に姿を見せ、敵の注意を引きつける。


最初の衝突は、わずか十数秒で起きた。


中央の敵がレイヴンへ射撃を集中させる。


レイヴンは遮蔽物を移りながら後退した。反撃は最低限。相手を倒そうとするより、敵の射線を自分へ集めているように見えた。


その間に、相棒が右側の光点を確保した。


しかし左側へ向かった敵は、すぐに異変に気づいた。


「右を取られた。中央を捨てるな!」


指示が飛ぶ。


中央の選手が追撃をやめ、右へ戻ろうとした。


その瞬間、レイヴンが前へ出た。


一度引いたはずの男が、今度は敵の進路を塞ぐ。


短い交戦。


三人側は中央の選手を援護しようとしたが、左右に分かれていた二人が互いの位置を把握できていない。援護射撃は遮蔽物に遮られ、移動経路も重なった。


ほんの一瞬、三人の動きが止まった。


レイヴンはそこを逃さなかった。


相棒が左側の光点へ滑り込み、確保表示を点灯させる。


残る条件は脱出だけだった。


「東へ行け!」


三人側の指揮役が叫ぶ。


だが、東の通路にはレイヴンがいる。


三人は西へ回り込もうとした。


レイヴンの相棒は、負傷判定を受けた選手を運ぶために移動速度を落としたまま、出口の手前で待っていた。


二人の動きが合流する。


そのまま脱出判定が成立した。


勝負は終わった。


観覧区画に拍手が起こる。


三人側の選手は、しばらく無言で戦場を見ていた。


やがて指揮役がレイヴンに近づいた。


「最初から、中央を捨てさせるつもりだったのか?」


「いや」


レイヴンは首を振った。


「お前たちが中央を守るなら、右を取りに行くつもりだった。右を守るなら、中央から押し込むつもりだった」


「結果を見てからなら、何とでも言える」


「そうだな。だから、次はお前たちが勝てばいい」


レイヴンはそれ以上説明しなかった。


負けた選手たちは互いの配置を確認し始めた。


彼は、その様子を見ながら考えた。


三人側は間違った戦術を選んだわけではない。


人数差を利用して左右へ分かれるのは、合理的な判断だった。


問題は、片方が想定外の事態に直面したとき、もう片方がどこまで対応するかを決めていなかったことだ。


誰かが援護に動けば、別の場所が空く。


誰かが位置を変えれば、別の仲間の射線を塞ぐ。


一つの判断が、他の二人の行動まで変えてしまう。


「君なら、どうした?」


レイヴンが観覧区画を振り返った。


突然話を振られ、彼は一瞬だけ言葉に詰まった。


「最初から三人を分断する方法を考えたと思います。でも、実際には人数が少ない側が、どこまで相手を動かせるか分からないので……中央を守る人を無理に倒そうとはしません」


「それで?」


「相手が左右に分かれたら、片方の目標を先に取ります。ただ、もう片方が戻ってくる時間を計算して、出口までの経路を決めておきます」


レイヴンは頷かなかった。


「相手が目標を守り続けたら?」


「その場合は、中央を通るか、別の経路を探します」


「別の経路がなかったら?」


彼は黙った。


レイヴンは責めるような口調ではなく、淡々と続けた。


「君は今、相手がどう動くかを考えている。でも、相手がこちらの想定どおりに動かなかったとき、自分が何を捨てるのかは決めていない」


「……目標ですか?」


「目標とは限らない。時間かもしれないし、装備かもしれない。仲間との距離かもしれない。全部を守ろうとすれば、何も守れない場面がある」


彼は、右手を見た。


今の自分は、強く握ることも、まともに打ち合うこともできない。


負傷がなければ別の選択ができたのか。


そう考えかけて、やめた。


右手が使えないことは、今回だけの特殊条件ではない。自分が動ける範囲を見誤れば、次の戦場でも同じ失敗をする。


「もう一度、やってみます」


「今度は参加するのか?」


「いえ。僕はまだ戦闘に戻れません。条件を変えて、頭の中で組み立て直します」


レイヴンは少しだけ口元を緩めた。


「それでいい。だが、見ているだけで分かった気になるなよ」


「はい」


「次の合同訓練では、君にも判断を任せる。戦闘役ではなく、指揮役としてだ」


その言葉に、周囲の視線が集まった。


彼はすぐには返事をしなかった。


指揮役なら、負傷した右手を使う必要はない。


だが、自分の判断で他人を動かすことになる。


失敗したとき、損をするのは自分だけではなかった。


「分かりました」


そう答えた直後、訓練場の反対側で再戦の準備が始まった。


今度は、先ほど敗れた三人がレイヴン側と同じ条件を要求している。


人数をそろえ、負傷者役を外し、純粋な撃ち合いで勝負するつもりらしい。


レイヴンはそれを聞くと、首を横に振った。


「条件は変えない。負けた理由が分からないまま、勝ちやすい勝負に変えても意味がない」


「なら、次も負けたらどうする?」


「また考えればいい」


三人側の指揮役は、しばらく彼を睨んでいた。


やがて、訓練場へ戻っていった。


彼はその背中を見送った。


次の勝負では、三人側も同じ失敗を繰り返さないだろう。


ならば、レイヴンたちも同じ方法では勝てない。


一度勝った戦術は、次の戦闘ではもう相手に知られている。


彼が強くなるために必要なのは、勝者の動きを覚えることだけではなかった。


相手がそれを知ったあと、何が起こるのか。


そして、自分の選択が通用しなくなったとき、どこから立て直すのか。


再戦開始の合図が鳴った。


今度は、三人側の最初の配置が違っていた。


レイヴンは中央へ進まない。


相棒も、すぐには目標へ向かわなかった。


双方が相手の出方を待つ。


静止した数秒間に、彼は初めて気づいた。


戦闘は、攻撃が始まってから動き出すわけではない。


互いに攻撃しないと決めている時間にも、すでに勝負は進んでいるのだ。

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