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観客のいない世界  作者: 亀


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第297章 封鎖された搬入口

主人公が旧輸送拠点に到着したとき、直人は道路の反対側にいた。


「中には入ったか」


「まだだ。正面の扉は開いているが、さっき出てきた男が戻ってくる可能性がある」


直人は端末に表示した画像を見せた。


搬入口の脇に、細い血痕が続いている。途中で途切れた先には、車両のタイヤ痕が重なっていた。


「血の量からすると、歩いて出ていった人間がいる。ただ、誰のものかは分からない」


主人公は画像を拡大した。


血痕は搬入口から外へ向かっている。しかし、タイヤ痕の一部は、その上を通過していた。


車が出たのは、血痕が残された後だ。


「この車両は、負傷者を運んだ可能性があります」


「俺もそう考えた。ただ、血痕の途中で一度、足跡が途切れている」


「車に乗ったのかもしれませんね」


「あるいは、別の入口から運び出されたか」


直人は建物の側面を指した。


そこには、搬送用の小さな扉があった。外側の錠は破壊されている。扉の下には、こすったような跡が残っていた。


主人公は周囲を見回した。


「ここから入るのはやめましょう。中に誰がいるか分からない」


「同感だ。裏手に回って、外から確認できる範囲だけ見る」


二人は道路を渡らず、建物の外周に沿って移動した。


右手をかばいながら歩く主人公は、段差を越えるたびに痛みを感じた。急ぐことはできるが、転倒すれば自分だけで立て直すのも難しい。


彼は足元を確認しながら、直人の少し後ろを進んだ。


裏手に回ると、古い搬送用のレールが地面に残っていた。


レールは建物の壁際から地下へ続き、その先はコンクリートで塞がれている。


ただし、封鎖部分の端に、新しい工具の跡があった。


「最近、開けようとしたんでしょうか」


「その可能性はある。だが、ここを開ける作業にしては跡が少ない」


直人がしゃがみ込み、壁の下を確認した。


そのとき、建物の内部で金属音が鳴った。


二人は同時に顔を上げた。


音は一度では終わらなかった。


何かを引きずる音。短い衝撃音。そして、重い扉が閉まる音。


直人が端末を操作した。


「中に人がいる」


主人公は建物の配置図を開いた。


「音がしたのは、中央の倉庫です。正面から入れば、こちらの位置が知られます」


「別の入口は?」


「地下の搬送路が生きていれば、側面へ回れます。ただし、今の状態では通れる保証がありません」


直人は周囲を確認した。


「ここで待つか?」


主人公は少し考えた。


待っていれば、内部の人間が出てくるかもしれない。しかし、先ほどの音が何を意味するのか分からないまま、相手の行動を待つのは危険だった。


「まず、出入口を確認しましょう。中へ入るのは、出口が分かってからです」


二人は建物の反対側へ回った。


その途中、主人公の端末が震えた。


匿名のメッセージだった。


『搬入口の中に入るな。回収は始まっている』


主人公は足を止めた。


「どうした」


直人が尋ねる。


「中に入るなという警告です。しかも、回収が始まっていると」


「誰からだ」


「分かりません」


主人公はメッセージを直人に見せた。


「この情報が正しいなら、内部にいる人間は何かを運び出そうとしている。ただ、俺たちが何を回収しているのかまでは分かっていません」


「警告を送った人間が、現場を見ている可能性は?」


「あります。けれど、そうだと決めつけることもできません」


直人はメッセージを読み終え、端末を返した。


「なら、入らずに確かめる方法を探そう」


二人が外周を回り終えたとき、最初に見た搬入口から車のエンジン音が聞こえた。


黒い車が一台、倉庫の中から後退してくる。


運転席には人影があった。


車の後部には、金属製のケースが積まれている。ケースは固定されておらず、車が段差を越えるたびに荷台の中で動いていた。


直人が端末を構えた。


「撮るぞ」


主人公は車の進路を確認した。


道路へ出るには、建物の正面を通る必要がある。そこを抜ければ、南側の交差点へ向かう一本道だ。


「追いかけますか」


「車で追えば、すぐに気づかれる」


「それに、運転手が一人とは限りません」


主人公は周囲を見た。


道路の先に、もう一台の車が停まっていた。黒い車が搬入口を出ると、そちらの車も動き始める。


二台は別々の方向へ向かった。


直人は舌打ちした。


「また分かれたか」


「違います」


主人公は二台の進路を見比べた。


「先に出た車は南へ、後から動いた車は東へ向かっています。追跡を避けているのかもしれませんが、最初から別の目的地が決まっていた可能性もあります」


「どちらを追う?」


主人公は、荷台のケースを積んだ車を選んだ。


「ケースのほうです。ただし、直接追うのではなく、次の交差点までの道を確認しましょう」


二人は道路の反対側へ移動し、車が見えなくなる前に進行方向を記録した。


直人が地図を開く。


「南へ向かった車は、旧工業区へ抜けられる。東側の車は市街地へ入る」


「旧工業区には、以前の管理区画が残っているはずです」


「そこにケースを運ぶのか?」


「まだ分かりません。でも、昨夜の襲撃者が探していたものと、今回のケースが同じとは限らない」


主人公は記録した画像を保存した。


その直後、建物の正面から、先ほどの負傷した男が姿を現した。


男は片足を引きずっていた。片手で腹部を押さえ、道路を渡ろうとしている。


直人が声をかけるより先に、男の背後から別の人物が現れた。


男は負傷者の腕をつかんだ。


負傷者が抵抗する。


「離せ!」


声が道路に響いた。


直人はすぐに動こうとしたが、主人公が腕を伸ばして制した。


「待ってください。相手が一人とは限りません」


二人は距離を保ったまま、状況を確認した。


負傷者をつかんだ人物は、無理に引きずるのではなく、車道から離れた建物の陰へ移動させようとしていた。


だが、負傷者が再び抵抗したため、二人は壁にぶつかった。


その瞬間、相手の上着から小型の端末が落ちた。


負傷者は端末を見て、動きを止めた。


「……お前が持っていたのか」


相手は返事をしなかった。


彼は端末を拾い上げ、負傷者の耳元で何かを告げた。


負傷者の表情が変わる。


そして、抵抗をやめた。


二人は建物の陰へ消えていった。


直人はすぐに追おうとしたが、主人公は首を振った。


「今は追わないでください。負傷者は相手を知っているようでした。あの反応を見る限り、無理に連れていかれたのか、それとも自分から同行することにしたのか、まだ判断できません」


「だが、あのまま放っておくのか」


「追うなら、相手の車両と出口を確認してからです。ここで飛び込めば、こちらまで回収対象にされるかもしれない」


直人は悔しそうに唇を結んだが、足を止めた。


二人は建物の陰を遠くから確認した。


数分後、そこから一台の車が出てきた。


運転手は、先ほどの人物だった。


助手席には負傷者が座っている。


車は南側へ向かい、ケースを積んだ車が走り去った方向と同じ道路に入った。


主人公は端末に時刻を記録した。


「二台とも、旧工業区へ向かった可能性があります」


「追うか?」


「はい。ただし、距離を取ります。見失ったら、そこで止めましょう」


直人は車を手配し、二人は現場を離れた。


出発する直前、主人公は一度だけ旧輸送拠点を振り返った。


建物の奥には、まだ何かが残されている。


しかし、今夜の動きで分かったことがある。


ケースを運び出した者と、負傷者を連れ去った者は、少なくとも同じ方向へ向かっている。


彼らが協力しているのか、互いを利用しているのか。


それを確かめるには、次の場所まで追うしかなかった。

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