第291章 待ち伏せ
箱の保管場所から連絡が入ったのは、深夜に差しかかった頃だった。
『また一人、外周に現れた。今度は、前の二人とは違う』
主人公は、すぐに返信した。
『どこにいる?』
『向かいの建物の陰だ。こちらには近づいていない』
主人公は、相手にその場を離れるよう伝えた。箱を移動させることも、人物を追跡することも求めなかった。
相手が安全な場所へ移ったことを確認してから、主人公は直人へ連絡した。
北側廃棄施設の事件が起きた直後に、保管場所の周辺で複数の人物が確認されている。偶然である可能性は残るが、少なくとも警戒を続ける理由にはなる。
直人は状況を聞き、短く答えた。
「お前はそこへ行くな。相手が何人いるのかも、何を狙っているのかも分かっていない」
「分かっている。箱の状態も確認できているし、今は保管場所から離れてもらった」
「なら、こちらから情報を集める。現場で捕まえようとする必要はない」
主人公は了承した。
その直後、別の連絡が入った。
保管場所の外周を確認していた協力者が、見慣れない車両を見つけたという。車両は長時間停車していたが、通報の直前に移動していた。
ナンバーは読み取れなかった。
ただし、車両が去った方向は、北側廃棄施設へ向かう道路と重なっていた。
主人公は、情報を直人へ転送した。
「同じ連中かもしれないな」
直人の声には、慎重さが残っていた。
「でも、まだ断定できない。施設の事件を利用して、別の目的を隠している可能性もある」
主人公は、保管場所に現れた人物の特徴を確認した。
最初の人物は長い外套を着ていた。二人目は作業用の上着。三人目は、遠くからでは服装を判別できなかった。
共通点は少ない。
むしろ、同じ集団だと考えるには不自然な部分もあった。
主人公は、これまで受け取った匿名の通知を並べた。
廃棄施設へ近づくな。
容器はまだ外へ出ていない。
保管区画にあるものは廃棄部材ではない。
通知の送り主が同じとは限らない。情報を持っている理由も、目的も分からない。
彼は、文面だけで相手を一つの組織に結びつけることをやめた。
翌朝、直人から連絡が届いた。
「保管場所の周辺にいた人物の一人が、別の施設でも確認されていたらしい。北側廃棄施設の近くではない。かなり離れた場所だ」
「何をしていた?」
「入口を確認していたという話だ。中へ入ったかどうかは分からない」
主人公は、すぐに尋ねた。
「その施設には何がある?」
「閉鎖された訓練区画だ。今は一般利用されていない」
主人公は画面を見つめた。
箱の保管場所、廃棄施設、閉鎖された訓練区画。
三つの場所を結びつける確かな証拠はない。しかし、同じ人物が複数の場所で確認されたのであれば、少なくとも移動経路を調べる価値はある。
「現地へ行くのか」
直人が尋ねた。
「まだ行かない。先に、訓練区画の管理者へ確認してほしい。最近、誰かが出入りした記録があるかどうかだけでいい」
「分かった」
主人公は通話を切った。
そのころ、閉鎖された訓練区画では、一人の男が地下通路の入口に立っていた。
男は扉の表面を指でなぞり、錠の状態を確かめた。
開けようとはしなかった。
やがて、背後から足音が近づいた。
「見つかったか」
男は振り返らずに尋ねた。
「まだだ。ただ、別の連中も動いている」
「どこまで知っている?」
「保管場所と廃棄施設。それ以上は分からない」
男は短く息を吐いた。
「なら、今は手を出すな。先に動けば、こちらの目的まで知られる」
二人は入口から離れ、別々の方向へ歩き出した。
その会話を聞く者はいなかった。
同じ頃、女性運営責任者の端末には、廃棄施設の追加報告が届いていた。
保管区画から持ち出された容器は、施設内の別区画で発見されたものと同一ではない可能性がある。
外見は似ているが、寸法にわずかな違いがあった。
つまり、最初に映像へ映った人物が持っていた容器と、機材室で発見された容器は、別の物体かもしれない。
彼女は報告を閉じ、担当者へ指示を出した。
「二つを同じものとして扱わないでください。確認できるまでは、別々の対象として追跡します」
事件の輪郭は、少しずつ変わっていた。
誰かが一つの物を奪おうとしていたのか。
それとも、複数の物を探していたのか。
現時点では、どちらとも言えない。
ただ、施設の封鎖が始まる前から、何者かが動いていた可能性は高まっていた。




