第290章 第三の侵入者
最後の区画へ続く通路で、救援班は二つの足跡を見つけた。
一つは、保管区画から外へ向かっている。
もう一つは、その反対だった。
「誰かが、封鎖されたあとに中へ入ったのか?」
隊員の一人が尋ねた。
現場責任者は、足跡の間隔と床に残った擦過痕を確認した。
「断定するな。靴底の形状も違う。別々の人間が通った可能性がある」
隊員たちは通路の両側を確認しながら進んだ。
奥の扉は、外側から固定されていた。
しかし、固定具には新しい傷があった。無理にこじ開けた跡ではない。正規の工具で一度取り外し、再び取り付けたように見える。
現場責任者は、救援班の一人に外部との通信を維持させた。
「これから開ける。異常があればすぐに退く」
扉が開くと、内部には小さな機材室があった。
棚はほとんど空になっていたが、床の隅に一台の端末が残されていた。
電源は入っていない。
その隣には、細長い金属製の容器が置かれていた。
救援班は動きを止めた。
保管区画から持ち出されたものと同じ形状だった。
「触るな。まず記録を取れ」
隊員が室内を撮影している間、別の隊員が入口付近の壁を確認した。
そこには、外部へつながるはずのない細い配線が伸びていた。配線は床下へ入り、施設の旧設備系統へ続いている。
現場責任者は、配線を追うことを許可しなかった。
「ここから先は専門班に任せる。今は人が残っていないか、ほかの部屋を確認する」
その判断が終わる前に、端末が突然起動した。
画面に文字が浮かんだ。
『回収は失敗した』
隊員たちは一斉に端末を見た。
続いて、別の文章が表示された。
『第三者が先に到達している』
その直後、端末は再び停止した。
現場責任者は、画面を撮影するよう指示した。
誰が端末を起動させたのか。何を回収しようとしていたのか。そして、第三者とは誰を指しているのか。
どれも、まだ分からなかった。
一方、主人公は直人から送られてきた現場情報を確認していた。
『施設内で容器が見つかったらしい。詳細はまだ共有されていない。外部の人間が持ち出したという最初の見方も、確定ではなくなった』
主人公は、匿名の通知をもう一度開いた。
『容器は、まだ施設の外へ出ていない』
この文章が届いた時点で、送り主はどこまで状況を把握していたのだろう。
施設内にいるのか。
監視情報を見られる立場なのか。
それとも、別の人物から情報を受け取っているのか。
どれも可能性にすぎなかった。
彼は、通知の文面と到着時刻を保存した。送り主に再び質問することはできるが、返答が得られる保証はない。
そのとき、直人からもう一通届いた。
『現場の端末に、第三者についての記録が残っていたらしい。お前が受け取った通知と関係があるかもしれない。ただし、まだ内容は確認できていない』
主人公は短く返した。
『分かった。確認できる情報が出るまで待つ』
その言葉を送った直後、別の通知が届いた。
今度は匿名ではなかった。
送り主は、以前から箱の保管を任せている信頼できる連絡先だった。
『施設の件で、確認したいことがある。箱は開けていない。保管場所にも異常はない。ただ、今日、こちらの周辺で見慣れない人物が二度確認された』
主人公は、姿勢を正した。
箱は無事だった。
だが、保管場所の周辺に見慣れない人物が現れたという情報は、廃棄施設の事件とは別に考えるべきではなかった。
彼は、相手にその人物を追わないよう伝えた。
『近づかないでくれ。無理に確認しなくていい。時間と場所、見た特徴だけを残してほしい』
返事はすぐに届いた。
『了解した。こちらから接触はしない』
主人公は端末を置いた。
北側廃棄施設で起きた事件と、箱の保管場所に現れた人物。
二つの出来事が直接つながっている証拠はない。
それでも、どちらも放置できる状況ではなかった。
主人公は、まず現場の情報を待つことにした。
自分から動く必要があると判断するのは、相手の目的と、こちらが失うものを見極めてからでも遅くはない。
一方、施設の機材室では、回収された端末が専門班へ引き渡されていた。
解析担当者が起動記録を確認すると、最後に残っていたのは一つの短い識別情報だった。
それは、現在の運営システムには登録されていない管理系統を示していた。
担当者は、その情報を責任者へ報告した。
報告を受けた女性運営責任者は、画面を見つめたまま尋ねた。
「この識別情報は、どこから取得されたものですか」
「端末内部に保存されていました。生成時刻は特定できていません」
「では、現時点では出所不明として扱ってください」
彼女は報告を閉じなかった。
登録されていない管理系統。
開かないはずの扉。
そして、回収に失敗したという端末の記録。
事件は、単なる設備障害という説明から、さらに遠ざかり始めていた。




