第286章 採用の連絡
面談から二日後、主人公の端末に電話が入った。
運送会社の担当者だった。
「先日はお越しいただき、ありがとうございました。現場の責任者とも相談した結果、条件付きになりますが、短期作業員としてお願いしたいと考えています」
主人公は、すぐに返事をせず、担当者の説明を聞いた。
最初の一週間は、伝票の確認と、軽量物の仕分けを中心に担当する。荷物の持ち上げや積み直しについては、現場責任者の指示に従い、右手に負担がかかる作業は行わない。
勤務開始後、実際の作業に支障が出る場合は、担当内容を見直す。
「この条件であれば、働き始めることはできそうですか」
主人公は、面談で確認した内容を思い返した。
「はい。ただ、作業中に痛みが出た場合は、無理をせずに責任者へ伝えたいと思います」
「もちろんです。こちらも、無理をして続けてもらうつもりはありません」
勤務開始日は、翌週の月曜日に決まった。
電話を切ったあと、主人公はしばらく端末を手に持っていた。
仕事が決まったことは、うれしかった。
ただ、これで問題がすべて解決したわけではない。実際に働いてみなければ、どの程度の負担になるのか分からないし、一週間後に同じ条件で続けられるとも限らない。
彼は、勤務開始日と集合時間を手帳に記入した。
その日の午後、訓練を終えたあと、主人公は担当者から聞いた持ち物を確認した。
作業用の服、滑りにくい靴、飲み物。特別な道具は必要ないと説明されていた。
右手の状態については、初日に現場責任者へ改めて伝えることになっている。
彼は、必要なものを一つずつ用意した。
翌日、いつもの相手に採用が決まったことを伝えた。
『来週から、短期の仕事を始めることになった。最初は伝票の確認と、軽い荷物の仕分けが中心らしい』
返事は、すぐに届いた。
『おめでとう。面談で確認した条件が、ちゃんと仕事の内容に反映されたんだね』
主人公は、その文章を読んでから返信した。
『ありがとう。でも、実際に続けられるかは、働いてみないと分からないと思う』
『そうだね。始めてみて分かることもあると思う。最初から全部できるかどうかを決める必要はないんじゃないかな』
彼は、少し考えてから答えた。
『うん。まずは一週間、決めた範囲でやってみる』
二人は、その後もしばらく話を続けた。
彼女は、仕事の具体的な場所や会社名を尋ねなかった。
彼も、彼女の仕事について尋ねなかった。
それでも、彼が自分で条件を確認し、働くことを決めたのを、彼女はうれしく思っていた。
一方、運営区画では、次の歴史区画向け支援企画の準備が進んでいた。
女性運営責任者は、現地から届いた最新の報告を確認した。通信設備は安定して稼働しており、一時的な接続の途切れについても、その後は再発していない。
古い中継装置について、新たな情報は届いていなかった。
補佐役は、外部の技術支援組織との情報交換を続けていたが、公開資料の照合だけでは、特定の設備について新しい結論を出すことはできなかった。
女性運営責任者は、その状況を確認したうえで、追加の作業は行わないことにした。
「現地の通常運用に支障がない限り、保留中の調査を無理に進める必要はありません。新しい情報が入ったら、改めて確認しましょう」
補佐役は了承した。
その日の夕方、主人公は翌週の勤務に備えて、少し早めに休んだ。
翌朝、いつもの訓練を終えたあと、身体の状態を確認する。
右手にはまだ不自由さが残っていたが、痛みが急に強くなることはなかった。
彼は、仕事が始まるまでの時間を、これまでどおりに過ごすつもりだった。
仕事が決まったことで、生活の予定は少し変わった。
しかし、彼が抱えている問題が消えたわけではない。
できることを増やしながら、無理をしない範囲を見極める。
その繰り返しの先に、今より安定した生活があるかもしれない。
彼は、そう考えながら、次の日の準備を済ませた。




