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観客のいない世界  作者: 亀


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第110章 次に調べるもの

古い商取引の記録を整理し終えた翌日、主人公は榊原の一団を訪ねた。


今回の調査で分かったことを、直接確認しておきたかったからだ。


部屋に入ると、榊原は机の上に数冊の記録帳を並べていた。以前よりも整理され、箱ごとに保管場所や所有者の履歴がまとめられている。


「こちらも、記録の整理が終わった」


榊原は主人公に一冊の帳簿を渡した。


「箱そのものの情報と、過去の所有者に関する情報を分けた。今後、新しい情報が出てきたとき、どこから確認すればいいか分かるようにしてある」


主人公はページをめくった。


箱の印や寸法、傷の位置、保管記録。過去に試した開封方法と、その結果も記されていた。


「これなら、同じ方法を何度も試すことは減りそうだな」


「それが目的だ。君が持っている箱についても、分かる範囲で同じ形式にしてほしい」


「分かった」


主人公は帳簿を閉じた。


榊原たちが箱を集め始めた頃と比べれば、記録はかなり整ったのだろう。しかし、記録の整理が進んでも、箱の秘密が明らかになるわけではない。


主人公は、その点を忘れないようにしていた。


「一つ聞きたいことがある」


榊原が言った。


「これからは、箱そのものを調べるのか。それとも、別の手掛かりを探すのか」


主人公はすぐには答えなかった。


これまで、箱の来歴を追ってきた。古い倉庫、運送業者、商家、仲介人。その過程で多くの記録を見つけたが、箱と直接結びつく証拠は得られなかった。


一方、箱の構造についても、決定的な進展はない。


「両方とも、完全に捨てるつもりはない。ただ、今ある資料を使って同じ調査を続けるのはやめる」


「なら、何をする?」


「まずは、これまでに試していない方法があるか確認する。箱の外側だけじゃなく、過去にどんな条件で反応がなかったのかも整理したい」


榊原は考え込んだ。


「我々が試した方法は、すべて記録してある」


「なら、その記録を確認する。新しい方法が思いつかなければ、無理に何かをする必要はない」


主人公はそう答えた。


「箱を開けることだけを考えて、壊してしまうのは避けたい」


榊原はうなずいた。


「分かった。試験記録を共有しよう。ただし、我々がまだ保管している箱を使う場合は、事前に相談してほしい」


「もちろんだ」


二人の間で、新しい調査の方針が決まった。


過去の記録を追う作業は、いったん終わりにする。


これからは、箱そのものに関する情報を中心に、今までの試験記録を整理する。


それでも進展がなければ、また別の方法を考える。


***


宿に戻ると、主人公は榊原から受け取った試験記録を読み始めた。


箱に熱を加えた記録。


表面に力を加えた記録。


複数の箱を並べ、順番を変えた記録。


箱同士を接触させた記録。


どれも、以前に聞いた内容と大きな違いはなかった。


しかし、実際の記録を読むと、試験条件が一定ではなかったことも分かった。


同じ方法でも、加えた力や時間、箱の配置が異なっている。


主人公は、その違いを一覧にまとめた。


直人が隣で資料を読んでいた。


「これだけ試しても、何も起きなかったのか」


「少なくとも、記録に残っている範囲ではな」


「条件を変えれば、何か起きる可能性は?」


「あるかもしれない。でも、条件を変えれば必ず反応するわけじゃない」


主人公は、試験結果の欄を指でたどった。


「何が重要なのか分からない状態で、手当たり次第に条件を変えるのは効率が悪い。まずは、これまで何を試したのかを把握する」


直人はうなずき、別の帳簿を開いた。


二人は、試験方法と結果を一つずつ照合した。


新しい発見はなかった。


それでも、どの試験がどの箱に対して行われたのか、記録が曖昧な部分がいくつか見つかった。


主人公は、それらに印をつけた。


過去の試験を再現できるようにすることも、次の調査には必要だった。


***


夕方、主人公は榊原に追加の質問を送った。


以前、複数の箱を組み合わせて試験した際、どの箱を使ったのかが分かる記録は残っているか。


返事には、試験に使った箱の番号が記された一覧が添付されていた。


主人公は手元の一覧と照合した。


その中に、現在は所在不明になっている箱が含まれていた。


主人公は番号を確認し、榊原に尋ねた。


『この箱は、試験後にどこへ保管されたのでしょうか』


榊原から返事が届くまで、少し時間がかかった。


『試験後の保管記録が見つからない。最後に確認できたのは、試験を行った部屋だ』


主人公は、その文面を読み直した。


箱が失われたのか。


別の場所へ移されたのか。


記録が残っていないだけなのか。


現時点では分からない。


ただ、古い取引記録とは違い、今回は箱そのものを使った試験の記録に、所在不明の箱が登場していた。


主人公は番号を手元の一覧に書き加えた。


「何か分かったのか?」


直人が尋ねた。


「所在不明の箱が、過去の試験に使われていたことが分かった。だが、その後どこへ行ったのかは分からない」


「また、追うのか?」


「今は保留だ。先に試験記録を整理して、他にも所在が確認できない箱がないか調べる」


主人公は、資料を閉じた。


新しい手掛かりではある。


しかし、これだけで所在不明の箱を追い始めれば、また別の調査が増えてしまう。


今は、まず全体を把握する必要があった。


***


夜、主人公は今日の調査結果を記録した。


《過去の試験方法と条件を整理中》


《試験後の保管記録がない箱を一つ確認》


《箱の現在地は不明。移動・紛失のいずれも未確認》


書き終えたあと、主人公は机の上の箱を見た。


箱は変わらず、何も語らない。


過去の所有者を追っても、箱を集めても、試験方法を変えても、答えが出る保証はない。


それでも、調査を進めるためにできることは残っている。


何を試したのかを整理する。


何が分かっていないのかを確かめる。


そして、次に何をすべきかを決める。


主人公は帳簿を閉じ、明日の作業を書き留めた。


まずは、試験記録の整理を終わらせる。


そのあとで、所在不明の箱を含め、次に確認すべきものを考えることにした。

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