第102章 最後に目撃された町
高瀬宗一が最後に確認された町は、古い街道沿いにあった。
かつては複数の商家が集まり、各地から運ばれてきた荷物を別の土地へ送り出す中継地として栄えていたらしい。しかし、街道の利用が減り、主要な取引先が別の地域へ移ると、町の商業も徐々に衰退していった。
主人公と直人が到着したとき、通りには営業を続けている店がいくつか残っていたものの、閉じられたままの店舗も目立っていた。
「ここで本当に見つかるのか?」
直人が周囲を見回した。
「分からない。ただ、最後に記録が残っている場所だからな」
主人公は榊原から送られてきた資料を取り出した。
高瀬が確認されたのは、町の北側にある宿だった。
当時の帳簿には、宿泊費と滞在期間が記されている。それ以外に、誰と会ったのか、何をしていたのかを示す記録はなかった。
二人はまず、その宿があった場所を訪ねた。
現在は小さな食料品店になっていた。
店主に事情を説明すると、奥から年配の男性が出てきた。店主の父親で、町の古い記録について詳しいらしい。
「高瀬という名前か。聞いたことはあるが、ずいぶん昔の話だ」
男性は記憶をたどるように、ゆっくりと話した。
「この町には、昔、旅の商人や運送業者がよく来ていた。宿を長く使う人間も珍しくなかった。名前だけでは、誰だったかまでは分からないな」
主人公は帳簿の写しを見せた。
男性は日付を確認したあと、少し考え込んだ。
「この時期なら、町の東側にあった荷物預かり所がまだ営業していたはずだ」
「そこに高瀬が出入りしていた可能性はありますか」
「可能性ならある。ただ、私が直接見たわけではない」
主人公は礼を言い、荷物預かり所について詳しく尋ねた。
建物自体はすでに取り壊されていたが、当時の管理者の家族が町の外れに住んでいるらしい。
二人は教えられた住所へ向かった。
***
荷物預かり所の管理者だった男の孫は、祖父が残した帳簿を保管していた。
しかし、帳簿は長年整理されておらず、記録の一部は虫食いや湿気で読めなくなっていた。
主人公と直人は、残されたページを一枚ずつ確認した。
高瀬の名前は見つからなかった。
その代わり、特定の期間にだけ、荷物の受け渡しを示す記録が増えていることに気づいた。
荷物の種類は書かれていない。
受取人の欄には、名前ではなく短い符号が記されていた。
同じ符号が何度も使われているわけでもない。
「これも、箱に関係していると思うか?」
直人が尋ねた。
「今は何とも言えない」
主人公はページを見比べた。
「普通の荷物でも、依頼人の希望で名前を伏せることはあるだろう。問題は、なぜこの期間だけ記録の形式が変わったのかだ」
管理者の孫は、二人の話を聞きながら首をかしげていた。
「祖父は、預かり物の中身を知らないことも多かったそうです。依頼人から言われたとおりに保管して、指定された相手に渡す。それが仕事だったと聞いています」
「その仕事を依頼していたのは、どんな人たちでしたか」
「商人もいれば、遠方から来る個人もいたそうです。詳しい名前は、もう残っていません」
主人公は必要な箇所を写し取った。
高瀬がこの町に滞在していたことと、荷物預かり所で記録の形式が変わっていたこと。
二つの事実は確認できた。
しかし、高瀬が実際にその預かり所を利用した証拠はない。
箱が運び込まれた証拠もなかった。
主人公は、調査結果をそのまま記録した。
***
宿へ戻る途中、直人が言った。
「ここまで来ても、決め手はないな」
「ああ」
「高瀬がこの町で何をしていたのかも、まだ分からない」
「そうだな」
主人公は足を止めずに答えた。
「ただ、記録を残していた人間が、必ずしも荷物の中身を知っていたわけではないことは分かった」
「それは、何か役に立つのか?」
「調べる相手を考えるうえでは役に立つ。荷物を運んだ人間だけを探しても、中身を知っている人間にたどり着けるとは限らない」
直人はしばらく考えていた。
「つまり、依頼した側と、実際に運んだ側は別だった可能性があるわけか」
「その可能性はある。ただし、今回の記録が箱に関係していると確認できたわけじゃない」
主人公は念を押した。
「そこを混同しないようにしよう」
二人は町の宿に戻った。
主人公は、その日の調査結果をまとめ、榊原にも写しを送った。
高瀬の足取りは、まだ途切れたままだ。
だが、荷物を扱っていた人間と、その荷物を依頼した人間が必ずしも同じではないという点は、今後の調査でも意識しておく必要があった。
主人公は資料を閉じた。
明日も、何か新しい記録が見つかる保証はない。
それでも、ここまで調べた以上、確認できる範囲は確かめておきたかった。
箱を追っているのは自分たちだけではない。
その事実を、主人公はまだ知らなかった。




