↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観客のいない世界  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/420

第100章 途切れた足取り

榊原から追加の資料が届いたのは、翌日の昼過ぎだった。


主人公と直人は、宿の一室で書類を広げていた。


資料の中心は、かつて箱の調査を担当していた男の記録だった。名前は高瀬宗一。榊原の一団を離れたあと、いくつかの商家を渡り歩いていたらしい。


「最後に雇われた商家は、もう残っていないのか」


直人が資料を読みながら尋ねた。


「商家そのものは廃業している。ただ、帳簿の一部は別の家に引き取られたらしい」


主人公は、添えられていた短い説明書きを確認した。


「その家が、今も帳簿を持っているかどうかは分からない。まずはそこからだな」


「高瀬本人を探すより、記録をたどるわけか」


「本人が生きているかどうかも分からないからな。どちらか一方に絞る理由はない」


主人公は資料を二つに分けた。


一方には高瀬の足取り、もう一方には商家の記録をまとめる。


高瀬がどこへ行ったのか分からなくても、彼が働いていた場所の記録が残っていれば、箱の調査について何か分かるかもしれない。


逆に、帳簿が見つからなくても、当時の関係者から話を聞ける可能性はある。


どちらも確実な方法ではなかった。


だが、手元にある情報から進めるなら、その二つが現実的だった。


***


午後、二人はかつての商家があった町へ向かった。


町の中心部には古い建物が残っていたが、当時の商家の建物はすでに取り壊されていた。現在は別の店が営業しており、周辺の土地も何度か所有者が変わっている。


主人公は資料に記された住所を確認し、近くの古物商を訪ねた。


店主は、最初こそ二人の話に関心を示さなかった。


しかし、高瀬宗一という名前を聞くと、奥から古い帳面を一冊持ってきた。


「この名前なら、昔の取引記録に出てくるかもしれない」


帳面を開くと、確かに高瀬の名があった。


ただし、記録は短かった。


雇用された時期、受け取った金額、退職した時期。


それだけだった。


「このあと、どこへ行ったのかは分かりませんか」


主人公が尋ねると、店主は首を横に振った。


「ここに残っているのは、商売に関する記録だけだ。個人の行き先までは書いていない」


「高瀬が何を担当していたか、分かりますか」


店主は帳面をめくった。


「運送の手配や、預かり物の管理をしていたようだな。詳しい仕事内容までは分からない」


主人公は該当する箇所を書き写した。


預かり物。


その言葉だけで、黒箱との関係を決めることはできない。


当時の商家なら、商品や荷物を一時的に預かることは珍しくなかったはずだ。


それでも、高瀬が箱の調査を担当していたことを考えれば、確認しておく価値はある。


「この商家と取引していた相手の記録は残っていますか」


「一部ならある。ただし、全部ではない」


店主は別の帳面を取り出した。


そこには、いくつかの商家の名前が並んでいた。


主人公は一つずつ確認した。


見覚えのある名前はなかった。


しかし、記録の中に、ある期間だけ取引先の欄が空白になっている箇所があった。


金額と日付は残っている。


相手の名前だけが記されていない。


主人公は、その部分を指で示した。


「この空欄は、どういう意味ですか」


店主は帳面をのぞき込んだ。


「さあな。記入漏れかもしれないし、何か事情があって名前を書かなかったのかもしれない」


「当時の記録をつけていた人は?」


「もう亡くなっている」


それ以上のことは分からなかった。


主人公は空欄のあるページを写し、店主に礼を言った。


***


宿に戻る途中、直人が口を開いた。


「また、名前のない記録か」


「そうだな」


「箱に関係していると思うか?」


主人公はすぐには答えなかった。


今日見つかった記録には、預かり物という言葉があった。取引先の名前が書かれていない箇所もあった。


だが、それだけでは何も確定できない。


「関係している可能性はある。でも、これだけで箱の記録だと決めつけるのは危険だ」


「じゃあ、次はどうする?」


「空欄がある期間を確認する。ほかの帳簿にも同じ時期の記録が残っていないか調べよう」


直人は少し考えた。


「また別の町へ行くことになるかもしれないな」


「そうなるかもしれない」


主人公は資料を袋に入れた。


「ただ、今度は何を探すのかが分かっている。名前のない取引記録と、預かり物の記録。その二つを手がかりにできる」


***


夜、主人公は通信端末を取り出した。


新しいメッセージは届いていなかった。


彼は画面を閉じようとして、ふと手を止めた。


荷物の中には、あの男が残した手紙が入っている。


『自分の力で道を切り開けるようになったら、必ず戻る。』


主人公は、その一文を思い出した。


強くなるという言葉の意味は、人によって違う。


戦う力を求める者もいれば、金や地位を手に入れようとする者もいる。知識を増やすことを選ぶ者もいるだろう。


あの男が何を目指すのか、主人公には分からなかった。


ただ、彼は自分で決めて去った。


ならば、今はそれでいい。


主人公は手紙を確認せず、荷物を閉じた。


翌朝は、別の帳簿を探しに行く予定だった。


黒箱の謎はまだ解けていない。


高瀬宗一の行方も分からない。


それでも、調査は少しずつ先へ進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。