Surviving the storm I'm gonna crush you
「あたしは求喰川で生まれたの。」
外にいる近藤は話をすべて聴いているが、全く理解できない。ひなたの態度の豹変ぶりに、驚いたのみだ。隣にいるけいは、同様に話を聴いているが特に感情は見えない。
「兎瓦。君は理解できるのか?」
近藤が聞いた。けいが答える。
「多分これからわかんなくなると思います。」
近藤はますますわからなくなった。
ひなたが話を続ける。
「オルカトリームがいない地域で育ったから、平和な環境で育ったわ。海と違って陸は全然、、、て、巫天様にこんなこと、、、知ってますよね?」
遠慮がちに、気味の悪い豹変ひなたが柚宇の顔色を窺った。
「いや!意外と住んでるオレンジ達のことは知らなかったりするんだ。そんな気を使うな。」
「は、はい。、、、えっと、なんか緊張するなあ、、、。」
「それが欲しかった。」
けいはだんだんイライラしてきた。
「だから、、、あたしはナンキョクシャチのことについても知らなかったし、求喰川全体のことを、何て言うんだろ、ほんとに大事に育ててもらったと思う。」
「ちなみに、お前の親っつうのは、、、」
「うん。ビンセイっていうトリーム、ご存知かしら?」
柚宇が驚いた。
「ああ、わかる!!!ザキがいる群れのジジイだろ!?」
「そう、ふふ。ビンセイが浜辺で泣いてるあたしを見つけて、とみたゆうか の所に連れて行ってくれたの。ごめんなさいね、みんなサトザクラって呼ぶけど、あたしは本名で呼びたい。」
「サトザクラの娘!?」
柚宇はたまげているが、近藤には何のことか分からない。タバコを吸い始めた。
「うん。そうです。父がお世話になっております。」
けいも驚いている。
「とみたゆうかは陸上で、あたしを育ててくれたの。」
近藤がけいに聞いた。
「誰だ?サトザクラって。」
けいが少し迷ってから、答えた。
「魔王。」
近藤は返事を待った。が、けいはすでに返事をしていた。
近藤はけいが魔王という単語を発したとは思わなかった。
「なるほど。だから、時代を跨げたのか。もういい、わかった。おれから聞きたいことは以上だ。けいと話すか?」
ひなたは頷いた。
「また、、、会えますか?阿修羅様。」
椅子から立ち上がり、柚宇は答えた。
「会えんじゃね?じゃあな。」
代わりにけいがひなたの前に座った。
「よ。」
「とんでもない女ね、あなた。自分のとんでもなさ、気づいてる?」
けいが、トボけた顔をして笑った。
「べつにわたしのことはどうでもいいんだけどよ?おめえは大変なことやっちゃったんだから。たくさんの人に迷惑かけたんだから。自分の状況わかってる?」
「『地球返し』の時代の人類に、何の情もない。」
ひなたは冷たい瞳を向けた。
「ひなた。牢屋から出て来ても、あんなこと二度とやっちゃダメだよ??」
「あんたにぶっ飛ばされるのが怖くて二度とできないわよ。」
「じゃあ、な。」
「ひなたはなんであんなことしたんだべ。」
帰り道、歩きながらけいは柚宇に聞いた。
「お前を試すためって言ってたんだろ?」
けいは納得いかない様子で、自分のマフラーを触った。
「うーん、、、違うな、きっと。」
「わかんないねえ、人間の考えてることは。」
けいは立ち止まると、柚宇を見上げた。
「ねえ、柚宇は宇都宮に遊びに来たりしないの?」
柚宇は予想をしていなかった質問に、思わず笑った。
「よく行ったよなあ、お前の実家に。カエルの姿で。」
けいは、首を振った。
「いや、、、ほんとに。」
柚宇は、目で伝えてくるけいをトボけた顔で見返した。
最低限の灯りの中で、ひなたは硬い床に座ったまま長い髪を下に垂らしている。
動きはほとんどないが、指をわずかに動かしている。
「まさか惑星、、、巫天が、、、びっくりしたあ。」
暗闇をひなたは捕まえるように、凝視した。
「とみたゆうか。来て。」
その夜、誰もが寝静まった時間帯、カラスが騒がしかった。




