しがらみ代わりに幅寄せ
病院で目が覚めた三枝ひなたは自分の顎を心配した。
触ってみる。
というか、触れる。顎があることに驚いた。
他の部位はどうだろう。
身体中が痛い上に、頭痛もするが触って確かめる限り、二度と歩けない身体ではなさそうだ。
無事なのか、わたしは。
「ひなた。」
ひなたはベッドに寝ている状態で、誰かが呼ぶ声を聞いた。
「おっす。」
兎瓦けいが寝ているひなたの顔を、至近距離で覗き込んだ。
「わあ!」
ひなたは驚くと、すぐ冷静な顔に戻した。けいはじ、と見つめている。
けいは目の色を変えないまま、告げた。
「わたしはね。警察に頼まれてたわけよ。おめえ、捕まえんの。」
ひなたは睨んでいる。
「何睨んでんだべ。」
けいは、氷の入った袋をひなたの首に押し付けた。
「ぎゃあ!」
「だから、ノコノコわたしの前に現れてくれてありがとう。」
ひなたは舌打ちをして、窓の方を見た。
そしてぐるりと首を戻し、けいの目を見た。
「、、、頭蓋骨バラバラになったと思ったわ。何故あたしは無事なの?」
けいは即答した。
「わたしは思いっきりやったよ。優美ちゃんが手加減してくれたんじゃねえの?」
ひなたは笑った。
「ユミちゃんじゃねえよ!惑星守護色期巫天をペットみたいに使いやがって。」
顔を真顔にして、ひなたは涼しい顔のけいを忌々しく見つめた。
「勝てっこなさ過ぎてびっくりしたわ。求喰川のイルカ達が、どいつもこいつも兎瓦けい、兎瓦けいってクソやかましいから、確かめに来たけど納得ね。」
けいは両手を頰に当て、ポーズを取った。
「わたしってば、カエルとかイルカとかそんなのにばっかモテるわけよー。」
「全員じゃないでしょ?」
「ん?」
「あなたが呼べる惑星巫天よ。全員じゃないでしょ?」
「浄介様も求喰様も眞弥ちゃんも桂も己も火弥ちゃんも冷音も柚宇も手、貸してくれるよ?」
「、、、。」
ひなたは天井を見たまま独り言を言った。
「ただのバケモンじゃん。ああ、うちに帰りたい。」
にこやかな顔でけいは言った。
「ダメ〜、今からおめえは刑務所行き〜。」
スタスタとけいは自分のバッグが置いてある椅子へ、向かった。
「じゃ!今から警視庁の近藤捜査官が来っから!すっげえ性格悪い人だから!ごしゅうしょさま〜。」
病室を出て行こうとしたけいを、ひなたが呼び止めた。
「マウヅに会いたくないの?」
けいの動きが止まった。冷ややかな目をして立ち止まっている。
「あ?わたしをゆする気け?自分の立場」
「マウヅはあなたに会いたいって。」
けいは急に乙女の表情になった。
「マシンガンが?」
ひなたは天井を見たまま喋っている。特に感情に起伏は見られない。
「そうよ。、、、ねえ。あたしを助けてくれたら、マウヅに会わせてあげてもいいよ?」
部屋の空気が止まった。けいはベッドにいる犯罪者を見つめている。吐き捨てるように言った。
「ばあか!犯罪者助けるわけねえべ??」
「みんな、あなたも疑ってるよ?」
ひなたは天井から、けいの顔に視線を移した。
「あ?」
「みんな、あなたも疑ってるよ?犯人かもしれないって。」
「だから、おめえ捕まえたんだから、もう解決だべ!?」
ひなたは、むくりと身体を起こした。
「本当にそうかな。化け物のことを唯一知ってた人物だよ?ほっとくかなあ、、、。」
けいは一度ひなたを睨みつけると、勢いよく部屋を出ようとした。
「いつでも言ってね。」
ひなたに返事をする人間は、もう部屋の中にはいなかった。しかし、言葉を発し続けた。
「マウヅに会いたくなったら。」
部屋の外の壁に背中をくっつけ、けいは自分の胸を抑えていた。
「三枝ひなた。22歳。ファストフード店勤務。、、、間違いないか?」
病室で近藤と水沼は、ずっと追い求めていた機会を得ていた。
「間違いないです。」
「そうか。なぜ人および建物を襲った?」
近藤の見下ろす目は冷たい。
「、、、特に理由はありません。」
「次の質問だ。化け物を入手したルートはどこだ?」
ひなたは、吹いた。
「ふふふ。」
「どこだ?」
「どこでしょうねえ。どこでもないかも知れない。あたし達の中を流れるものかも知れない。」
「、、、大したイカれっぷりだ。よし、次の質問だ。」
水沼は窓の外に気配を感じた。だが、気のせいだった。ひなたに注意を戻した。
「兎瓦けいと面識はあったか?」
「、、、ふふ。やっぱり兎瓦けいを疑ってるのね?」
「質問に答えろ。兎瓦けいと面識はあったか?」
「ない。ただ、あの子は有名人だから。」
近藤と水沼は互いに顔を見合わせた。
「芸能系の仕事でか?」
ひなたは、挑発をするように言った。
「うーんと、強いて言うなら、あたしの出身、古代の地球、求喰川。または、、、」
部屋の端にあった置き時計が、前触れなく床に落ちた。反射的に近藤と水沼はそっちを見た。
「あなた方の言う、火星。」




