彼がくれた夢のほとり
ひなたの笑顔を視界に収めたまま、けいは真っ直ぐ改札を出た。
けいの表情は穏やかだ。
「よかった。お怪我はありませんでしたか?」
ひなたは二歩先に離れたけいに聞いた。
「何すんだべ。」
けいはジュースを手に持ったまま答えた。
ひなたの長い髪が少し揺れた。風はなかった。
愉快そうな様子を変えることなく、ひなたはけいを見つめた。
「あれは求喰川のサメ?素敵ね。」
ひなたはウインクをした。
けいは返事をした。
「ああ。そうだよ。」
けいは、手に持ったジュースの中を見た。わずかに残っている。
「マウヅはサメを使役するのが得意だものね。ふふ。」
けいは目の前のひなた以外何も見ていなかった。ゆっくり、ジュースを持った手を下ろした。
「ひなた。」
けいはひなたの名を呼んだ。ひなたは続きの言葉を待った。
「今から本気でぶっ飛ばしてやっかんな?」
駅の中の電気が、明るさを増した。
瞬間、突然発生したシャチがけいの背後で大口を開けた。空に浮いている。
けいは言った。
「よ。」
けいを食らう寸前で、シャチは口から尾ビレにかけて稲妻を走らせるように、色を失いながら細かく粗い破片に分解された。
ひなたは、目を見開いて一歩下がった。
何千個の破片は再び結合し、巨大な鉄球に変化した。
ひなたは絶叫した。
「キムラユミ!!!」
けいはひなたに向かってジュースをかけた。
ジュースを追って鉄球が浮遊したまま動いた。
「ぐ!」
沈黙にけいが一言差し込んだ。
「じゃあな?」
人ほどの直径の鉄球は、ひなたの顔面を、乗用車が走行するスピードで殴り倒した。




