朝焼け
「けい、大丈夫!?」
「にゃん?」
病室に駆け込むと、ベッドの上でけいは自分でリンゴを剥いていた。
「あ、、!だい、大丈夫なの??」
リンゴを剥く元気は余裕で有る様である。まじまじと自分の顔を見つめるちなつに、けいはリンゴをかじって見せた。
「ちなっちゃんも食う?」
「水沼!何してんだ、早く行くぞ!」
近藤と水沼は無駄のない動きでパトカーに乗り込んだ。
池袋駅の前に救急車が何台も停まっている。
何が起きたのか全く知らない人の群れは時間の経過と共に増え、比率的に少ない目撃者の尋常でない表情と聞き取りづらい言葉に、必死に集中した。
駆け付けた警察官達は、目撃者の信じられない話にとりあえず記録を取るしかできない。
混乱の中、気の荒い若者が警察官の一人に詰め寄った。肘に軽い怪我をしている。
「ちょっと、お巡りさん。最近ずっと起きてる事件だって今、聞いたよ?おい、その時に仕留めてろよ!あと注意喚起とかいろいろできたんじゃねえの!?」
言い返すことができず、警察官は手で下がりなさい、とジェスチャーした。
重傷を負ったと見られる人は、もう現場にはいないが、目撃者の様子と割れたアスファルトが広がる混乱を止めることはなかった。
頭に軽い怪我をしたけいは、一度自分の頭を撫でるとちなつに言った。
「ちなっちゃん、お寺いつ頃できんの?」
ちなつは、は?という顔をした後、けいを気遣う表情をして返事をした。
「あ、いつ頃だっけな。」
けいは続けた。
「早くできるといいね。、、、。」
一旦黙ったけいは、いつも結んでいる髪を予備動作なく下ろした。
「あのやろう。何すんだべ。」
ちなつはけいが滅茶滅茶怒っていることに気がついた。
現場に到着した近藤と水沼は、まず人の多さに驚いた。池袋の駅前が空いていることなどないが、通常では考えられないほどの行き交い、混ざり合う人、人、人である。
「トリが」「サメが」「ヒトが」とどよめきと混乱に満ちた声色で、断片的に不可思議な単語が飛び交っている。
近藤は横を歩く水沼に告げた。
「くそ、こうなる前に何もできなかった。」
水沼は、前を見て後悔に満ちた言葉を受け止めた。
現場で人を誘導している警察官に、近藤は話しかけた。
「要するに何が起きた。」
警察官は答えた。
「はい、鳥の形に似た正体不明の生物がそこの横断歩道の真ん中に突然現れたそうです。」
「すぐに通行人に襲いかかったのか?」
「そのようです。今のところ、怪我人の中から死亡者は出ていません。」
近藤は目を見開いた。
「な、、、そんなに酷かったのか。」
脳裏に掠めたのは兎瓦けいの存在である。
「その化け物はどこに行った?」
警察官は答えた。水沼は隣で手帳に記入を続けている。
「それが証言によると、サメのような別の怪物が現れて鳥をこう、食い殺したと、、、。」
「シャチだろ?」
「どうなんですかね、いや、わからないですけど、、、。」
「20代ぐらいの女の子はいなかったか?」
警察官は困った。
「いや、たくさんいたと思います。」
「そうだよな、、、ち。」
近藤は真剣な表情で、警察官に言った。
「これはおれの責任だ。もう絶対に被害者は出さない。これは絶対に悪意のある人間の仕業だ。絶対に捕まえてやる。」




