かまうなはまるな暴れるな闇の声
「なので、まあ、兎瓦さんにはまた後日、本庁までお越しいただいてもいいですか?その時は近藤、水沼、そして山口、鈴木という者がおりますのでこれからの対応に関して。」
けいは背筋を伸ばして答えた。
「はい。」
警視庁を出ると、最寄りの駅を目指した。
けいは携帯を見た。誰かからのメール、着信はない。携帯から視界を前方に移した。
地下鉄駅へ続く入り口に誰かいる。
けいは、はっとした。先ほどの女の子だ。
三枝ひなた。
「鶴の恩返しという話を知っているかね。」
ひなたははっきりとけいに向かって発した。
けいは、バッグを落とした。
「マシンガン?」
けいがか細い声で言うと、それに対しひなたが大声を出した。
「きゃっははははははは!」
我に返ったけいは、身をよじらし笑うひなたを見た。宝石を散らすようなきれいな声で笑う彼女。とりあえず状況に困惑しているけいである。
「かわいい!!今の顔!なに、ちょっとピュア過ぎ!」
ひなたはそう言うと、固まっているけいに一歩歩み寄った。
「こんにちは、けいちゃん。三枝ひなたといいます。ご機嫌いかが?」
急ににこやかな表情になったひなたを見て、けいは初めて発す言葉が見つかった。
「マシンガン知ってんけ?」
ひなたはさらに一歩寄った。近い。
「ちょっと遊びに行こうよ、あたしと。」
質問に答えていない。
「増渕部長!!!!!」
近藤の叫び声がフロアに響き渡った。座ったまま無表情で近藤を見る増渕。
何人かの視線が集中する。
「兎瓦けい帰したんですか!?」
必死の形相だ。
「ああ。、、、なんだ?」
「いや、おれも話が!」
増渕は表情を変えない。
「お前が出てきても尋問にしかならんだろ。絞っても何も出て来なかったという報告は嘘か?」
「違いますけど!ずっと監視していれば何か怪しい行動が!」
「何を理由にあの子を監禁するつもりだ。できるわけないだろ。」
近藤は黙ったが、目力は保っている。
「発生と関連はあるだろう。間違いなくな。ただあの子が故意に出現させているかは別だ。」
近藤は同調した。
「わたしもそう思います。」
「どうしたもんかねえ。」
増渕の眼鏡が光った。
池袋駅を降りたけいとひなたは、不思議な距離を保って歩き出した。というか、けいがやや後ろを歩いている。ひなたは特に気にしている様子ではない。
けいはちらちらとひなたの様子を窺っている。振り向いてひなたがコロコロと笑った。
「いやいや、なんで?一緒に行こうよ。」
「、、、。」
「ほらあ!」
ひなたはけいの腕を巻き込んで、引き寄せた。ごった返す人波の中で二人は密着した。戸惑うけい。
「ひ、ひ」
「、、、ひ??」
「ひ、、なたちゃんは」
「ひなたでいいよ!あたしもけいって呼ぶから!」
「ど、、どうだべ。」
ここまで唐突に自分の領域に入って来る人間は初めてだと、けいは思った。横目で見ると、ひなたは笑顔で歩を進めている。まったく何を考えているのか、わからなかった。
地上に出ると、ひなたは尋ねた。
「ねえ。ちょっとけいの力、試していい?」
けいは自分の首元に気配を感じた。
「きゃあああ」
どこから現れたのか、誰も確認できなかった。
湧いて出るには余りにも巨大すぎる鳥の形をした化け物が、突如、人混みの中で もがくように暴れ出した。人を跳ね飛ばし、長い首をくねらせては行き交う人の脇腹や、首を尋常ではない体重を乗せ突いた。悲鳴とどよめきが、血と舞った。
最初に思いっきり吹っ飛ばされたけいは、地面に頭を打ちつけ動いていない。
「きゃあ!」
「はやく!、、ひ!」
何メートルもある怪物は、口を開け鳴いた。
雷鳴のような音圧が、近くの人間の鼓膜を潰した。
鳴り響く人の悲鳴とクラクション音。
鳥はコンクリートに足をめり込ませると、再び鳴いた。
倒れたまま動かない人が、数人いる。
首を含めない地面からの体長で、3m近くありそうだ。
鳥は足を上げ、そばにいたけいを踏み潰そうとした。
無くなっていた。
見ていたひなたは笑みを浮かべた。
鳥の足が突然無くなっていた。そして、そのまま後ろに倒れた。地面で待ち構えていたのは、三匹のサメである。鳥の足をくわえ、一匹が裂くと、隣で同様に横這いになっている別のサメがそれを丸呑みにした。三匹目のサメがのたうつように地面を滑ると、倒れている鳥の頭部を食いちぎった。同時に二匹も追いつき、鳥の腹に噛みついた。鳥はビクビクと体を揺らすのみで、すでに意思が宿っている様子はない。
想像を絶する光景を前に、大勢の人間が一言も発していない。
池袋の中心街で巨大な鳥の死骸を、サメが三匹で食らっているのだ。誰が想像した休日だろう。
ひなたは、倒れたまま動かないけいを見ながら言い放った。
「あんたの力を見せろっつったのに。なめてやがんな。」
しかし、満足した様子だった。
出所が不明な鳥を食らったサメ三匹は、粒子に還るように大気に消えた。
ひなたは、けいを見つめたまま言葉を振り下ろした。
「あたしが犯人だよ、兎瓦けい。捕まえてみな。」




