ともよ
「サトザクラ、どうだ?」
海が見えるその場所に、『見晴らし公園科学研究所』はあった。辺りは緑が多く、散歩や夏ならばバーベキューでもできそうだ。
研究所は決して大きくない。一階と地下一階のみで作られており、一階は図書室のような、資料が大量に置いてある部屋、そして事務室である。地下一階に実験室と、パソコンを置いてある調査室と書かれた部屋がある。
三枝ひなたは調査室で、パソコンを打っている。窓からは海が見え、判別しにくいが海沿いで人が歩いていれば調査室の窓からそれは見える。
現在は尼李柚宇がそこに立っているようである。海面から顔を出しているサトザクラと会話をしている。
サトザクラは答えた。
「何が?」
「比率だよ。一定か?」
「問題ない。桂は来てない。」
「ははは。」
柚宇はサトザクラのギャグに笑った。
「桂は苦手か?」
「苦手だ。普通にこわい。」
サトザクラは潮を上げた。
「まさか、こんなおとなしい状態のお前と話をすることになるなんてな、サトザクラ。」
サトザクラは目を合わせて、答えた。
「娘のためだ。」
「ああ。なあ、聞いてくれよ。けいの嫉妬がやべえんだ。一瞬、本気でいなくなればいいと思っちまった。」
「嫉妬?」
「ひなたとわたしどっちがいいとか、、」
「どっちがいいのだ、水素。」
「お前もかよ。」
波が寄せては引く。カラッと晴れた天気だった。柚宇が、腰を落としかがんだ。
「なあ!話は変わるんだけどよー。たまには求喰川帰った方がいいのかな。なんか桂が言ってたんだけど、ヨウフが忙しいらしいんだよなあ。」
「どっちがいいのだ、水素。」
「もうその話は終わったんだよ!どいつもこいつも!」
調査室の窓越しにひなたが、こちらに手を振っているのが見える。それを見て柚宇は立った。
「おれにとって、けいよりいい女なんてこの世にいるわけねえだろ。」
柚宇は研究所に戻っていった。残されたサトザクラは言った。
「ヒュ〜♬」
ひなたは、作ったサンドイッチを柚宇に渡した。
「どうぞ、阿修羅様。」
満面の笑顔である。柚宇は受け取った。
「ん。」
柚宇の好きなハチミツが、サンドイッチにはかかってないがお好みで、とばかりに横に添えてある。
柚宇が無表情で聞いた。
「おれがハチミツ好きなの言ったことあったか?」
「ううん。」
「、、、。」
「あ、ダメだった?」
「いや、好き。サンキュ。」
鼻歌を歌いながら、サンドイッチを図書室へ持って行った。それを見送りながら、ひなたは『すき!!!!!!!って言ったァアアア!』と思った。
ワカメを口先で遊んでいるサトザクラは、水面で通り過ぎる船を見た。
船に乗っている人達が騒ぎながら、自分を見ている。サトザクラは尾ビレを出して、フリフリした。
「阿修羅様!ちょっといいかな。」
分厚い本を読んでいる柚宇の背中にひなたが話しかけた。柚宇は振り向かずに答えた。
「おー。」
印刷した紙を、ひなたは持って来た。
「『地球返し』でイシアガンが『鉄』の借農を持つオレンジとして解釈しているのは、『鬼女』と一致しないですよね?」
柚宇が答える。
「一致しない。こっちの人類の分類は恐ろしく細かい。見事なもんだ。ただ、オレンジを借農で分けるということもしていない。まあ、3つに分かれてないからな。」
「そうですよね。」
「そうだな。だが実質的には大差はない。外見が同じであれば、借農の種類まで変わるということはないだろう。いいところに気づいたな。」
「ありがとうございます。」
「恵比寿だったか?興味があるのは。」
「はい!」
「だったら桂に聞いたらいいかもな。あいつが担当だから。」
「あ、はい!実はもう聞いちゃった。。。」
「あれから会ったのか??桂と?」
「はい!、、、最初はちょっと迷惑そうだったけど。」
「すげーな。ははは。」
印刷した紙に何かを書くと、ひなたは部屋を出て行った。
おもむろに、柚宇は立ち、近くにある棚を物色し始めた。『The Encyclopedia of Mammals』(訳題:哺乳類の図鑑)という本を抜くと、調査室へ向かった。
「ひなた。こっちの鬼女の分類に関しては、まずはこれを読んでみるといい。」
「わあ!!!阿修羅様!ありがとう!!!」
「ああ、、、けっこうおもしれえぞ。」
柚宇は調査室を出て行こうとして、振り返った。パソコンに向かっているひなたに、言った。
「おい。、、、あんまり、、、無理するなよ?」
ひなたが全く心当たりのない顔で、柚宇を見た。
「全然大丈夫ですよ??あたし顔色悪いですか??」
「そうじゃないけど。いや!べつにおれの知ったこっちゃねえんだけどさ!昨日とかもあんまり寝てねえみてえだから、、、!べつに惑星巫天は年中無休でビオラ回してるわけじゃねえぞ!?誰かが疲れてたらカバーもできるし、ちょっと前も『鉄』の優美が風邪引いてな??けいに手伝ってもらったりしたんだ。あんまり気負うなってこと!じゃあな!!」
調査室のドアは強く閉められた。
晴れた空が、自由に小鳥を遊ばせている。窓の外を横切ったのだ。ひなたは、叫んだ。
「ちきしょう!!!惚れる!!!!」




