もり
「おい、何やってんだ、止めろ止めろ、早く!」
「いや、無いんです!留め金が!!!、、、なんで??」
捕鯨船『さざなみ丸』は外洋で、アクシデントに見舞われていた。
大量の黒いオイルのような液体が、船内のあちこちに浸水し始めたのだ。海水ではなく、黒い液体のみの侵入に、船員は得体の知れない恐怖と、焦りを感じた。
船員の一人が大声で指摘した。
「おかしいです!!設計が変わってます!これは『さざなみ丸』じゃない!」
一番年配の男が返す。
「馬鹿野郎!これは『さざなみ丸』だ!何十年クジラを共に陸へあげてきた相棒だと思ってる!」
「だって、ここの鉄とか新しいですよ!見てください!!!」
年配の男は見ようともしない。
「原因を船のせいにしてる暇があったら、」
誰かが悲鳴を上げた。
全員がそこへ向かうと、その若い船員は必死に自分のスネを押さえている。苦しそうに身をよじり、バランスを崩し甲板に転倒した。
「大丈夫か、どうした!?」
「、、、!!」
スネは真っ黒に変色している。液体に触れたのだろうか。
「洗い流せ!」
真っ黒い皮膚の組織から、別の動物の組織が飛び出した。激痛と共に若い船員は叫んだ。
「うわあ!!!」
その組織は眼球を宿した目、として知られる感覚器官に見える。それ単体で通常存在するものではないので、それかどうかは疑わしい。目らしきものの周りには皮膚のようなものも見える。
年配の男はその組織と目が合った。
突然、カチカチ、とした連続音が船上の大気を揺らした。
年配の男は言った。
「マッコウクジラだ、、、!」
若い船員は苦しんでいる。他の船員が水をかけるが、黒い液体はどんどん濃さを増しているように見える。
組織は音を発した。
「クズレタユメニ、、、スガルノハ、、」
聞き取りづらい人間の音声のようなものを発している。苦しむ若い船員に、他の船員はどうしてやることもできない。
「ウタニココロヲ、、、ムスブカラ、、、ヒャハ、、、ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ」
笑い声が、止んだ。
また別の組織が『発生』した。クジラの尾ビレである。振り下ろされたクジラの尾ビレは、一撃で『さざなみ丸』を大破させ、海底へ沈めた。
「おい、近藤。ちょっといいか。」
増渕部長に呼ばれた近藤捜査官は、増渕部長のデスクへ向かった。
「はい!」
「ミハラシ所長の連絡先はわかるか?」
近藤は驚き焦った。
「え、、、また出ましたか!?化け物!」
増渕は首を横に振り、連絡先が必要な理由を告げた。
「違う。ロー・オブ・スリーに関して確認したいことがあるだけだ。」
近藤は連絡先を紙に書いて渡した。すぐさま、増渕は電話をかけた。
「もしもし。警視庁の増渕と申しますが、尼李所長のお電話番号でしたか?電話にて失礼致します。近藤の上司の増渕と申します。先日、近藤から自然法則ロー・オブ・スリーの概要をざらっとだけお聞きしたのです。はい。いえ、近藤は馬鹿なのでそこまで理解していないと思います。」
近藤はショックを受けた。
「大変興味深いと思いました。今度、そちらの研究所にもお邪魔してもよろしいですか?あ、、、あ、ありがとうございます。はい、ありがとうございます。一点だけですね。確認させていただきたい点がありまして」
増渕は、若干の前傾姿勢になった。
「物質を音によって新たに作り替えてしまうということで。はい、その音は6種類あるということなんですね?どうなんですかね。例えば、その法則を用いて悪意のある者が、例えばですよ?武器、、、のようなものを作るのは可能なのですか?はい。はい。、、、はい。あ、三枝ひなたのシャチがそれを制御している。あ、、。」
増渕は驚いた顔をした。端的に言って、ぶったまげている。
「そんなことが!!!、、、そうですか。では、ロー・オブ・スリーを使った犯罪は起こらないということですね?ありがとうございます。はい、是非。あ、はい、兎瓦さんにも増渕からよろしくとお伝えください。では、また近い日に、はい。はい、失礼致します。」
ゆっくりと増渕は電話を切ると、目の前で姿勢よく立っている、近藤を見た。
目を開き、増渕は言った。
「あのシャチ、マジ!?」




