ほしたち
「すいません、、、でした。」
冷ややかな目で、桂は目の前で俯く三枝ひなたを見た。物を見る時と、変わらない温度だ。
「、、、いや、あたしに謝られても。ウチの水素のが気を揉んでたから。」
ミルクシェーキを吸いながら、桂はひなたと目は合わさず、答えた。早く、消えろ、と心の中で呟いているのがよくわかる、冷たい態度だった。
「炭素担当、、、の桂様にお会いできるなんて、、、あの、あの時はすごく、、、そんなに、、、何て言うか」
「あ!???」
「、、、。」
桂の容赦ない態度に、ひなたは消えて無くなりそうだ。ひなたは顔を上げた。
「あたし!!!惑星巫天になりたいんです!!!桂様みたいに恵比寿を扱えるようになりたいんです!」
「、、、。」
桂は悪い気はしない。
「『炭素』が、いいの?」
「はい!!!あたし、物心ついた時から他人の能幹を見るのが好きで、、、!」
桂は吹き出した。
「能幹を見るのが好き??初めて聞いた、」
「はい!キレイだなって、透き通ってて、、、で、調べたらあれは桂様が求喰川の境界各層を毎日綺麗にしてるから、オレンジの酸素も純度が高いんだって。」
桂の顔が赤い。『怒り』ではなさそうだ。
「実際はあたしほど神経質にやんなくてもいいのよ。火弥とか超適当だし、あいつは。もっと他のことにも時間を割いてくれって浄介様にも、よく」
「そんなことない!!!桂様がお作りになった恵比寿はあたしのより全然キレイだった!おこ、おこがましいですけど。」
「、、、。」
桂は飲み終わったシェーキをいつまでも、吸っている。
「いつ、求喰川には帰るの?」
「あ、、はい!いや、もうちょっと居ようかなって。」
「ぷ。指名手配犯じゃん。」
「あ、、、それなんですけど、、」
「近藤捜査官、話がある。」
柚宇は警視庁にいた。近藤と向かい合っている。
「尼李さん、姿勢を崩してくれ。なんだ、三枝ひなたのことだろう?」
「三枝ひなたを逮捕しないでくれないか?」
横で立っている山口が、大笑いした。
笑い終わって、言った。
「失敬、、、。無理とわかっているからそんな顔をしてるんだな、尼李所長。ああ、無理だ。」
沈黙が追った。近藤は、下を見て腕を組んでいる。
「許されない行為をした。わかってる。」
山口が口を挟む。
「あの三枝ひなたが化け物を出現させたという証拠は確かにない。だが、本人がそう認めているんだ。何よりの証拠だ。」
近藤は黙っている。
「そしてシャチという猛獣を使役し、市民を恐怖に陥れた。一体いくつの罪が適用されるか。無理だ。なんだ、劇団ミハラシと繋がりがあったのか?三枝ひなたは。そうなると、劇団ミハラシにも捜査の手が入ることになるが。」
「山口。」
「仕事をしろ!近藤。無茶苦茶だ。最後まで無茶苦茶だったな、この事件は。」
近藤が重い口を開いた。
「あんたらの知ってるロー・オブ・スリーというまだ立証されていない自然法則に基づいた犯行だと言ったな、尼李さん。」
柚宇は真っ直ぐ近藤を見つめ、頷いた。
「その自然法則は、現実社会に適用することは可能か?」
山口が静かに言った。
「自然法則なんかじゃない。ただの手品だ。」
柚宇が答える。
「ああ、できる。ロー・オブ・スリーは、実際は月の引力が強かった古代の地球を支配していた法則だ。6つの音、、、炭素、水、酸素、塩素、水素、鉄と3つの物質、ジェトーズ、カンスマーズ、イシアガンから成る。6つの音の配置で、それぞれの物質の性質が決まる。」
「それは兎瓦けいも言っていた。見えるものが水素、触れるものが炭素、聞こえるものが時間。」
柚宇は続けた。
「ああ。音の配置を変えると、ジェトーズの場合『水』を強調した配置と『水素』を強調した配置が主だ。それぞれ、生物を構成するジェトーズ、岩や土など環境を構成するジェトーズとなる。共に『見える』ものだ。、、、座ってくれ、山口さん。」
山口は座った。
「そしてカンスマーズは『酸素』を強調した配置と『炭素』を強調した配置がある。生物を構成するカンスマーズと、境界各層、、、水と空気の間、空気と岩の間など物質の間に存在するものが環境を構成するカンスマーズだ。『触れる』ものだ。」
近藤は前にのめり込み、集中した。
「最後のイシアガンは『鉄』を強調した配置と『塩素』を強調した配置がある。生物を構成するイシアガンと、大気潮水、、、大気と海など環境中の水のことだ。」
皆、黙って聞いている。
「つまり、音によって、、、」
山口が驚嘆の声を上げた。
「音によって全ての物質の性質が決まるということか!」
柚宇が頷いた。
「そうだ。音によって、全ての物質は結合し、分解し、結合する。それが古代の地球、求喰川だ。」
近藤が聞いた。
「音で、、、化け物を作っていた?」
柚宇が頷いた。
「そうだ。そして、音で壊していた。なんてことない。音の配置を変えれば、結合は解かれる。近藤さん、あんたも一度できたはずだ。」
近藤は息を呑みながら、車でシャチに襲われた時のことを思い出した。
「そして、一番大事なのは、自分がこの法則に支配されているのではなく、自分がこの法則を自由に使いこなせると信じることだ。信じる心は音を変える。」
山口が言った。
「もしあんたが言ってることが本当なら、この物質社会は大変な変化を遂げるな。」
近藤が真剣に頷いた。
「それどころか、医学だって変わる。あらゆる概念が覆される。」
柚宇が首を振った。
「実際は現代社会でそこまで普及させるのは難しい。だが、古代では確かに現実にあった常識だ。3つの月の力によって。」
山口が椅子で足を組んだ。
「、、、まあ!それとこれとは話が別だからなあ。何かしら三枝ひなたがロー・オブ・スリーを用いて社会貢献できるとしても、犯した罪が許されるわけではないことは、あんたもわかってるだろう?」
柚宇は同意の目を向けた。
「もちろんだ。三枝ひなたを刑務所ではなく、別の場所で収容するんだ。」
「そんなわがままは通らない!、、、と言いたいところだが、、、どういうことだ?」
山口が聞いた。柚宇が答えた。
「劇団ミハラシは研究所を持っている。そこに収容する。」
「ダメだ!それは収容とは言わない。」
柚宇が強い口調で言った。
「今後、同じような事件が起きた場合、三枝ひなたの能力があれば必ず未然に防げる。」
近藤は笑みを浮かべ始めた。
山口が疑り深い顔で聞いた。
「それは一体どんな能力だ?」
「ああ。三枝ひなたというより、あのシャチのことだ。」
近藤が聞いた。
「シャチを研究所で飼うのか?」
柚宇は頷いた。
「あのシャチはロー・オブ・スリーのすべてをコントロールできる。信じられないかも知れないが、そのコントロールできる範囲はこの惑星全域に及ぶ。また、誰かが化け物を作ったとしても、というか作れない。」
近藤は勢いよく、笑みを浮かべながら頷いた。
「物質の比率を常に一定にするように、とひなたからシャチに命じさせれば、あのシャチによって永久にこの世界は平和が保たれる。」
山口が笑った。
「世界平和と懲役を天秤にかけて来やがった!参ったな、近藤。、、、逆にそれを承諾しなければ警察は犯罪を未然に防ぐ処置を怠っ、、たと、、、」
近藤と山口は互いに笑顔で、アイコンタクトをした。近藤が、ため息と共に立った。
「おれたちの負けだな、山口。」
「たち!?近藤、お前さっきから完全に向こうサイドだったろ!おれの孤独感を知れ!」
「ぎゃっはっは!」
二人は驚いた。柚宇が泣いているのだ。
「どうした、尼李さん!確かに上に聞いてみなければ、まだわからないが!」
「すまない、、、!」
柚宇の涙は流れ続けている。
山口はハンカチを差し出した。
柚宇は振り絞るように、言った。
「求喰川の住民が迷惑をかけて、、、本当にすまない、、、!」
近藤は優しい目で、柚宇という男の肩に乗っているとてつもなく硬く強い使命感を見た。
近藤は顔を上げない柚宇に、言った。
「尼李さん。今度、ご飯でもどうだ?美味いとこ知ってるんだ。」
「最初はモバイル。。。(女の子)」
「(もう一方の女の子)なんとなく2かなー(そのあと、あくび伸びをする)。」
「(3人目の女の子)あ!ダメだ!」
ちなつとけいが、宇都宮のカフェで同じテーブルに座っているひなたが上げた声に反応する。
「どうしたの?ひなた。」
「宝くじ外れたんけ?」
「ちが〜う、ああ、まだ間に合うと思ったのにぃ。」
ひなたは何かの雑誌を見ている。ちなつとけいは覗き込んだ。
『トイストーリーカフェ』『期間限定』とある。確かに期間は過ぎているようだ。
「そんなんやってたんだ!え、かわいー!」
「ひなた、あれだべ?バズだべ?」
「え、何言ってるのかわかんない。バズだべ?って何?」
「あ、ひなたね。『けい語』を翻訳すると、『ひなたの好きなキャラクターはバズでしょ?』」
「なんだべ!その感じ!」
「え、全然わかんなかった。ていうか、全然違う。あたしあれだもん。エイリアンの3つの。」
「キモー!一番キモいヤツだべ、あれ!」
「キモくない!!えー、ちなつ、かわいいよね??」
「普通にかわいい。けいがおかしい。」
「なんだべーー!」
「けいちゃんは何もわかってないからなあ。阿修羅様の気持ちとか。」
「花男の気持ち?なに、わかって何かいいことあんの?」
「あたしのが絶対タイプだと思うな、阿修羅様。」
「なになになに!阿修羅をめぐる修羅場ってこと??ぷ。」
「あー出ちまった。今日も出ちまったよ、ちなっちゃん'Sオヤジギャグが。」
「だって阿修羅様嬉しそうだったよ?あたしが最初に、、、あああああ、かっこいいな阿修羅!けいちゃんから取っちゃおっかな。多分できるな。」
「なんだべ。いい加減ムカついてきた。」
「カンカンカーン!いいよ、二人とも。好きなだけやっちゃって。」
「っていうかさあ、絶対人類の女の子知らないからけいちゃんとか行くんだよ。他の選択肢知らないから。」
「うるせーバーカ!このバーカ!」
「おっとー!!!ひなたが優勢です!このまま押し切るか〜!?」
「あたしは話も合わせられるし、求喰川の。」
「バーカ!」
「おっとー、けい選手『バーカ』しか返せません!これは苦しい!」
「求喰川のあそことか、あそこに阿修羅様と行きたいなあ。」
「あ、、っていうかね、やるよ。全然。どうぞ、あげる。」
「開き直ったー!けい選手、これは卑怯だー!」
「阿修羅様はねー、あたしみたいな長い髪が好みなんだって。」
「ふうん。」
「あときっとねー、あたしみたいにちゃんと阿修羅様を立ててあげられる女の方が、絶対好きだと思うなー。」
「ふうん。」
「昨日なんかねー、阿修羅様言ってたもん。なんでおれの喜ぶことがわかるんだ!?って。」
「、、、。」
「あたし言ったの。それはね、あたしは生まれてからずっとね、阿修羅様の水素をずっと見てきて、あなたのことなら」
「柚宇はわたしが一番なの!!!!!わたしが一番いいの!!」
「おい、けい、泣くな。はい、決着〜。」




