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ひなた  作者: Hiro
なかむら
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21/28

オルタナティブロック

サトザクラはひなたをくわえて、湖のある森から飛び立った。ワカメは痙攣させたままだ。

いつの間にか立ち込めていた雨雲から、ポツポツと雫が落ちて、サトザクラはそれが娘の顔に当たる度に、娘が目覚めてくれることを願った。

「ひなた。ひなた。」

ひなたは、起きない。


けいの携帯が鳴っている。

「もしもし、どしたん?」

(けいか。そこに桂いるか?)

「ううん、いないよ?」

柚宇の声である。

ちなつが雑誌を置いて注意をけいに向けている。

(ウコンザクラが妙だ。)

「妙って何だべ、え、ウコンザクラ!?」

(ああ。泣いてる。)

「えっと、、、な、なんで泣いてんだべ!」

(わかんねえ。なんでだと思う?けい。)

「わたしにわかっかい!え、ひなたに何かあったんかな。」

「ああ、おれもそう思う!」

「「きゃあ!!!」」

けいとちなつが同時に叫んだのは、窓から一匹のアマガエルが部屋の中に入って来たからだった。

カエルはテーブルでポーズを取った。

「ちょっと一緒に来い、けい!」

驚かされたことにムカついたけいとちなつは、そばにあった新聞紙を丸めた。


「ひなた。ひなた。」

雨が強くなってきた。ひなたは、力なく口を開いてやはり微動だにしない。振動に弄ばれるのみだ。

「優美と己(つちのと)と火弥を呼んでもらおう。確か比率を戻せば、目を覚ますはずだ。」

サトザクラは強く尾ビレを振り、同時に街の上空から小刻みに石を打つような音を発した。

「どこだ、惑星巫天。」

サトザクラは、背ビレから生やした巨大な葉っぱを重ね、それで上からひなたを丸ごと包んだ。

「どこだ、惑星巫天。」


「、、、雨、強くなってきたね。」

兎瓦けいは、自分のアパートの屋上で傘をさして立っている。肩にはカエルが腕を組んで座っている。

「ほんとに来るの?」

カエルが返事をする。

「ああ。」

けいは広がる雲と降ってくる雨を見つめた。

「柚宇。覚えてる?一緒に電車乗って千葉行ったの。」

「ああ。」

「あの時、柚宇が貝からサメとアザラシの幽霊出したじゃん?あの子たち元気け?」

「ああ。」

けいはカエルをデコピンで打った。カエルは肩から落ちそうになった。

「何しやがる!イシアガン!」

「あ!また『人類』って言った!ふん、いいもん。」

「貝から幽霊?トラジとホオジロウのことか?ああ、あいつらは『灯籠流し』で」

音速を超えるかのようなスピードで、けいと柚宇の目の前に全長9mのシャチが突然現れた。

けいはびっくりして、濡れたコンクリートに尻もちをついた。

サトザクラは、目に雨ではない水を溜めている。

カエルは腕を組んで、シャチを睨み上げている。

サトザクラの口には、葉っぱでくるんだひなたが動かないまま、くわえられている。

雨が強い。

「わ、、、わくせ、巫天、、、ひなたを助けてくれ、頼む。」

サトザクラがそう言うと、カエルがそのサイズからは考えられないような大声を繰り出した。

「いやだ!」

けいはカエルを見た。

サトザクラは焦っている。

「説教なら、あとで聞く!頼む!息をしてないんだ!」

カエルが冷徹に言い放つ。

「その女は、おれにとってこの世で一番大切な兎瓦けいを殺そうとした。死んでくれて、大いに結構だ。」

サトザクラは、垂れ下がるワカメの一部から包丁を出した。包丁のような植物の一部ではない。製品の料理包丁そのものだ。

高速で、蔦で絡めたそれを兎瓦けいの首元に突き出した。

「ひなたを助けてくれれば、求喰川におとなしく帰る。だから、頼む、求喰油巫妬(あさりゆみと)。娘を助けてくれ。」

別の名で呼ばれた柚宇は、腕を解いて、カエルのまま立った。

「なんだ、その態度は。」

地響きが起こった。

「サトザクラ。兎瓦けいに傷一つ付けてみろ。」

雷がどこかで落ちた。近い。

「ひなたを助けてくれれば、何もしない!」

「だから、それがものを頼む態度かと聞いてる。その女の首をへし折るぞ。」

「サトザクラ!」

雨に濡れながら、刃物を向けられたまま、けいはサトザクラの名を呼んだ。

「苦しいけ?」

サトザクラは目を潤ませたまま、けいの顔を視界に収めた。

けいは笑っている。

「苦しいんけ?」

「優美と!己と火弥を呼んでくれ!!!ひなたの中の鉄と水と酸素の比率を調整すればまだ」

「大切な人を失うのはつらいけ?」

サトザクラの視界の中で、ぼやけた兎瓦けいが別の人物に見えた。

「眞弥!お願い!ひなたを助けて!」

けいは答えた。

「いいよ。」

けいは雨の中立ち上がると、首元に触れていた包丁がけいの首元を少し切った。

「サトザクラ?わたしおめえのこと大っ嫌いだったんだけどよ?」

サトザクラはコンクリートの上のひなたに口先をつけている。

「『嫌い』くらいに変わった。」

無邪気に笑顔を向けるけいに、サトザクラは祈るような目を向けている。

「眞弥、、、お願い。」

「はー?わたし眞弥ちゃんじゃないんだけどな。」

柚宇は、異変に気付いた。

雨が、

「サトザクラ?」

一度落ちた雨が天空に帰って行っている。カエルは腰を抜かしてけいを見た。

「、、、お前、、、ロー・オブ・スリーを、、、」

重力に逆らって、上へ降り続ける雨の中、けいが言った。

「ひなたちゃんを人類が傷つけて、ごめんね?サトザクラ。」

雲から光が差した。真っ直ぐ、三枝ひなたに注がれた光は焼けただれた身体を照らした。

目をつぶったけいは、言った。

「イシアガン。」

呪文はエコーとなり、ひなたの身体に触れた。辺りでけいの声が反響している。

カエルは腰を抜かしたまま、子供のように言った。

「これが、、、『恩返し』。」

響き続けているけいの声は、次第に成分を変え、段々とけいの声とは認識しづらくなった。

音は延々と伸びるただ一つの音階になり、次第に音量を上げた。

サトザクラは、叫んだ。

「ひなた!!!」

雨が上がった空の下、涙でボロボロの父の顔をひなたはその視界に収めた。

まだ、音は続いている。

けいはゆっくり息を吸って吐いた。

カエルはけいの顔を見た。

「けい!やめろ!!!!!!!!!!!」

音は止まない。

半開きの目で、三枝ひなたはけいの姿を見た。

風船のように力なく、けいは倒れた。

「けい!けい!!」

カエルは倒れたけいの首によじ登った。

けいは笑っている。

ひなたは身体を起こすと、記憶を辿り、なぜ自分がここにいるのか、どこにいるのか、なぜけいが、

「けい!嘘だろ!けい!」

なぜけいが、

「、、、!ぐ、やだ、、、!けい、、、!」

なぜけいが、

「起きて、、、」

すっくとひなたは立ち上がった。

「何してるの?兎瓦けい。」

倒れているけいへと、ひなたは歩を進めた。ひなたの身体には、傷の一切が見当たらない。

「う、、」

カエルはけいの冷たい頬に顔を押し付けている。

「何勝手なことをしてるの?」

ひなたはけいを見下ろした。

「あたしを助けたの?」

今、やっと音が止んだ。

「おい、なんとか言え、栃木弁。」

カエルに構わず、ひなたはけいの胸ぐらを掴み上げた。

あり得ないほど軽い。ヒトの重さではない。

カエルは何も言わなくなった。

「おい。」

けいは、笑ったまま冷たくなっている。

「おい。」

ひなたの目に大粒の涙が溢れた。

「けいちゃん、、、起きて。」

轟音が鳴り響いた。

余りの音の大きさにひなたは、けいと共に倒れた。

サトザクラの耳から垂れ下がるワカメが破れている。

「ひなた。」

普段と全く違う音色で、サトザクラは喋った。ひなたは、見ている。サトザクラの顔ではなく、破れたワカメの方を見た。

「ソノイシアガンヲタスケタイカ?」

ひなたは、立ち上がれないまま這いつくばってワカメへ駆け寄った。

「鈴音様!あたしもう『地球返し』には来ません!もう馬鹿なことしません!」

「ヒナタ、、、モウバカナコトシマセン、、、ハナゼダ?」

ひなたは、泣きながら自分の胸を抑え叫んだ。

「わかったんです!あたし、けいちゃんになりたかっただけなんです!けいちゃんみたいになりたかった、、、だ」

「ヒナタ、、、ナゼソノイシアガンニナリタカッタ?」

「え、、、」

ひなたは涙が止まらない。

「友達がいっぱいいるけい、、、ちゃん、」

一瞬、太陽の光が瞬きをした。1秒だけ、地球は漆黒の闇に包まれた。

「ヒナタ、、、ケイ、、、トトモダチニナリタ、、、イカ?」

太陽の光が、強まり大地を焼き始めた。見る見る太陽の大きさが大きくなっている。

熱い。

灼熱では、生温い。

「ヒナタ、、、オマエガモシ、、、ウソヲツケバ、、、コノママ、、、チキュウヲヤク」

カエルは何の抵抗をする気力も残っていない。

ひなたは、どうすればいいかわからず、ワカメを見つめるのみだ。

「ヒナタ、、、ケイトトモダチニ」

「なりたい!!!!!!!!!!!!!けいちゃんと友達になりたい!!お願い、地球様!けいちゃんを助けて!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ウサギガワラケイヲ助けてやろう、ひなた。」

けいは目を開けた。

時が止まった。

「おお、ひなた、顔近いよ。」

けいはひなたの頬をつねった。

サトザクラは目を覚まし、けいとひなたを見た。

青年の姿になっていた柚宇は、けいとひなたを見た。

サトザクラと柚宇はお互い、自分にとっての地上の女神を見た。

「、、、、、、、、、、、け」

柚宇とサトザクラに同時に突撃され、けいとひなたはまた倒れた。

「いてえ!何すんだべ!花男とバカシャチ!!!」

「うるせえ!!!こうしてやる!」

「ひなた!どこも痛くないのか?」

「大丈夫だよ、お父さん。」

「おー、いつの間にか雨止んでるべ、これ。」

「おめえがやったんだよ、このイカレウサギ!惑星の法則守れ!」

「けいちゃん、ほっぺ柔らかい。」

「おー、ちなっちゃんお墨付きなのよ、わたしのほっぺ。」

「おれもさーわろ!」

「どご触ってんだべ、エロ女装趣味カエル変態花男!!!」

「あ、阿修羅様!今、あたしのそんなところをお触りに、、」

「娘を汚したな!求喰油巫妬!!!」

「はっはあ!!!これがシャチにはわからぬ人間の醍醐味よ、サトザクラ!」

「いいから、もう立つべよ、みんな。」

「けいちゃん?」

「なんだべ?」

「あたし、ひなた、よろしくね?」

「気色悪い!!!!!!!」

「、、、は?」

「気色悪いべ、いきなりそんな豹変されても。」

「、、、、、、、、、、、っなんだと、兎瓦けい!もういっぺん言ってみろ!!あ!?」


完!

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