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「ひなた。どうする?」
湖に足を入れているひなたに、サトザクラが聞いた。
空は晴れている。
「、、、。」
「求喰川に一緒に帰るか?」
「うん。待ってよ、今考えてるの。」
サトザクラが普段より若干低い声を出した。
「何を考えてるんだ?」
「、、、やなの。負けっぱなしは、、、。兎瓦けいに。」
また、トンビが鳴いた。
「兎瓦けいは、お前より強いぞ、ひなた」
「わかってるよ!何か、、、一つくらい、、、あいつの大事なものを奪いたい。」
サトザクラは、茂みから身体を起こした。なんと触手のような蔦を背ビレから生やし、伸びた何本かのそれで地面を歩いた。
正体不明の生き物以外の形容を見つけにくい。
歩を進めて、ひなたの隣に身体を下ろした。
「兎瓦けいの大事なものを奪うと、何が変わるんだ?ひなた。」
「何もないよ!殴られて悔しいだけ。」
「、、、。」
サトザクラは更に声を低くした。
「おれが初めて兎瓦けいを認識した日のことを覚えてる。その時は挨拶もしてないし、殴られてもない。その日、丁度『雨』の日だったんだ。」
「そんな時でも、兎瓦けいを八つ裂きにしなかったの??」
「マウヅがかばったんだ。あの時、あいつが陸に上がって兎瓦けいをかばっていなければ、おれは兎瓦けいを殺してた。」
「、、、それがどうしたの?お父さん。」
サトザクラは顔をひなたの方に向けた。
「お前には大事な人はいるか?」
空が青い。
「兎瓦けいが神岡浄介を崩すことができたのは、大事な人を守るためだったからだ。」
ひなたが吹き出して、笑った。
「マウヅがそうだって言うの?頑固ジジイ、、、求喰川でも嫌いなヒトの方が多いんじゃないの!?何が『マシンガン』だ、バァカ!」
「、、、。」
ひなたはサトザクラの問いに答えた。
「大事な人、、、?いないよ、そんなの。あたしは捨て子だもん。『阿修羅殺し』に紛れ込んだこの時代の人類が、捨てていった用無しだもん。」
サトザクラは何も言わない。
「だから、憎くて憎くてしょうがないんだよ、兎瓦けいが!あんなにみんなにいいね、いいねって言ってもらって!!すごいね、すごいねって褒めてもらえて!!」
サトザクラは、背ビレから生えている蔦からさらに葉っぱを生やした。
「あたしとは誰も遊んでくれなかったのに、なんでよそ者のあいつがチヤホヤされんの!?そんなのおかしいじゃん!いきなりある日やって来て!ちょっとゆしちゃんとかこころちゃんとかオルカトリームと仲良くなって!!!あたしだって喋ってみたいよ、ゆしちゃん達と!!イルカ達だって何よ!みんな兎瓦けい兎瓦けい兎瓦けい兎瓦けい!!!おまけに阿修羅様がボーイフレンド!?死ねよ、」
「ひなた。」
いつも無表情なサトザクラが力いっぱい笑っている。
「泣いたら、かわいい顔が台無しだ。」
葉っぱをひなたの頭に乗せ、さすった。
「おれにとってはお前が一番だぞ、ひなた。求喰川に来てくれてありがとう。」
立つ音が極端に少ないその静かな湖の反対側で、警察官が二人、火炎放射器を持って物陰に潜んでいた。
「まあ、とりあえずそれで様子見よ。」
隣にいる兎瓦けいの携帯を耳に当て、桂が誰かと喋っている。
(お前、、、サトザクラのこと、そんなに詳しかったんだな。)
電話から漏れている声は、柚宇のようである。
「は!嫌いだからよ!警察には、ああ言っといたけど、あのオタンコナスは退屈なだけじゃ帰らないわね。」
(桂。いいんだ、じっくりで。変に刺激をしなければ、そこまで大規模な破壊はしない。)
「なんでそう言えるの?そもそも三枝ひなたが『地球返し』に来た理由が不明なら、いつ何をしでかすか分からないぐらいの気持ちでいなきゃダメよ!一刻も早く追い返すわよ。あたしがこっちで炭素を好きなだけ使えるうちにね!」
(はい。)
「まあ、、、わかんないけどね。あたし、あの三枝ひなたに一生トラウマ起こすぐらいの恐怖を、あの女の能幹に植え付けたから!ひひひ!」
となりのけいが、笑いを浮かべながらゾッとした。
「パパ、あたし帰るって言って逃げ帰るかもね!けひひ。、、、まあ」
急に、桂はトーンを落とした。
「求喰川であの年齢になるまで生きられたんだから、精神力はあるんだろうけどね。」
(そうなんだな。あんまり分かんねえんだよ、おれ。オレンジがどんな生活してんのか。)
「海は、、、普通に食うか食われるかで大変だけど、陸は別の意味で大変ね。陸で生活する鬼女は念悦、能幹、借農が全部分かれてるじゃない?」
(だな。)
「、、、え?わかんない?」
(え?)
「柚宇。動物に興味ないでしょ。」
(動物の生活には興味ないな。)
「同じことよ。あのね、剥き出しなのよ?借農が。みんな言いたい放題よ。念悦から出る欲望と、能幹から出る他者への反発が出し惜しみなく四六時中発散されてんのよ。あの中で、生活するのは普通の人間じゃ耐えられない。物心ついた時から、周りの鬼女から好きなこと言われてきただろうね。お前だけ匂いが違うとか、お前と遊ぶなって言われてるとか、」
(マジか。)
「惑星巫天だけじゃないのよ、大変なのは。柚宇さん。」
(そうは思ってねえよ。)
「いや、あなたと冷音はどこかそう思ってる。」
(思ってねえよ。)
「思ってる。」
けいが、まあまあ、という仕草をした。
「話を戻すけど、あたしはサトザクラを追い返すための作戦をもう一つ考えてるから、期待してて!」
(桂。)
「ん?」
(のってる時のお前はほんと、いい女だな。)
「あたしは未来永劫いい女よ。気色悪いから二度と言わないで、じゃあね。)
(ひど!)
ブチ。
けいが桂を見て言った。
「桂ちゃん!なんでそんな顔、真っ赤!?またひどいこと言われたんだべ!?」




