雨宿りだぜ
ビルが軋んでいる。
「ひなた。何か欲しいものがあったら、取って来ていいぞ。」
「ありがとう。でも、特にないかな。」
宇都宮駅前のビルの7、8階辺り。ビルの外壁にびっしりと正体不明の植物が、へばり付き素早く蠢いている。宙に浮くサトザクラの耳から垂れ下がるワカメから、産まれ続け7、8階辺りのビル外壁を一周して包んだ。ビルの塗装が剥がれ、パラパラと下階に落ちて行っている。
ひなたは父の背中に乗っている。
地上では、行き交う人と停電と異常音に驚いてビルから出てきた客達がサトザクラ達を認識し始めている。
皆、何か分からない。
しかし、見る見る外壁をカバーする面積を増やしていくそれに、恐怖を覚えずにはいられなかった。
「何見てんだ、あいつら。そんなに珍しいのかねえ、弁天が。」
違法行為に自覚が無さすぎるひなたの言葉に、サトザクラが反応した。
「よし、できた。、、、どうなんだろうな?」
警察はまだ到着していない。
ふいに、サトザクラが言った。
「なに?」
ひなたが能天気に聞いた。
「どうしたの?」
サトザクラが答えた。
「炭素が言うことをきかない。」
能天気なまま、ひなたが言った。
「え?手伝ってあげるよ、おとう、、、」
瞬間、ひなたは今まで感じたことのないような悪寒を感じた。
外壁に張り付いたワカメの一部が突然、形態を変化させ小さな百合の花を咲かせた。
目の前に咲いた百合の花を見て、ひなたは「え」と言った。サトザクラが尾ビレを振り上げ、ひなたを乗せたまま身体を翻した。
「桂が来てる!!!逃げるぞ、ひなた!」
サトザクラはそう言って、耳から垂れ下がるワカメをビルの外壁から引き剥がした。
小さな百合の花は、花びらの奥から太い爬虫類の尻尾のような組織を奇怪な音と共に、高速で吐き出した。
爬虫類の尻尾は、逃げるサトザクラの背に乗っているひなたの首を捉え、力の限り巻き付いた。
「ぐぅえ」
爬虫類の尻尾は、ひなたをサトザクラから引き離し4m近く広がった百合の花の中央に引き寄せた。
締め付ける力は強くなっているようで、ひなたは必死にもがきながら尻尾をほどこうとしている。
百合の花が喋った。
「惑星守護色期巫天、阿修羅桂ガアナタヲコロシニキタワヨ、サエグサヒナタ。」
超音波のような高い声である。
ひなたは、恐怖と痛みの余り涙をこぼしながら失禁している。
百合の花が続ける。
「これに懲りたら、求喰川にパパと帰れ。」
百合の花から、桂が現れた。喜びに満ち溢れた表情だ。
「ワカッタナ!???」
解放されたひなたは、サトザクラが巨大な口でくわえ、上空へ逃れた。
だが、ビル一面に張り付いた植物はその表面すべてを埋め尽くす百合の花に変えていた。
それを見下ろすサトザクラが、無機質に言った。
「逃げ遅れた。」
すべての百合の花から、凄まじいスピードで長い首を持った巨大な鳥が何千羽も排出され、サトザクラへ向かった。
先頭の鳥がサトザクラに触れる直前で、サトザクラが言い放った。
「行くぞ、桂。」
垂れ下がるワカメの一部が痙攣を始め、その箇所からサトザクラではない別のシャチの顔が現れた。
鳥は、ひなたとサトザクラに群がり一斉に鋭い爪を立て襲いかかった。
だが、それは敵わなかった。
鳥は、飛ぶ方向を不自然に操作されたかのようにサトザクラから離され、すべての鳥が宙に存在する同じ一点に渦に巻き込まれるように、乱暴にぶつかり合った。
渦は止まらず、何千羽の鳥を飲み込み続け、肉塊の惑星を宇都宮上空に形成した。
サトザクラは、壁にへばり付いている百合からこちらを睨みつける桂を見た。
「娘を傷つけたな、惑星巫天。」
桂は睨んでいる。
サトザクラが、怒りも悲しみも表さず桂に告げた。
「殺してやる。」
肉塊の惑星は隕石のように、桂目がけて落下した。
ビルに直撃した惑星は、商業施設を一瞬で瓦礫に変えた。コンクリートのあらゆる破片が飛び、舞い、崩壊の連鎖が轟音、怪音と共に地面に降り注いだ。逃げまどう人々を、すべて避けて破片は不自然に路面に落ちた。
サトザクラは、桂を探し、さらにワカメに痙攣を促した。
「う、、、う、、、」
くわえているひなたが、嗚咽を漏らし泣いているのに気づくと、身体を持ち上げ宇都宮駅前の空から離れた。
恐怖と混乱の宇都宮駅前で一部始終を見ていた柚宇、けい、ちなつはぶったまげている。
サトザクラが完全に去ったことを、確認すると、柚宇は叫んだ。
「やりすぎだ、桂!!!」




