爆ぜろハンマー
「柚宇。」
「ん?」
警視庁を出て二分くらい歩いたところで、桂が隣りを歩く柚宇を呼んだ。
後ろから思いっきり、柚宇の太ももの後ろを蹴った。
「ぐお!」
「なに、あたしの頭叩いてんのよ、タコ!普通に女の子殴る強さじゃないわよ、馬鹿じゃないの!?」
「いや、あの状況じゃこの社会じゃ菓子は食わねえんだよ!」
「知ってるよ!しょうがないじゃん、お腹空いてたんだからっ!」
強く息を吐くと、桂は柚宇をもう一度睨んだ。
「あのさ!急に呼んどいてちょっと扱いが雑なんじゃないの!?べつにどうでもいいけど、兎瓦けいには甘いのに、なんかあたしには古い付き合いなのをいいことにさー!ちょっと何笑ってんのよ。」
柚宇は、姿勢を低くして桂の目線に落とした。
「お前、そんなんだったか?べつにけいに甘くしてるつもりは全く無え!嫉妬してんなよ、桂。」
「嫉妬?」
桂は足を止めた。
「つけあがんなよ?ナンパ水素。嫉妬なんてしてないわよ、あたしと同じ念悦のけいちゃんになんであたしと接し方が違うのか、理解できないっつってんのよ。」
「それを嫉妬と言う。」
逃げるように、柚宇は地下鉄駅へ入る入り口に入って行った。
桂は顔が真っ赤だ。
「おかえり〜。」
二人を迎えたのは兎瓦けいである。エプロン姿で台所からひょっこり出てきた。
「お、おう!」
照れたように返事をする柚宇を見て、桂は意地悪に肘でつついた。
誰かの座っている後ろ姿が見える。ちなつだ。カレーの付いたスプーンをくわえている。気づいて玄関まで駆けてきた。
「久しぶり!尼李!」
「おっす、あ、これ、桂、会ったこと、、、」
柚宇は桂の顔とちなつの顔を交互に見た。
桂が言った。
「あると思う。」
ちなつもコクリと頷く。だが、会話が始まる気配は無さそうだったので台所にいるけいを、柚宇は呼んだ。
「おーい、4人でどっか行こうぜ。なんか今日は桂のせいで、疲れた。」
どん、と半笑いで桂が柚宇を押した。
「黙れよ、クラゲ。怒らしてんの、あんただろ。」
宇都宮の街を歩く4人は、商店街に入った。
「けい、すごいね、引越しの片付け終わってたね!」
ちなつがけいに感心したように伝えた。
けいが笑いながら答える。
「いや、そんな。もう経ってんじゃん、けっこう。」
そう言いつつも、嬉しそうである。
「いや、地味に大変だよ、あれだけ綺麗にすんのは。愛のパワーだねえ。」
けいは、何のことだべ、と思った。
「求喰川も大変なんだよ、今。」
けいとちなつが並ぶやや後ろを、柚宇と桂が話しながら歩いている。桂が飴を舐めながら言った言葉に、柚宇が返答した。
「どうした??」
「雑技団がやったら、ヨウフにつっかかんのよね、最近。管理がなってないって言って。」
柚宇が苦しそうな顔をした。
「それは、、、耳が痛えな、、、ヨウフの仕事増やしてるのはおれだからなあ。」
桂が優しい口調で、諭した。
「それはおごりよ、柚宇。あんた一人の穴埋められないようじゃ全然ダメよ。ヨウフはいつも忙しい、忙しいって言ってるけど、何にそんなに忙しいのか、、、ん?」
けいがチラ、と桂と柚宇の様子を窺っている。桂が聞いた。
「なに?けいちゃん。」
「あ、いやよ?、、、マシンガン、元気?」
桂はあっけらかんと答えた。
「元気、元気。いっっっつも言ってるみたいよ、けいは元気かなって。あのジジイ。」
「小山ちゃんとか自治医大も??」
「誰??」
横で柚宇がフォローした。
「ヨウフの他の面子のあだ名じゃねえか?」
桂が言った。
「、、、『おいた』とか『イギタ』のこと?全部元気よ、大丈夫、大丈夫。」
安心してけいは前に向き直った。
柚宇が通り過ぎる店をチラチラ見ながら、桂に聞いた。
「わりいな、ほんと。助かる!桂!」
桂が吹き出した。
「、、、べつに。」
一同は楽器屋に通りかかった。桂がけいに聞いた。楽器屋を指差した。
「けいちゃん、ギターは?弾いてる?」
けいは申し訳なさそうに、手をプラプラと顔の前で動かした。
「なんか時間なくってよ〜?」
「いや、あたしはどっちでもいいんだけど。久しぶりにけいちゃんのギター聴きたいなあ、ねえ、柚宇?」
「そうだな。」
楽器屋とコーヒーショップの間の道の奥から、歩いてきた男性にけいが反応した。
「田端さん!」
田端さんは、足早に歩いてきた。
黒いバッグを片手に、スーツ姿だ。髪はバシバシに決めてある。
兎瓦けいを認識した。
「兎瓦さん、あ、けいちゃん!久しぶり!」
柚宇はなぜ言い直したのだろう、と思った。
「お仕事中ですか?お疲れ様です。」
けいが言うと、田端は真剣な眼差しで答えた。
「今日は一本、絶対に決めなくちゃならないヤツがあるんです!あ、でも良かった。」
ちなつも柚宇達と同じように、田端のことを知らない様子だが、いちおう軽い会釈をしている。
田端が続ける。
「イケる気がする。けいちゃんに会えたから。」
桂は柚宇の表情を見ている。
「わたしいつもこの辺にいっから!ははは、田端さん、おもしろい。」
「今夜、何してるの?」
「え?」
けいは柚宇の顔を振り返った。なんで、おれの顔を見んだ、という顔で柚宇が見つめる。
「わたし?、、、ヒマ!あっはっは。」
「あとで、電話する。じゃあ。」
田端は足早に去って行った。
田端さんはあんな雰囲気だったろうか、とけいが思っていると、ちなつの自分を見る視線に気づいた。
なんとも言えない表情に、けいが返した。
「なに?」
「けいって意外と、、、」
ちなつはスタスタと歩き出した。けいは意思の確認を試みる。
「なに?」
「けいって意外と、、、」
「と!言うわけで。サトザクラが『阿修羅殺し』に帰るまでは、おれと桂が何とかするから!警察にも今日話してきた。近藤さん、お前が言うほど難しくなかったぞ?けい。」
宇都宮駅前のファミレスで4人は一つのテーブルを囲っている。ちなつとけいの前には、ジュースが置いてあり、柚宇の前には水のみ、桂の前にだけスパゲティカルボナーラ1人分が2皿並んでいる。
「なんでわたしにだけ嫌な感じなんだべ、あのおっさん。」
ちなつがジュースに口をつけた。
柚宇の言った内容に関して、桂が頷いている。
「おれもなんか食うかな、メニュー取ってくれ、ちなつ。」
はい、とちなつが柚宇にメニューを渡すと、桂が気だるそうに呟いた。
「なんでいっつもあの野郎に引っ掻き回されなくちゃなんないだろう。息の根止めちゃってよ、けいちゃん。」
けいがふざけて笑う。構わず、柚宇がさらに話を続ける。
「サトザクラの動きは全く読めない。ただ、ウコンザクラが活性化した時のみ、おれと桂には奴を感じ取ることができる。そして、奴が何かしらの破壊行為を起こすのはある程度、ウコンザクラを暖めた後だ。」
けいの中に疑問点が浮かんだ。
「ひなたがダマ使って悪さする時はどうすんの?」
柚宇が頷いた。
「だな。どうだ?桂。」
「ダマ?」
「凝縮させた念悦、能幹、または借農だ。それぞれジェトーズ、恵比寿、イシアガンの形に三枝ひなたが音を使って生成する。それで、建物と人を襲ってんだ。朝、説明したろ!」
「あら、それは趣味が悪い。」
桂は不敵な笑みを浮かべ、返事をした。
柚宇が告げる。
「けっこうタチが悪いだろ?」
「三枝ひなたってのは、人間でしょ?なんでそんなことができんの?」
柚宇はイライラしてきた。
「、、、それも朝言った!サトザクラの娘なんだよ!ロー・オブ・スリーは分かってるだろうし、求喰川で三つの月を浴びてるから、音の使い方も分かってんだ!」
「優しく言えないの?あーあ、けいちゃんにはこんな言い方しないんだろうな、こいつ。」
けいが笑って返した。
「いや、全然怒るよ、わたしに。」
「いや、違うなあ。あたしが嫌いなら嫌いってそう言えば、柚宇。」
柚宇が呆れ返って、自分の長い髪を掻き上げた。
「ふてくされてる場合か!ったく」
「うそうそ、ふふ。なるほどねえ、ちょっと惑星の法則を知って調子に乗っちゃったわけね、その三枝ひなたって女は。」
桂の頭から、花の生殖器のような触覚が生えた。ちなつがただ一人ギョッとした。
「惑星守護色期巫天、炭素担当のあたしの前で、くっふっふ。あ、大丈夫よ、けいちゃん。ダマ?のことは。」
桂はけいにウインクをした。
「今後一切『それ』は現れないわ。」
けいが驚いた。
「そんなことできるんけ??」
「あたしの炭素を管理する範囲を、『阿修羅殺し』から『地球返し』に移すから。三枝ひなたに、炭素は一切操作させない。」
柚宇が同意しかねる様子だ。
「求喰川の炭素はどう、、、すんだ?いいよ、そこまでしなくて。考えようぜ?」
桂が首を横に振って、柚宇を見つめた。
「大丈夫よ、サトザクラを帰すまでの間くらい。あとで、浄介様にあたしが怒られるわよ。」
「悪い。」
けいが柚宇と桂の顔を見ながら困っている。柚宇が言った。
「だそうだ。これで、サトザクラに集中できるな。」
桂が柚宇をつついた。
「あんたのためじゃないからね?けいちゃんのためだからね?」
話は理解できないが、ちなつは自分の友人がいかにこの不思議な人達に大事に想われているか垣間見た。
店内の電気が落ちた。
突然訪れた真っ暗闇と同時に、店内のにぎやかな話し声すべてが一旦止んだ。
沈黙を切り裂く柚宇の絶叫が店内に響いた。
「サトザクラが来た!!!全員、逃げろ!!!」




