数多のシルエット
「三枝ひなたと、サトザクラの件に関してお前は一切手を出さなくていい。サトザクラが出てきたら、これはもう惑星巫天が管理すべき問題だ。近藤さんにはおれが言っとくから、わかったな?」
けいは言われるままに頷くと、窓際に立っている柚宇が笑った。
「サトザクラは常に監視しておかなきゃいけないが、おれもつきっきりってわけにはいかないんでな。『阿修羅殺し』から惑星巫天を一人呼んで、サトザクラの監視を頼もうと思う。」
けいは、9人の顔を思い浮かべた。
「誰がいい?けい、お前が選べ。」
「、、、!わたしが??そんな権利あんの?わたし。」
「ある。」
「ええ、誰だべ。全然わかんない!」
「、、、。」
「なんで黙んの、ええ、誰がいいべ、、、。」
柚宇がため息をついて、優しく言った。
「誰が来ても、大差はない。ただ、おれよりもお前の方が人間社会を知ってるだろ?被害を最小限に食い止めるために、場合によってはサトザクラへの迎撃に関して警察にも協力してもらう可能性がある。だから、なんて言うか、お前から見て人間社会でうまくやれそうっつうか、、、わかんだろ?おれにはわからない。」
けいが、ポンと手を叩いた。
「そういう考え方ね!じゃあまず眞弥ちゃんはねえな!、、、うーん。」
けいは思い出すために、天井を眺めた。
「桂ちゃんで!」
柚宇は驚いて目を開いた。
「桂か?」
「ええ!!聞いといて何だべ!その反応!ダメ!?」
柚宇はポケットから、アリを一匹出した。生きている。
「はっはっは。いや、意外だっただけだ。おもしろいかもな。」
柚宇は、アリに向けてささやいた。
「ガスト。」
「近藤捜査官!三枝ひなたの件で、何か知っているという人物が!!」
外から帰って来たばかりの近藤は、ロッカーにコートを押し込むと声へ向かってダッシュした。
「本当か!!!」
告げに来た警察官とぶつかりそうになった。息を切らして、その警察官は言った。
「こちらへ!」
二人は高速で歩きながら、応接室へ向かった。警察官が近藤に、興奮気味に伝える。
「兎瓦けいの化け物に関する証言とも一致してます!重力、反発、時間、炭素がどうだら、と!」
「劇団ミハラシとの関連はどうだ!?」
「!はい!劇団ミハラシの所長、尼李柚宇氏も来ています!」
「やはりな!名前は?」
「はい!尼李桂!!」
近藤は驚いた。
「またケイ!?オッケイ!!!」
応接室は開いている。
近藤は勢いよくノック無しに突入した。
「警視庁の近藤です!!!ご協力をいただけるという」
その女性はやはりけいと同じぐらいの年頃に見える。
「、、、。」
四方に垂らした花びらのような特徴的な髪型をしたその女の子は、口いっぱいにハムスターのように出されたスナック菓子を含んでいる。まん丸い目で近藤を見つめている。
「、、、。」
隣でスーツ姿の柚宇は、呆れた様子で近藤の様子を窺っている。
ポロ、と桂の口からえびせんがこぼれた。バリボリ、とスナックを噛み砕く桂。その目には、ずっと固まった近藤を収めている。
バリボリ。
その女の子は、オレンジ色のコートをはらった。
「、、、ことで、、、」
近藤が続きを言った。
桂はニコリと、顔いっぱいに笑顔を作り大声を出した。
「はい!!!惑星守護色期巫天、『炭素』担当、桂です!!!よろしくお願いします!!!」
午前中の光が差す中、けいは自分の部屋でまだ片付いていないダンボールを見た。
明るい光が波打つカーテンのように、埃を泳がせている。
窓を見てけいは立ち上がった。
「よし!片付け、がんばろう!」
奥で回していた洗濯機がピーッと鳴った。
「そして!すでにすべての交番に指名手配犯の情報は行っています。関東圏内で、特に人口が密集している地域、横浜、千葉、水戸、宇都宮、高崎などでは火炎放射器部隊を巡回させています!鳥、ムカデ、シャチいずれの化け物が出現しても、見つけ次第駆逐できるはずです!三枝ひなたに関してはできるだけ生きたまま捕獲することが目標ですが、場合によっては、、、」
近藤は言葉を切った。
「抵抗をするようならば、兵器で迎撃することを許可しています!」
柚宇と桂は真面目に聞いている。
近藤は少し表情を崩した。
「おたくらは化け物の仕組みを知っていて、化け物を蒸発させたりできるみたいだが、、、結局、こちらでその手法の精度の裏付けを取ることができなかった。市民の命を守るため、確実な方法で駆逐する方法を取っているつもりだ!」
柚宇は頷いた。
「一方的に話してすまなく思ってるが、何か三枝ひなたについてわかっていることはあるだろうか?ある程度の目的と行動パターン、、、難しいと思うんだが、、、。」
沈黙が流れ、桂がチラと柚宇の顔を見た。柚宇は桂の目を見返した。
近藤は両者に真剣な眼差しを向けている。
「駄目か!」
柚宇が口を開いた。
「全然、、、駄目じゃない。近藤捜査官、まず先にこちらからお願いがある。兎瓦けい、彼女に関して今後一切協力を依頼しないで欲しい。」
近藤は残念そうな顔をした。
「、、、。、、、それは、」
「違う!その代わりにこの桂を連れて来た。大丈夫だ。」
「兎瓦けいと同じ働きができるということか?」
柚宇は頷いた。
「そしてもう一つお願いがある。こちらが知る限り、三枝ひなたが現在連れているサトザクラというシャチは三枝ひなたよりも遥かに危険な存在だ。」
近藤が絶望的な顔をした。
「な」
「三枝ひなたのことはわからないが、サトザクラに関してはおれ達は知識がある。そこは頼って欲しい。桂には、サトザクラを四六時中監視をしてもらう。そして、その際、警察は桂の指示なしでサトザクラおよび三枝ひなたに攻撃を仕掛けないで欲しい。」
「それはできない!殲滅できるチャンスがあるなら、火炎放射器を」
「人間の兵器などあのシャチに一切通用しない!」
柚宇はがなった。近藤は、押された。
「頼む。信じてくれ、近藤捜査官。」
桂はなんと再び菓子に手を伸ばした。
「信じる、、、!もちろん、あなた方のおかげで被害も少なく済んでるんだ。わかった!確認だが、そちらの、、、」
バリボリ。
「桂さんに、指示を仰げばいいのか?」
バン、と割と思いっきり柚宇が桂の後頭部を叩いた。菓子が吹き出る。
「(バリボリ)、、、??」
「オマエハマジメナハナシシテンノニ菓子食ってんじゃねえよ!!!!気持ち切り替えろ!ここは『阿修羅殺し』じゃねえ!」
余りにも強く叩いて見えたので、近藤は若干、桂の後頭部を心配した。
桂がようやく口を開いた。
「あ、うん。あたしに任せて、大丈夫、大丈夫。」
近藤は心配になってきた。




