74本の稲妻
中華服の女性は消えた。
立川駅のエスカレーターを上っているのは、柚宇である。電話をしている。電話口の相手は怒っている。
柚宇は涼しい顔で、対応している。
「急に消えて悪かったな、いや、嫌な予感がしてよ。」
改札を通った。
「あ?立川だよ、立川。」
階段を下りる。
「お、ロー・オブ・スリー忘れたのか?けい。」
ホームで白線の内側に立つ。
「『反発』と『時間』合わせりゃ、どこにだっておれの『姿』作れんだろが。おれは惑星巫天だぜ?けい。」
柚宇は、意地悪な顔をして言った。
「おれは目に見えるすべてになれるんだぜ?カエルだろうがマーメイドキョンシーだろうがなあ。」
(知らなかった)という声が電話から漏れている。
夜の街を眺めるひなたは、驚きの声を上げた。
「きれい!すごい!」
サトザクラは特に何も言わない。
「求喰川の海底にさ。光るカニがいるじゃない?あれを百万個くらい撒き散らしたみたいだね。きれい。。」
「これをキレイだと思うのか、ひなた。」
ひなたは、頰を紅潮させ思うままの感想を言った。
「きれいじゃん!すごい!端から端までカニだらけだよ、カニじゃないけど!」
ひなたは笑った。笑うひなたを見てサトザクラが言った。
「おれはこれをキレイだと思うお前の能幹が美しいと思うな。おれには何も感じない。」
ひなたは、はっとした。
「、、、いや、まあ、イシアガンが作ったと思うと全然よくないけどね、こんなの。」
街から関心を逸らすと、ひなたは丸い月を見た。
「この時代の月は一個なんだね。」
ひなたは、サトザクラに話しかけた。
柚宇が言った。
「サトザクラはな。耳から垂らしてる弁天、、、ワカメにウコンザクラっつう別の生き物を飼ってんだ。」
宇都宮のけい宅で、出されたコーヒーを手に持って正座しながら聞いているけいに、解説をしている。
サトザクラの生態に関してだ。
「サトザクラの強みは何と言っても、そこなんだ。」
「なるほどー。」
「おい、テレビ消せ。でな、このウコンザクラっつうのは鈴音様っていってな。」
けいは聞いたことのある単語のような気がした。
「別名地球様っつってな?」
「地球様、眞弥ちゃんじゃん。」
「ああ、ウコンザクラってのは眞弥ちゃんの親だ。」
「えええ!」
「いい反応だ。あのウコンザクラってのは、眞弥ちゃんからサトザクラへのプレゼントなんだよ。しかも、、、だ。」
うんうん、とけいが頷く。
「サトザクラにウコンザクラを託す時に、おれ、水素の、そして桂の炭素の、んで優美の鉄の、それぞれ念悦、能幹、借農をウコンザクラに埋め込んだんだ。大サービスだろ?」
けいは、息を呑んで聞いている。
「地球様、ウコンザクラを常に見守り、守護しているから、おれら3人は月と呼ばれてんだ。」
「すごい!初めてちゃんと教えてくれた!」
「あと3人まとめて『阿修羅』とも呼ばれてるな。まあ、とにかく、、、でもおれはキライなんだよ、月って呼ばれんのは。地球のおまけみたいでって、はは、なんか話が逸れたが、要するに、、、」
けいは、柚宇が突然脅すような恐ろしい顔になったのを見て驚いた。
「サトザクラには絶対に敵わねえから、手を出すな、けい。これは命令だ。わかったな?」
けいは怖すぎて漏れそうになった。
ワカメの上で眠っているひなたは、どこからか生えてきた何枚もの葉っぱに包まれて暖かそうだ。
飛行を続けているシャチ、サトザクラは娘の顔をじっと見つめている。
「『地球返し』なんて絶対楽しくないから、やめとけ、、、なんて言ったが。」
ひなたは寝息を立てている。
「楽しそうだな、意外と。」
指名手配犯になっている娘に関して、平和な親である。
「ひなた。」
寝ているため、返事はない。
「おれの夢、そしておれの妻、『ゆし』の夢は」
サトザクラは、自身を彩る白い模様を変化させた。
「『灯籠流し』『阿修羅殺し』『地球返し』、三つの時代を一つにして」
白い模様は、体外へと放出され雲のように空に流れた。
「おれを助けてくれた眞弥に、」
代わりに雲がサトザクラへと降りてきて、模様となった。
「恩返しをすることなんだ。」
雷が一筋、サトザクラの尾ビレに吸い込まれた。音は無かった。
「眞弥はおれに地球をプレゼントしてくれたから、おれは眞弥に宇宙をプレゼントしたい。」
尾ビレから音は無い。
「全部、潰して一つにするんだ。」
サトザクラは思いっきり尾ビレを振りかぶると、シャチの身体で波打つ筋肉が透明のダイヤモンドを貫通するようにしなった。
振り下ろされた尾ビレから、74本の稲妻が乱れ飛び天空へ帰って行った。
「コノウチュウノゼンブ。」
魔王サトザクラは、娘の顔を優しく見つめた。




