いっしょにやきころそうぜ
被害はなかったのである。
街に不時着した火は、確かに建物や車に燃え移ったがすべてが一瞬で消し止められた。
焦げ跡は黒く残っているため、火は本物だっただろう。
「怪我はねえか?ガキ。」
自分に優しい声をかける女性に、震えながら子供は頷いた。路上に座り込んだ格好のその子供は、たった今自分の周りを包んでいた炎が消えた事実を解釈できていない様子だ。
周辺を眺める限り、火だるまに包まれている人はいない。建物も含め、皆無事だ。
事態を把握できず、呆然とする人達の中でその女性だけがフラフラと黒焦げの潰れた飛行船に、歩み寄った。
どうやら、無人の飛行船だったらしい。
女性はため息をついた。
「あーあ、本番の日が近いのによお。」
女性は中華モチーフのドレスに身を包み、縦に長い帽子を被っている。
「さっさと求喰川に帰ってもらうぜ?サトザクラ。」
スカートの下、わずかに見えるのはヒトの足ではない。真っ黒いクジラの尾ビレである。
女性は肩を叩かれた。
「、、、あ!」
肩を叩いてきた青年は何かをためらっている。女性が首を傾げる。
「ん?」
「、、、あ、助けてくださったんですよね?ありがとうございます!!」
周りの人間全員が女性と青年を見ている。
「兎瓦けいに礼を言ってやってくれ!おれをこういう気持ちにさせたのは、あいつだから。」
女性はニコリと笑った。
「うさぎ、、、?」
「ねえ。」
誰かが女性を見ながら、言った。
「あれ、劇団ミハラシの」
すかさず友人が割り込んだ。
「やっぱり!?絶対そうだよね!?」
「普段もあの格好なの!?やばい、かっこいい!」
周りがにわかに騒ぎ出した。
「あれ?火が消えてる。なんで?」
上空から、ひなたとサトザクラは立川の街を見下ろしている。
「水素だ。」
「阿修羅様?追って来てたの?気づかなかった。。。」
サトザクラは、陽気に答えた。
「追って来てたわけじゃない。なんでわかったんだろうな。」
ひなたはシャチの表情に気づいた。
「お父さん、楽しそう!」
サインを迫られながら、中華服の女性は空を見た。
常人の目には、青い空と雲しか見えない。
中華服の女性は独り言を言った。
「なんでわかったかって?勉強し直せ、サトザクラ!」
池袋の展望台のあるビル、その中のファストフード店内。
ポテトをつまむ兎瓦けいである。
呟いた。
「、、、どこ行ったんだべ、柚宇。」
トイレに行って来ると言ったきり、帰って来ない柚宇をけいは待っていた。
「どこのトイレまで行ったんだべ。」
けいは、携帯ゲームをし出した。
『指名手配』と書かれた紙を片手に、警察官が交番で椅子に座っている。
字を追っている。普段置かれていないような銃器が立て掛けてある。市民が見える位置に置いてあるが、大丈夫だろうか。
「これだろ。」
その30歳前後の男性警察官は、別の警察官に威勢いい調子で話しかけた。
外は暗くなり始めている。
「こういうのだよ!池田!」
至って冷静なもう一人の警察官は返事をした。
「は?」
「こういうのだろ、池田!警察になったら!」
いかにも頭が悪そうにいきり立つ警察官に、池田警察官は冷めた目で言った。
「何がだよ、宇佐美。」
「一緒に焼き殺そうぜ、この凶悪犯!」




