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ひなた  作者: Hiro
なかむら
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11/28

あなたを愛し姫の名の下に

「今、兎瓦けいと惑星巫天がいたな。」

シャチは、眼下の街を見下ろしながら、娘に確認した。勢いよくひなたが反応する。

「うそ!阿修羅様!」

シャチの声は特徴的で、変に高い。獰猛さを連想する声色ではない。

「まだ付き合ってるのかな。気になるな。」

「兎瓦けいと合ってないよ。絶対、求喰川出身のあたしの方が相応しい!お父さん、会ったことあるの?」

シャチは答えた。

「会ったことがあるも何も、、、。」

スカイツリーを横切った。

「ふうん。あーあ、『地球返し』で普通に生活できなくなっちゃったなあ。こうなったら、グレるしかないなあ。」

シャチの背中に、巨大な鳥とムカデが出現した。

「どんくらい凄いことをしたら、阿修羅様は振り向いてくれるかなあ。よし!」

ひなたは、シャチの目を見た。天使のように、無邪気な声で言った。

「富士山焼きに行こう。」


目撃情報の内容はこうである。

『シャチにヒトがぶら下がって空を飛んでいる』

増渕部長が声を荒げる。

「人を殺傷する能力が十分にある猛獣が、逃げた!不可解と言うには余りある他の情報は気にするな!一点だ!殺人獣が逃げた!一刻も早く捕獲できるようすでに関東全域すべての交番に、三枝ひなたの情報を通知してある!この事件に関して火炎放射器の使用が認められているが、必ず適切な人数で!確実に仕留められる条件下で駆逐しろ!」


「鈴木!」

廊下を走り抜ける鈴木を、近藤は呼び止めた。

「何か言ってたろ!悪い、何だった?」

思い出したように、鈴木が答えた。

「あ、、、はい!いや、ちょっと気になったことが、、、。もう5年、、、くらい前の事件なんですが。」

「なんだ、言ってみろ。」

「覚えてますか?千葉の水族館の事件、、、。」

近藤は少し考えた。

「飼育員が襲われた事故のことか?ああ、あったな。」

鈴木は、抑えた声で言った。

「あの時も確か、水族館周辺で空飛ぶイルカの目撃情報があったんですよ。飼育員の惨殺との関連性は見つけられなかったんですが。」

近藤は黙って聞いている。

「それも三枝ひなたの犯行ってことは、ないですよね?」

「何とも言えないな。ただその頃、三枝は日本にいなかった可能性がある。」

「そうなんですか??」

近藤は、頭の上で指をくるくる回した。

「ああ、火星にいたんだそうだ。完全に頭ラリってる。」

立ち去っていく近藤を見ながら、鈴木は頭の奥で何かが腑に落ちた。だが、それが何かはわからなかった。


叔母の家で、三日月ちなつは仏壇の前で手を合わせていた。かれこれ、30分以上同じ体勢である。庭で植物をいじっている父、敏成が大きな独り言を言った。

「けいちゃん、無事だといいなあ!」

ちなつは手を合わせている。

叔母が奥から出てきた。

「なにでかい声で独り言言ってんの?」


昼間から飲んでいる集団が、話を弾ませている。

恵比寿の駅からほど近い。

酔っ払って目つきがおかしくなっているそのうちの一人が、急に声のトーンを落として切り出した。

「ってかさあ!こんなこと言うのダメなんだけどさあ。あの池袋の事件の犯人の顔、マジでタイプ!」

ある程度のことは言っても許されそうな、開放的な空気だったにもかかわらず、全員がドン引いた。見事な空気の激変である。

「いや、つかさあ、ごめん、冗談だとしても今マジで引いた。」

皆、うんうんと頷いた。

酔いに任せて場に適切でない発言をしてしまった会社員は、耐え切れず顔を手で覆った。

横で真顔なのは、別の男性だ。

「ほんとに危ないよ!街中に何の前触れもなく現れたって、、、。」

「、、、死んだ人とかいるの?」

「死んだ人はいない。でも、大怪我した人はけっこういるよ?あと、声で鼓膜潰されたとか。」

「こわーい!」

皆、うんうんと頷いた。

「え、、、でもそれ誰が捕まえたの?警察?」

「じゃない?いや、一般人じゃ無理だろ。」

皆、うんうんと頷いた。


一般人、兎瓦けいは眺めの良い場所から、望遠鏡で東京の街を見渡していた。

真後ろで、柚宇がつっこむ。

「いや、ここから見つけられたとして、どうすんだ。飛び降りて捕まえんのか。」

振り返って、けいが切り返す。

「パンプキンフレイバーのシュークリームの残り食べといて何だべ、その態度!」

「根に持ってんのかよ!半分も食べてねえだろ。」

望遠鏡に、けいは目を戻した。

「なんかわたし、、、ひなたと一緒にいたシャチって、サトザクラのような気がするんだけど。」

「ああ、そうだろうな。」

再び、固定してある望遠鏡を回しながらけいが振り返った。

「なんで教えてくんなかったんだべ、花男!」

「その意味のわからんモノをおれに向けるな。親父だって言ってたもんな、サトザクラが。信じられるか?あのいい加減野郎が親って。子の顔が見てみたいっていうか、その結果があれか。」

「なんだべ。わたし、サトザクラっていったら、初対面で殴っちゃったことしか覚えてない。」

柚宇とけいの間を、小さな子供二人がはしゃぎながら、駆け抜けて行った。

「けい、、、あんまり無理すんなよ?」

「ん?」

一度息を吸ってから、柚宇は諭した。

「サトザクラは何考えてんのかわかんねえからな。」

柚宇は子供を目で追っていた。


「今頃、あいつらおれの噂してるかな。」

間の抜けた高い声で、サトザクラが娘であるひなたに話しかけた。ひなたは、ワカメのブランコに掴まりながら眠りそうになっていた。

一人と一頭は現在、立川市上空にいる。

「知らない。」

サトザクラが尾ビレを少し持ち上げ、胸ビレの角度を変え、ゆるやかに旋回した。

「兎瓦けいおもしろいよな。」

「兎瓦けいはもういい!求喰川中なんで兎瓦けいのファンなの!?理解できない。ただの栃木弁じゃん。」

「おれのこと初対面で殴ったからな。」

ひなたが、目を開いて父を見上げた。

「ほんとに?、、、お父さん怒らなかったの??」

「兎瓦けいおもしろいよな。」

「、、、信じらんない。」

サトザクラは、前方から向かってくる何かに気づいた。

飛行船だ。

「兎瓦けいじゃなかったら、、、たぶん怒ってただろうな。」

ひなたの座っているワカメには、よく見るとコブが6つ付いている。察知したひなたは、座る位置をずらした。

瞬間、一つのコブが激しく痙攣を起こした。

「こんぐらい。」

石を叩くような破裂音を追って、一瞬にして飛行船は丸ごと炎に包まれた。

ゆっくり、燃え盛る飛行船は下に落ちて行った。

街中に落ちて行った。

火だるまは無事、地面と接触した。

街を混乱の渦に叩き込んだ。

広がる炎を見ながら、ひなたが言った。

「もっとじゃない?」

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