第95話 故郷の村
カンギルから故郷の村までは、馬車で二日。途中で小さな街を経由する。
そういえば、あの街で、リーンさんとポルタさんに会ったんだよねぇ。
ポルタさん元気にしてるかな。
またパンケーキ、食べさせてほしい。
道中、魔獣がでなくてよかったと思ってたら、出てたらしい。休憩の時に護衛のロリアンさんが教えてくれた。
即始末してたらしい。ロリアンさんも強いんだな。
今回は護衛はロリアンさん一人しかいない。大丈夫なのか聞いて帰ってきた返事がこれ。
「今回は、クラリッサ様の護衛だからね、ちなみに嬢ちゃんも護衛の一人だから。あと、ついてきてる使用人さんの一人、あの人、俺より強いから」
さすが1st……。
ていうか、わたしも護衛扱いなのか。
まぁいいけど。そういう口実でこの格好だし。
街までは特に何事もなく、ただお尻にスティグマを刻んだだけで着いた。
宿を取ると、意外な事にクラリッサ様はわたしに一人部屋を割り当ててくれた。
てっきり同じ部屋を指定されるもんだとばかり……と思ったら、クラリッサ様の身支度には使用人さんが不可欠だから、部屋がいっぱいになるからとのこと。
ここの宿、あとは大部屋しかないからね。
「アマテラスはこっちの部屋にくるの?」
馬車であまりにもクラリッサ様から離れないから、そっちで寝るもんとばかり思ってたよ。
気がついたら部屋の中にいた。
ベッドに飛び乗って、寝具をペチペチ叩いてる。
あ、はい、お肉ね。
乾燥肉をあげて、わたしも休もうと、加州清光を腰から鞘ごと抜く。
ほんとに綺麗だよね、これ。
縦に捧げるように持って、引き抜く。
現れる刀身。
ただの鉄が、命を持っているかのように、ランプの明かりで揺らめく。
レイティシアちゃんに付いて隣国に行ったら、あの男、フェンドールとまた会うのだろうか。
対峙することはあるのか。
木刀ではなく、真剣で。
お茶会での事件は隣国が絡んでいるという噂もあったが、結局、確証はなかったらしい。
もし、それが本当なら、またレイティシアちゃんが狙われるのだろうか。
その相手がフェンドールだったら。
斬れるのか。
身体が震える。恐怖か武者震いか、わからない。
「なぅ〜」
「……わたし、今、何を考えてた?」
急に景色が戻った気がする。
何か物騒なことを考えていたような。
納刀し、アマテラスを見る。
肉は食べ終わったらしい。手を舐めて顔を洗ってる。
「いけないね、明日は村に着くんだ。三年ぶりに。話す事がいっぱいなのに」
心のどこかに、得体のしれないものがいる。
翌朝早くに宿をたつ。
近付いてくる懐かしい光景に、心が浮き立っていく。
わからないことを考え続けてもしかたないしね。不安も不穏も後回しだ。
「アマテラス、もうすぐわたしの故郷の村だよ!」
アマテラスも窓の外をみてる。何か気になるものあった?
何となく憶えてる気がする景色から、ちゃんとわかる景色に移り変わる。
懐かしさに情緒が緩む。
あそこも、ここも、わかる。
あの道の柵が直されてる。あそこの木が切られてる。
変わったところがわかるくらいに。
涙でそう。
懐かしの実家。
馬車から飛び出る。
走る。
人影、小さい。
もどかしい。もう見えてるのに。
パパと訓練した庭。
小さい人影、もう顔がわかる!!
わたしの推し!ルカ!
「ルカ!!ただいま!お姉ちゃん、帰ってきたよ!!」
……。
………。
…………。
ルカの訝しむような表情。
側にいる女の子を後ろに庇うような仕草。
あれ?なんか、こう……、歓迎の反応は?
「あんた、誰?僕にお姉ちゃんなんていないけど」
え?ちょっと、まって?
「レナ、家に入ってて、お兄ちゃんが守ってあげるから」
あ…が……ぐぅ…や、やめて……
「レナが可愛いからって、さらいにきたんだろ!やっつけてやる!」
まさか…、まさか…、幼児期健忘!!
嘘ぉぉぉおおお!




