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第90話 魅入られるということ

鍛冶場にガゼムさん共々駆け込む。

後から剣士隊の皆さんもついてくる。

一同が見守るその目の前に、一振りの刀が拵に収まった状態でそこにあった。


貝の破片を散りばめ螺鈿のような煌めきを放つ、黒塗りの鞘。

紅糸と黒糸、金糸で編まれた柄。

所々に極小の魔石が散りばめられているのか、妖しい光を放っている。


「……これ、誰に献上するの?ガゼムさん……」


ガゼムさんはキョトンとした顔をする。


「いや、嬢ちゃん!拵はあのじーさんが作ったんだ。それはどうでもいいだろう?!」


視線を向けると、アクセサリーを作ってくれたお爺さんが手をフリフリしている。


「どうでもよくない!!そこに直れ!ガゼム!」


わたしの罵声にガゼムさんが正座する。

まじまじと拵を眺める。

これは、この世界でしか作れない代物だ。

前世なら、国宝だと言われても問答無用で納得する。やり過ぎだよ、お爺さん……。


「え、えーと、嬢ちゃん?刀身のほうも……」


おっと、拵に見入ってしまっていた。

では、拝見……。


刀を縦にして、半分ほど抜く。

…。

……。

………。

納めた。


「ど、どうだ?嬢ちゃん…?」


あかん。だめ。やばい。

打刀、反りは浅め。

その姿は、板目混じりの柾目、沸がわき、刃紋は直刃。青黒く光を反射する刀身。


わたしが、刀を知っているからだろうか。

あっという間に引き込まれる。


使いたくなる。

何かを、切りたくなる。

自然と斬れる物に視線が飛ぶ。


「ガゼムさん……。家族と一緒に居たいなら、これを、軽々しく世にだしたらだめかもしれない」


丁寧に、刀を台に置く。


「南泉一文字もそうだったけど、切れすぎて美しい武器は、使い手を選ぶんだよ。

危ない人に持たせちゃだめなやつ。切れ味に魅せられる。最悪、ガゼムさん、攫われるかもよ?」


刀身を見ただけで、斬るものを探してしまうくらいだ。倫理観の希薄なこの世界で、何がおこるか想像もできない。


「美少女剣士!試し斬りはしないのか?」


変態ノーマンが刀を手に取って言う。

おまえッ!何しやがる!


「ゴリさん、ロリさん、やっておしまいなさい!」


「「おうよ!」」


変態ノーマンの両サイドから繰り出される拳が、変態の鳩尾と顎に埋め込まれる。


危なかった……。あの刀持ってたら、山田浅右衛門あすかの試し一刀流が炸裂するところだったよ……。


とはいえ納得してない表情のガゼムさん。

仕方ない、見せよう。


剣士さんにお願いして、薪を並べて貰う。

これでも、メンタルとしては正気を保てるか心配なんだよ。


鞘を抜く。鼓動が早まる。

わたしの身長だと、打刀はまだ長い。

鞘を置いて、薪と向かい合う。


大きく息を吸って

止める。

身体が重い。耳鳴り。


走馬灯の精度は息を止めてる時が、一番細かい。

その刹那の長い時間で、5回刀を振る。

何も変わらない光景。


大きく息を吐いて、衝動を抑える。

斬った順番に先端を軽く叩いていく。

綺麗な斜めの断面を残して落ちる薪の先端。

固定せず置いただけなのに、倒れもしない薪の元側。

乾いた音が5度響く。


「こんなのみたら、剣士はみんな何かを切りたくなっちゃうと思うんです」


声が震える。必死に抑えてる、衝動を。

唖然とする剣士たちを差し置いて、ガゼムさんがわたしの前に立ち、わたしが震えながら刀を握る手を優しくほどく。


「俺はな、嬢ちゃんにしかこいつを作る気はないぜ、安心しな!俺は、そいつにあった武器しか作らねぇ。こいつが使えるのは、嬢ちゃんだけだろ?」


そっと納刀する仕草に、思わず安堵してしまう。

やっぱり親方は凄い。こんな刀を作れてしまうガゼムさんは、やはり特別なのだ。


「そのうち、クリストフ様も使えるようになるかも知れませんよ?覚悟してくださいね、ガゼムさん」


ガゼムさんの顔がどんどん緩んでいく。

「そうか!坊っちゃんもか!それは嬉しいなぁ。立派になってんだろうなぁ」


周りも皆笑顔だ。クリストフは好かれてるんだな、いい貴族になれるかもね!


「それよりも、嬢ちゃん。こいつに名前をつけてくれ。嬢ちゃんが今持ってる……ナンセンイチモンジみたいなさ」


ええ!またわたしが名前つけるの?!


んんー!今回はアマテラスは無関係ぽいからなぁ……。

魔獣滅殺、天の叢雲、一胴七度、燭台切光忠……。

違うよねぇ……。

柾目、直刃、………。

魅入られて、惹きつけられる。


この姿に名前をつけるなら……

「これは、加州清光。この姿に相応しい名前……かな?」


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