第89話 いざ故郷へ
王都のグラナド伯爵邸には、クラリッサ様しか居なかった。領主様やガゼムさんは、伯爵領に戻っているとのこと。
そりゃそうだよね。
メインのお仕事はそっちなんだから。
「クララ様、ただいま学院を終えてきました。あと、精霊様もついてきちゃいました」
そう、アマテラスは定位置のフードの中だ。
顔を出して、クラリッサ様に向かって、なーん、って鳴いている。
「おかえりなさい、ルナ。さすが私の娘ね。こんなに早く中等部まで終えるなんて、もう少しゆっくりでもよかったのよ?
精霊様もようこそお越しくださいました。娘がお世話になっております。先日は王妃様のところへ顔を出していただいたようですね。お喜びのお手紙が届きましたよ」
相変わらずの無表情&娘アピール。
うん、もう突っ込むのも野暮だ。
それより、アマテラス、王妃様に会いに行ってたの?いつの間に……。
「クララ様。わたし叙爵まで一月ほど期間が空くのでその間に、グラナド領に帰って、故郷の村に行こうと思ってるのですが、よいでしょうか……」
なんとなく、ずっとここにいろって言われる気がするのよね。先手を打ったほうが可能性は……
「ええ、もちろん構わないわよ。私も一緒に行くわね。あなたの故郷の村はまだ行ったことないわね。楽しみだわ」
つ、ついてくるんか!
いや、クラリッサ様、楽しみって表情じゃないけど、いや、無表情なのはいつものことか。
領主様もついてくるんかな……。
村長の家、そんなに受け入れられたっけかなぁ。
あああ、もう使用人さんたちが準備はじめてるし。みんな有能だな!
実際グラナド家の使用人さんはみんな有能だ。
1stなんて、指先だけで人の動きを止めるのだ。前に、剣士さんが羽目を外してたところを、指で動きを制して、廻し蹴りで吹き飛ばしていたのだから。
怖い怖い。でも、弧を描くメイド服スカートが綺麗でカッコよかった。
ちゃんとペチコート、履いてるんだなとも思った。
翌日、馬車に押し込まれ、グラナド領カンギルを目指す。クラリッサ様はわたしにドレスを着せようとしたが、頑なに拒否させていただいた。
あんなもの着てられないよ。
だから、必死に、理由つけまくって、
次の一言が決定打となり、コルセットは回避できた。
『わたし、魔獣とかの襲撃があったら、クララ様を守りたいのです』
結果、学院の剣士服よりも裾が広がった袴タイプの服に落ち着いた。
王都からカンギルまでは三日の道程。
馬車の中はクッションが引かれてるけど、お尻が痛いことは変わらない。
クラリッサ様、よく無表情で耐えられるね。
アマテラスは、居心地のいい場所探して、結局クラリッサ様の膝の上に落ち着いた。
途中の町を経由しつつ、魔獣に襲われることなく、カンギルの街に着く。
相変わらずお祭りみたいで賑やか。
前に滞在してたときは、あまり出歩けなかったんだよね。ホントに、ベビーカステラくらいないかなぁ。
王都にいたときは、学院と王宮と演習しか行ってないから、こういう賑やかな街は楽しくて心が浮き立つ。
一日くらい出歩きたいな。
期間は十分あることだし。
御屋敷が見えてきた。
毎度、勢揃いで迎えてくれるんだよねぇ、なんだかいたたまれないよ。
ん?なんか凄い勢いでだれか駆けてくる。
んん〜…、ガゼムさん?
「嬢ちゃん!おれはついにやったぜ!2本目!仕上げてやったぜ!!」
まじか!
「ほんと!?ガゼムさん!できちゃったの?!」
二人して鍛冶場へ駆けていく。
あ、またごめん、領主様。
それと、出迎えてくれた方々。
これはね、最重要取扱注意案件なんだ。
人斬り以蔵とか半次郎とか抜刀斎を産み出さないためのね!




