第88話 初めての長期休暇
試験は無事、わたし的には無事に終わり、卒業が決まった。
卒業後に何か論争が巻き起こっても関知しない。
既に何人かの女性教官がワナワナしてるけど。
卒業とはいえ、卒業式みたいな行事はない。
ただ、順次寮を引き上げ、それぞれの家に帰るだけなのだ。
なんだか、アッサリしてるね。
まあ、貴族家の面々はこれからも顔を合わせるしそんなものか。
わたしは、教官室へ。
一番迷惑かけたところへ。
ノックした部屋の扉から応答の声。
もう、この取り繕ったような、凛とした声も聞くことはなくなるのかな。
部屋に入って頭を下げる。
「リーンさん、大変お世話になりました。リーンさんのおかげで、なんとかやっていけた気がします」
あれ?
リーンさんが、壊れた玩具みたいな感じで隣の部屋、指さしてる。
なんで?
部屋に入ると、リーンさんが凄い勢いで、扉をしめる。
わたし、また何かやらかしたかな?
ジト目で見られる可能性は予想してたけど、これはなんだろう?
「ルナちゃん!また!何か!あったの!!」
ん?何?この反応。
「えぇと、卒業、決まったのでご挨拶にきたんですけど……。たくさん迷惑かけたし……。相談に乗ってもらったし……」
リーンさんの動きが一瞬とまる。
でも、わたしの方を指さして、徐々に正座になっていく。
「え?それだけ?……いやいや、精霊様つれてるし……。ここ2年いなかったのに……」
あ!アマテラスか!
あなた、どれだけトラウマ与えてるのよ。
でも、そっか。ここしばらく居なかったからね、教官の間ではようやく平穏が訪れたって感じだったのかな。
フードから、アマテラスを持ち上げて抱く。
なーっ、て、いいでしょ?アマテラス。
ちゃんとリーンさんにご挨拶しなさいって。
「この子、戻ってきてくれたんです。どこに行ってたのかはわからないけど、ちゃんと顔見せに来てくれました」
「なーぅ」
リーンさん、少し力抜けたかな?
ゆるふわお姉さん、カムバック!
「えぇと、それじゃあ、何かあったわけじゃないのね……?いや!精霊様がいること事態が……」
わたしの腕から抜け出て、アマテラスがぶつぶつと唱えているリーンさんの元へいく。
リーンさんが組んだ手をペロっと一舐めして、笑う。
「ヒッ!……せ、精霊様!ご、ごきげんうるわしゅう……」
ん、これはただのイタズラだ。
わかっててやってるねアマテラス。
「リーンさん、大丈夫ですよ?アマテラスはただの猫ですから。ちょっとだけ、イタズラしますけど、アマテラスがいなくても起きうることですから。ね!アマテラス!」
「ぅな?」
首を傾げるアマテラスを、再び抱っこする。
「それよりも、リーンさん。ちゃんと何事もなく卒業できました!リーンさんのおかげです!」
リーンさんは正座を崩してソファに座って苦笑い。ゆるふわお姉さんが戻ってきた。
「何事もなくは……なかったけど。卒業おめでとう。こうして挨拶にきてくれるのは初めての経験かな。ちょっと嬉しいよ、ルナちゃん」
なんだ?誰も来ないの?不義理じゃね?
たぶんこの学院で一番駆け回ってる教官だよ?リーンさんは。
わたしのせい?
「えーと、今日、寮を引き払って一度領主様のところに行きます。王都にきたら、また会いに来てもいいですか?」
リーンさんの柔らかい笑顔。
これ、見たかったんだよね。わたしに世界の広さを最初に教えてくれた人の笑顔。
「もちろんだよ。いつでもおいで。だいたいここにいるから」
「はい!リーンさん。また来ます。絶対に」
隣国に行く前には絶対に。
「それと、これ、御礼というか、やり残したことというか……。どうぞ!それじゃ、失礼します!」
リーンさんの前に置かれた物。
『王都学院恋物語 決断篇 著:ルナ』
「ちょっ!ちょっと、ルナちゃん!こんな危険物……!」
離れる教官室から、呼びとめる声。
でも、わたしは振り向かないのだ!
「ね!アマテラス!」
きっと、アマテラスがしていたことは、こういうことだ。やる側になると、ちょっと楽しい。
足取り軽く、学院を後にした。
グラナド家にもどったら、叙爵までは期間が空く。その間に実家に戻るのだ!




