第87話 向けられた想いへのレヴェランス
ぎこちないクリストフのエスコート。
でも、精一杯の背伸び、誇らしい顔、とても微笑ましい。
初めて会った時に比べると、やっぱり男の子なんだな。努力したのだろう、手の皮は厚く、筋肉に裏付けられる姿勢の良さ。
生来の金髪金眼が、華やかさを添える。
なんだ、とんでもなく魅力的じゃないか。
単なるエロガキじゃなくなったんだな。
君の初恋が、わたしであったことが申し訳ないけど、その想いは、今だけはちゃんと受け止めてあげなきゃいけないね。
クリストフに向かい合って、
腕を身体の前で円を作り、上にあげ、柔らかく横に下ろす。
同時に、右足を前に、円を描いて、後ろで爪先をつける。
軽く膝を曲げて、頭をほんの少し倒す。
見様見真似のレヴェランス。
この世界では、見たことないけど。
所作は綺麗だから、非礼には当たらないだろう。
平民だから、勘弁してね。
顔を上げると、惚けるクリストフ。
周りも珍しいものをみた様な表情。
差し出されるクリストフの手。
子供らしく小さい、子供らしくない厚み。
手を乗せる。
鳴る音楽。
いつ動き出せばいいか、わからない。
でも、ぎこちないわたしの動きを、ぎこちなさを隠さないクリストフがリードする。
たぶん、踊れてる。
ちゃんと、音が、音楽として聴こえてる気がする。身体が音の波の上で泳いでいる。
傍からみたら、ぎこちない子供同士のダンス。
でも、わたしにとっては、
初めて、
踊っている、
実感。
ダンスで表現しなきゃいけないことを、つたなくとも、ちゃんと伝わるように舞えている。二人で。
いい男になったね、君は。
視界の端で、アマテラスが目を細めてる。
何かしたのかな?
ムニャムニャしてる、その、満足そうな口の動き。
……。
うん、何か、わかった。
精霊様は、見たいものを見ようとしてるだけなんだね。それを幸運と受け止めるか、厄災として取るかは、わたし達次第なんだ。
アマテラスがいると、わたしはいつも和む。
だから、わたしにとっては、アマテラスはちょっと変な、ただの猫。
側にいると安心するよ。
曲が終わりに向かう。
走馬灯も悪くないね。
好意を向けられること、それを受け止めていい時間を長く感じていられる。
ぎこちないダンスが、ぎこちなさを伴いながらシンクロしていく。
音が止まる。
ダンスは終わる。離れる手。
乱れる呼吸を整える。
もう一度、心を込めて、レヴェランス。
目に映る、清々しい顔のクリストフ。
「勉学でも、剣術でもルナには敵わないが、ダンスは私の方が上手いようだ。どうだ?ルナ!」
この眩しい笑顔、今だけは受け止めよう。
頬が、濡れる感触。
「ええ、とても。初めてパートナーと、踊りきれました。その相手がクリストフ様で、良かったです」
最初で最後の、主従のダンス。
初恋の終わり、未来の始まり。
こんなわたしに、涙を流させるんだから、君は立派になるよ。でも、女遊びはダメだよ?
わたしの卒業が決まった。




