第85話 月日は百代の過客
寮に帰っても、アマテラスは部屋に居なかった。
ちょっとだけ、なんでもなかったかのように部屋で寛いでいることを期待してたけど。
もう、大凶の方でもいいから、帰っておいでよ、アマテラス。
アマテラスがいなくなった日々は特記することが無かった。演習の帰りに歌った歌が、こちらの言葉で流行ったくらいだ。
王都で評判の歌姫が歌いはじめて、いまや彼女の曲だ。
一度見に行ったけど、側にアマテラスは居なかったからどうでもいい。
平穏で、張り合いがない日々。
マリーちゃんとレイティシアちゃんが、心配そうに寄り添ってくれたのが救いだ。
そんな私は8歳になった。
やっぱり、アマテラスの騒動を迷惑だと思いつつも、楽しんでいたのかもしれない。
自ら騒動の種を撒いてみたりもした。
『王都学院恋物語 修学旅行篇』を書いた。感情表現モリモリで。図書館の写本コーナーに放置してみたら、ある日、初等部の生徒が発見したらしく、学院の全女子生徒が沸いた。
この学院、修学旅行とかないのに。
教官に、いつ修学旅行が開催されるのかと質問していた女子生徒、そんな行事はありませんと断言され、泣いていた。ごめん。
リーンさんのジト目が鋭かった。えへ。
南泉一文字並みの鋭さ。
そう言えば、ガゼムさんは、あれから何度もトライするも、未だ南泉一文字を再現するに至っていない。
やっぱり難しいんだね。
とりあえず日本刀が拡散する事はまだ先になりそうで安心した。
9歳になった頃、レイティシアちゃんが中等部を卒業した。高等部へ行くのかと思ってたら、高等部は各部門の専門教育機関になるそうで、嫁入り準備が始まるレイティシアちゃんは、通う事はないようだ。
ショボン。寂しい。
この頃、王国の一般兵にまで、薩摩示現流が伝わっていた。一年ちょっと前の討伐演習で有効性が認められたとかなんとか……。
ローゼリア王国はついに薩摩藩となるのだろうか。島津斉彬に国王になってもらわねば。
ちなみに、現国王の名前は、ナーキアル・ローゼリア。名前、ちょっと掠ってんじゃん!!
いっそ、ナーリアキラに改名しても……、うん不敬だね。
さらに半年。
なんとクリストフが中等部に上がってきた。
中々に優秀な部類らしい。
どうだ!と自慢してきたので、頑張りましたねぇと頭を撫でてやった。
満更でもない顔してたから、わたしは半年後の試験で中等部卒業しますよ?って言ったら、泣きそうな顔になってた。
頑張れクリストフ。
そう半年後の試験で卒業しなければ。
なぜなら、マリーちゃんが卒業したから。
マリーちゃんも高等部に行くのではなく、卒業と同時にレイティシアちゃんの侍女になるのだと。
マリーちゃんがいない学院など、用はないからね。
そして10歳。
早い成長期だったのか、背が伸びた。
そして、なんと……、胸が、ある……っ!!
前世は高校生でも俎板だったから、人生初の胸だ!!気づいた時に思わず小躍りしちゃったよね。徐々に成長すると気づかないもんだねぇ…
そして、今日。
実力試験の日。
わたし、ルナ。10歳4ヶ月。
今、わたしは試験が行われる教室にいるわ……。
そして。
わたしの目の前に、いるわ……
どこに行ってたのよ。
毎日、お皿に肉、用意しては捨ててたのよ?
心配したじゃない。
違う誰かについて見てたの?
涙でよく見えないじゃない。
試験、失敗したらどうしてくれるのよ。
わたし、ちょっと大きくなったよ?
わかる?ルナだよ?フードに入ってもいいよ?
前と変わらない姿で、アマテラスがわたしの席で丸くなっていた。
わたしに気づくと、身体を起こし、笑ったような表情を浮かべた。
不穏、でも、それがいい。
おかえり、アマテラス。




