第84話 変化と喪失感
翌朝、鳥の囀りとともに、目が覚めて見上げる天井。
棒が突き立ち、分厚い布を持ち上げている。
どこだここ?
しばし考えて、思い出した。
あ、天幕!演習で野営してるんだった。
両隣には、二人の美少女。
マリーちゃんとレイティシアちゃん。
ふっ、これが噂の朝チュンというやつか……
うん、違うよね。わかってる。
昨日随分メンタル的に大変だったし、夜更かしトークもしたから、寝坊するかと思ったけど、しっかりいつもと同じくらいの時間に目が覚めたようだ。
習慣ってすごいね。
いそいそと、隣の美少女達を起こさない様に、外に出る。
ルーチンワーク、素振りを始めようとした時、手に持っているのが、いつもの兼定ではなくて、南泉一文字であることに気がついた。
「これ、振ってて大丈夫かな……」
朝から真剣を振り回す少女。
うん、通報案件だよね、前世なら。
天幕から少し離れたところで、抜いて、素振りを始める。
やっぱり、刀身綺麗だな。
光を反射して煌めいている。
素振りをしていると、たまたま、小さな羽虫が刃の軌道と重なった。
音もなく2つになる羽虫。
粉砕されたのではなく、斬った。
これはすごい、思わずニヤついてしまう。
走馬灯視界を全開で羽虫を探す。
発見、そして斬る。発見、斬る……。
いい訓練かも。まるでゲームだ。
「ふふっ、あはっ、あはは!」
笑い声が漏れる。
爽快…爽快だよ!
……。
いけない。
これは、入口だ。危険人物への。
走馬灯の回転が遅くなるとともに、鼓動が早くなっていく。
動きを止めた身体は熱をもっているのに、冷や汗が冷たい。
持っていた布で刀身を吹き上げ、鞘に納める。
切れ味にとんでもなく高揚していた。
このまま、こんなこと続けると、どんどんエスカレートしていく確信がある。
虫から、小動物、大型の動物、そして人へ。
人斬りあすかが誕生するところだった。
まさか、わたしの中にこんな危うい種があるとは思わなかったよ。
すっきりしない想いを抱えて天幕に戻った。
演習二日目はただ帰るだけ。
寮につくまでが演習ですよ!
帰りの馬車は、なぜか薩摩班に押されるように最前席に座らされる。
そして、キラキラした目で何かを期待されてる。
なに?これ。
なんか語れってこと?語ることなんて何もないよ?
「ねぇ、ルナちゃん。また歌ってくれないかな?」
え……、えええええ!
鼻歌、聞かれてただけでも恥ずかしいのに?!
薩摩班がにじり寄ってくるような迫力。
これは、なんだか逃げれる気がしない。
だから最前席に押し込んだのか。
「じゃあ、異国の歌を一曲だけ……。順番に皆、歌ってもらいますからね?」
ならば、わたしからも無茶振りしようじゃないか。どうだ!このカラオケパーティの責務は!
これで引くかと思ったら皆大盛り上がりだ。
あれ?皆パーリーピーポーなの?
仕方ない、何を歌おうか……
憶えているやつ……歌えるやつ……
ん…、あれにしよう。
14歳の少年少女が巨大な人造人間兵器に乗って神の使いと戦うやつの劇場版。
魂を繰り返しちゃおうじゃないか。
アカペラで、日本語で。
意外にも上手く歌えてるんじゃない?
伴奏欲しいな。
囁くようなアカペラから始まり、しだいに熱を孕み力強くなっていく。
情緒が緩む。
そして、寂しさが心の奥底から表出する。
フードの中に、暖かい重みがない。
ちゃんと帰ってきてよ、アマテラス。
お肉用意しておくからさ。




