第74話 走馬灯ちゃんと鍛冶師
目映い炎を上げる炉。
振り下ろされる槌と金属の塊から散る火花。
槌が打ちつけられると同時に、鋭い金属音が耳を劈く。
これは、走馬灯に感謝だね。
熱せられ、叩かれて弾き出された金属の不純物が光を伴って線を引き、そして消えていく。
それがゆっくりと空間を彩る様は、走馬灯感覚でなければ捉えられなかった。
「おう、マクスさん!専用の武器作るって話だよな。直々にお出ましとは、それだけ重要なんだな!」
いかにも親方って風貌のおじさんがでてきた。
筋肉が凄い。ムッキムキだ。
「ええ、とても重要な仕事ですよ、ガゼム親方。この娘の武器なんですがね、少し特殊な物になりそうなんですよ」
この筋肉ダルマはガゼムさんというらしい。
こんな小娘の武器を作らされるなんて申し訳ないな。
とりあえず、しおらしく頭を下げとく。
「よろしくお願いします、ガゼムさん」
頭を上げると、目尻を下げて口が半円を描いているガゼムさん。
頭に手を乗せてきて、撫で始めた。
ゴツゴツの手がちょっと痛い。
「可愛らしい娘っ子だな!うちの娘と同じくらいの年かな。その年で武器持たされるなんてなぁ……。おっちゃんが良いもん作ってやるからな」
あ、なんか凄くいい人っぽい。
鍛冶師って頑固者のイメージあったけど、そんな事はないようだ。
「で?どんな得物なんだ?特殊って」
ガゼムさんの問いかけにマクスさんが答える。
「ノーマンの見立てでは、片刃の少し反りがある物が良いそうです。ただ、この娘、ルナが扱えるくらいの大きさ、重さで」
いつの間に持ち出していたのか、兼定をガゼムさんに渡して説明している。
ガゼムさんは、兼定を柄側から覗いたり、重心を確認したりしている。
「シミターって感じか?扱えるくらいに薄くするとすぐ折れちまうぞ?嬢ちゃん、どんな感じで使いたいんだ?」
んー、まあ無理だったらありものでもいいし、取り合えす要望は伝えてみるか。
兼定を受け取り、いつもの素振りをする。
ガゼムさんの表情が心無しか引き締まる。
「こんな感じで両手で持って使います。ゴリラが相手じゃなければ、受け止めるような使い方はしませんけど、折れず、曲がらず、よく切れる、が理想ですね」
ガゼムさん、黙ってる……。
何か言ってよぅ。駄目なら駄目でいいからさ。
「……その振りじゃ、シミターとは合わねぇな。折れず、曲がらず、よく切れる……か。武器作る鍛冶師の目標だがなぁ、よく知ってんな、嬢ちゃん」
そりゃあ、刀を擬人化する文化がある世界の元住人ですからね!なんなら趣味の範囲が拡大して、作刀の動画も見ちゃったしね!アニメの刀再現とか、ロマンが溢れた!
ん?ここでも再現しちゃえる?
「わたしの地元(前世)だと、何回も鉄を折返しながら鍛錬して、そうやって出来たいくつかの鉄の内、柔らかい鉄に、硬い鉄を被せて、叩いて延ばして形をつくったら、焼き物?用の土を刃の部分に薄く、それ以外を厚く置いて、熱した後、水の中に突っ込む?とかそんなやり方で作ってました」
たしかこんな感じ。
うろ憶えだけど。平安から鎌倉時代にはできてたんだから、この世界の技術レベルでも再現できるはず!
あっ…、ガゼムさんの目がやばい。
ちょ、そんな目で近づかれると、こわいよ?
手が肩に重みを持って置かれる。
「嬢ちゃん……。もっと詳しく。しらねぇ工法だ。硬い鉄と柔らかい鉄?どう組み合わせる。土?どんな土でもいいのか?水の中に突っ込む?刃の部分だけじゃなくてか?割れねぇのか?それ」
ガゼムさん、目がどこか遠いとこ見てるけど……
わたしの前世は見えてないよね?
わたしの前世見ても、刀鍛冶はいないけど。
動画見るか?刀剣博物館に行って?
「嬢ちゃんの地元から、鍛冶師を呼んだほうがいいかもしれんな……」
いないから!!あの村に、刀鍛冶いないから!!
なだめすかして、誤魔化して、走馬灯フル回転で、ひたすら憶えているだけの動画の知識を書き写した。
ガゼムさんが納得してくれるまで……。
走馬灯ちゃん、初めて仕事したんじゃないかな!




