第68話 猫のお話
わたし、ルナ。
今教官室の前にいるわ……。
なんて言っても伝わるわけでもなく、授業後の教官室の前。ノックをするといつも通り(何回も来るような場所でもないらしいが)返事があって、これまたいつも通り、奥の部屋へ通された。
奥の部屋に入ると、やっぱりリーンさんのキャラが解かれる。
「ふわぁあ、ルナちゃん、また何かやったの?あれ、ルナちゃんの仕込みでしょ?」
断じて仕込んではいない……はず。
少なくともあの場で薩摩藩士になれとは言っていないはずだ。彼女達が自ら薩摩藩に飛び込んだだけだ。
「わたしが仕込んだわけでは……」
リーンさん、頬杖ついてジト目。
あはは〜、信じてないわ。
「ルナちゃんくるまで、こんな事一回もなかったからねぇ」
うん、そうだよね。私も『ちぇすと』はやり過ぎたと思ってる。反省はしていない。彼女達が強くなって、やらかしてくれれば、わたしが埋没していくから、それでいいのだ。計画通り。
「まぁ、いいわ。それよりも別の話があるの」
あ、あれ?この件じゃないの?
なんか他にやらかしてたかな?
「朝の精霊様の事なんだけどね。ちょっと注意しておかないといけないことがあるから」
あ!そうだ!後で説明する、って言われてたな。
色々あり過ぎて、すっかり忘れてたわ。
「あの猫ちゃん、ホントに精霊…様、なんですか?わたしにはただの猫にしか見えなかったんでますけど」
他の生徒も、猫にしか見えてなかった。でも、リーンさんは一目で気付いたみたいなんだよね。
「あの精霊様はね、教官の間では有名なのよ。それに精霊様は影がないから、見分けは簡単なのよ」
ほえー、そうなのか。影なんて気にしてなかったよ。教官の中では有名ってことは、以前にも出てきてなんかしてたんだろうな。
「じゃあ、ダイア様に連れていかれたから、一件落着ですね、よかったよかった」
何も注意することはない!
もう会うことはない!無いと信じたい……。
「たぶん、ルナちゃん目を付けられちゃったのよね、精霊様に。だから、伝えておかなきゃって……、何か起きる前に」
もう、十分だよ…
そういうイベントは、生粋のこの世界の人でこなしてよぅ。クリストフとか、ポッチャリマンとかいるでしょうに。
「精霊様は気まぐれなの。幸運を招いたり、厄災を振りまいたり、単なるイタズラだけしたりって感じで。その度に大騒動になるんだけど、追い払う事も、懐柔することもできなくてね」
振り幅すげぇな!
大吉から大凶まであるおみくじだね。
イタズラでも大騒動って、飼い主、ちゃんと面倒見ろよ。
「ダイア様は、その場にいれば、ある程度対処出来るみたいなんだけど、基本的に神出鬼没だから、どうしても後手にまわるのよね」
飼い猫と思ったら野良猫だった。
いや、野良精霊?飼われている精霊がいるのかはわかんないけど。
「今回は、たぶんルナちゃんが目を付けられちゃったから、なるべく悪い事がおきないように、今わかっている傾向と対策をね、伝えておこうと思って」
あぁ、ありがたい。やっぱりリーンさんは優しい。
「まずは、絶対に危害を加えないこと。それから、突然出てきても驚かないこと。側にいる時は、まめに構うこと。でも構いすぎないこと。食べ物は必要ないらしいけど、あげると喜ぶらしいわよ、でも塩味の強いものは厳禁」
うん、まんま猫だな。
「ちなみに、過去に目を付けられちゃった人はどうだったんですか?」
これだけ扱いがはっきりしてるってことは、割と逸話とか残ってるよね?
「んー、直接知ってるのだと、良い方に転んだやつかな。今の王妃様。もと下級貴族の令嬢だったんだけどね、あれよあれよという間に、当時の王太子に見初められて、ご成婚。王宮の肖像画に精霊様も一緒に描かれてるわ」
王妃様ってことは、レイティシアちゃんのお母さんだね、やっぱり心当たりあったんだな、レイティシアちゃん。
それにしても、ゲームみたいなサクセスストーリーだね、実は猫ちゃん精霊様がプレーヤーアバターだったりして。
「悪いやつだと、ご実家の邸宅が炎上、その事後処理で、不正が次々と明らかになって没落。学院内での影響力もなくなって、逆上して抜剣、流血騒ぎを引き起こした高位貴族のご子息がいたっていうのは聞いたことあるわよ」
えぇ……。まぁ、悪い事してたなら、自業自得とも言えなくもないけど……。
でも、どっちのケースも精霊様、関係なく無い?
「そんなわけで、ルナちゃんは精霊様の注目物件、っていうことになりそうだから、何かありそうだったら、教官の誰かか、ダイア様に相談してね」
……。猫ちゃん精霊様を操作しているプレーヤー様、何とぞ平穏ルートを選択してください……
まあ、とりあえずは猫として接するしかなさそうだ。保護猫活動だな。




