第32話 ゴリラは嫌いだ
鈍い音を立てながら右腕が曲がっていく、いや折れていく。
耳に甲高い音が鳴っている。
過敏になっている神経が脳に情報をひっきりなしに届ける。
痛み、熱、衝撃……
次々と情報が入れ替わる。
甲高い音が自分の口から漏れる悲鳴だと言うことに気がついた。
走馬灯が回る
痛みは止まらない
周りから駆けてくる教官たち
呆然と佇むゴリラ
泣きそうな新入生達
目を見開くクリストフ
折れた自分の右腕
意識が薄れていく。
景色が倒れていく。
顔に衝撃。
世界が真っ暗になった。
………
夢……トラック
夢……斧を振り上げる盗賊
夢……弾ける木刀、その向こうにゴリラ
夢……狼の群れ
夢……締め上げられる身体と用意されたドレス
夢……手に食い込む木剣、その向こうにゴリラ
……
いや、少しは心地良い夢見せてよ!
覚醒する意識。
目の前には
「知らない天井だ……」
いや、今度はホントに!
ここ、どこ?!
ん?あれ?何が!あれ?
「混乱している!鎮静を!」
なに?誰?ん?鎮静?ちんせい?なにそれ?んんんん!
あ……なんか……寝かされる感じ……
これは……蝶ネクタイ着けた眼鏡の少年でもいる……のか……?
いやいや、違うて!
ねかせんなや!!
何ね!なんばしょっとか!
走馬灯全開で跳ね起きた。
周りには、教官と、知らないおっさんと、リーンさんと、……ゴリラ。
「…………………。」
心配そうな教官達
泣きそうなリーンさん
オロオロしてるゴリラ
様子を見てるオッサン
ゴリラが喋りだす、ゴリラのくせに
「あ、あの…だな…すまん……手元が……」
「却下、無理、お断り、ゴリラ、ダメ、絶対」
走馬灯全開で拒否しちゃう!!
頭にリーンさんの手が添えられて、撫でられる。
気持ちいい。やっぱり優しい。
リーンさん、好き。
「ふむ……大丈夫そうですね……。もう大事はないでしょう」
ん?オッサン?何がさ?大事、ありまくりでしょうよ!
「ちゃんと動いてますね、ありがとうございます、ライニール様」
ん?あ?らいにー?さっきのオッサン?
何を……、ん?
右腕、治ってる……?
リーンさんが話しだした。
「公爵家の方がね、ルナちゃんの折れた腕を治癒魔法で治してくれたのよ」
え?そうなの?気づかなかった。
公爵家?かなり上位貴族!?平民に!?
ていうか、魔法、見たかった。
「はっはっ!まぁ、公爵家の放蕩者の三男だからね!こんなことならいくらでも協力するさ。未来ある若者のためならね!」
ライニール様は私を覗き込んできた。
「ライゼン教官に本気を出させるとは、見どころあるね、君。グラナド伯爵の預かり、だっけ?ウチの姪っ子と友達になってくれないかな?」
もぅ!立て続けに厄介事の匂いしかしない!!




