第135話 出立
わたし、ルナアスカ、12歳になった。
今、わたしの周りは、人が行き交い、馬車に荷物を積んではまた次の荷物を取りに行く。
わたしの前には、レイティシアちゃんが、ナーキアル陛下、王妃様と話をしている。
背後は、沢山の護衛の兵士。
そう、今日はついにベルカイトへ出立するのだ。
式典のようなものはない。ただ、王国中に今日、レイティシアちゃんがベルカイトに出立することは告げられている。
カンギルを経由して、国境でベルカイト側の護衛兵と入れ替わるから、今いる兵士は国境まで行ったら引き返すことになる。
ベルカイトまでついて行くのは、わたしと、マリーちゃん、タルおばちゃま、シーナさんだけだ。
なんとも心細いことだね。
隣国に嫁いで行くというのは、そういうものなのだそうだ。そりゃそうだよね、向こうからしても、武力持参されると、それはそれで疑いを持つだろうし。
とは言え、諜報の人はどこかに、いや、どこにでも居るんだろうな。
アウレリア様には、上手く使えって言われたけど、接触の仕方も、誰がその人なのかもわからないから使いようがない。
まあ、その内、用があれば接触してくるだろう。
レイティシアちゃんが、別れの挨拶が終わったのか、馬車に乗り込んだ。
いよいよベルカイトに向けて出立だ。
マリーちゃんとタルおばちゃまは、一緒に馬車の中へ、シーナさんは馬に乗る。
わたしは、馬にはまだ上手く乗れないので、御者台に収まる。
「ルナも、中に入ればいいのに」
明かり取り用の小さな窓を開けて、呼びかける声。
レイティシアちゃんよ、わたしは護衛だよ?
馬車の中に入っちゃったら、すぐに対応できなくなるって。
「中に入ったら、お話が楽しくって、役目を放棄しちゃうので、タルさんに怒られちゃいます」
ほらほら、たしなめられちゃいなさい。タルおばちゃま、出番ですよ?
5台の馬車。百人を超える兵士が王都を出ていく。
歓声、祝いの言葉、称える声、便乗して祭り気分を味わう声。
道の両端を埋め尽くす人々。
学院の側に来た時、その一角に学院生と教官達の姿が見えた。
ライゼン教官、相変わらずゴリラだな…。この世界の薩摩示現流の開祖になっちゃったね。
リーンさん、心配そうな顔。また、会いたいな。年一回くらいは帰ってこれないかな。
中等部で一緒になった子達は半分くらいはもう卒業しただろうか。でも知ってる顔がチラホラいる。わたしを発見して、手を振ってくれてる。
クリストフ…。見送ってくれるんだ。
わたしを見てる。わたしも見つめる。
出会った時とは逆だね。
ごめんね、ちゃんと従者、やれなくて。
でも、凄く頑張ってるって聞いてるよ。
ちゃんと初恋は終わりにできたかな。
婚約者と、ちゃんと仲良くできてるかな。
本当は、会ってかけるべき言葉を飲み込んで、軽く手を振った。
建物の陰に隠れ、見えなくなる。
わたしは、ルナアスカ・ヒノモト。
レイティシアちゃんの護衛騎士。
マリーちゃんのマブ。
成りたかった平凡な事務員にはなれなかったけど、成るべきものにはなった。
見えなくなった学院から、声が届いた気がする。
『頑張れ』と。
風が吹き抜け、鳥たちが羽ばたく。
群衆の中、わたしの視界は動きを止めていく。
沢山の感情、そして暖かい想いが、わたしの視界を満たしていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
読んでくれている方がいることが、続きを書ける活力となっています。
この話で、前半終了です。
次話から、ベルカイト篇として、ルナ、マリー、レイティシアが、陰謀と、闘争が待ち受ける中に入り込んでいきます。
お楽しみいただければ嬉しいです。




