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第134話 恩師との他愛もない会話

リーンさんの教官室。

何度も呼び出されては、リーンさんが溶けてた部屋。懐かしい。

事前に訪問することは手紙で伝えて、了承は貰ってるから、居てくれるはず。


ノックをすると、教官モードの声が聞こえた。


「入ります……。リーンさん、お久しぶりです。ルナです。わかりますか?」


リーンさんの姿が見えた瞬間、言葉が出なかった。変わらない姿、優しい眼差し、伝わってくる慈愛の感情。


「久しぶりですね、ルナさん。もちろんわかりますよ、とても立派に、綺麗になりましたね。隣の部屋で話しましょう」


リーンさんに案内されるがまま、隣の部屋に入る。扉が閉められると、ゆるふわお姉さんモードのリーンさんに変貌する。


「ルナちゃん!立派になったわねぇ。あ、叙爵したんだから、ヒノモト卿って呼ばないといけないんだったかな?」


顔の横で手を合わせて笑顔を向けてくれる。初めて会った時と変わらない、素敵なお姉さんだ。


「ルナでいいですよぅ、名前、少し変わったけど、飾りがついたようなもんですから」


公式の場でなければ、『ルナ』のままでいいって言われてるしね。


「リーンさんは、その後、お変わりありませんか?」


特別聞きたいことがあるわけじゃない。

ただ、わたしにとって大切な人、いろんな事を教えてくれたリーンさんと、他愛無い話がしたかっただけだから。

ベルカイトに行ったら、暫く会えないから。


リーンさんも、色々と事情は知ってるのだろう。それでも、何も言わずに、学院の事を話してくれる。


平民女子ーズの事、剣術の授業が煩くなったこと、討伐演習の見直し、そして、クリストフが頑張っていること。


「クリストフさんは、今や、『王都学院恋物語』の登場人物と見立てられていますよ?ルナちゃん、わざと似せて書いたでしょ?!決断篇で!」


たはっ!バレたか。

そう、2番人気の登場人物は、クリストフがモデルだ。決断篇では、わざと身を引いて、主人公に決断の後押しをする役目。

そのシーンは、なかなかいい感じで描けたんじゃないかな。レイティシアちゃんがウルウルしてたし。


「学院で、本当に、修学旅行も企画しようか、なんて話も出てますよ?発展した都市の視察ということで、カンギルに行ったらどうかって」


おおお!なんと!空想が現実になってしまう!


「それは……、凄いですね。カンギル、確かに統治側からでも、平民側からでも、勉強になりそうですもんね。グラナド伯爵ならダメとは言わないと思いますし」


ふふっ、とリーンさんが笑う。


「今、話した事は全部、ルナちゃんが関わったことで変った事だよ。私ね、思ってたの。ルナちゃんは見ている世界が違ったんじゃないかなって。結構な騒ぎにはなったのもあるけど、今まで変わらなかった学院に変化が起こってる。それはね、凄いことなんだよ。良い方に変わるか、悪い方に変わるかは、私達次第ね」


……思いもよらないことを告げられた。

わたしが変えた?いやいや、そんなことは…。

でも、リーンさんの表情は、嘘を言ってない。変わっていく学院への期待も感じる。


「そうですか……、それなら…」


わたしは学院で、レイティシアちゃんとマリーちゃんに出会ったことだけで、満足してたけど、もう一つ贅沢な物を貰った。


「嬉しいです!リーンさんのそんな充実した顔見れて!」


「ルナちゃんのおかげだよ!」


そう言って、リーンさんは、本棚から一冊の本を手にとる。その本棚をよく見ると、背表紙に『王都学院恋物語』と書かれ、綺麗に装丁された本が並んでいた。


「それとね、恋物語に感化されて、物語を創作する子も出てきたのよ?まあ、拙い物が多いんだけど、これは中々いい部類かな」


渡された本のタイトルは『異端の魔術師』とある。パラっと捲って流し読みすると、どうやら歴史創作物だ。


「それは写しだから、持っていって?ベルカイトにはこんな娯楽があるかわからないから、少しは慰みになるんじゃないかな?」


やっぱり知っていたんだ、わたしがレイティシアちゃんに付いてベルカイトに行くことを。

餞別というわけではないのだろうけど、気に掛けてくれていたらしい。


「ありがとうございます…。感想、手紙に書いて送るので、作者の子に渡してください」


ベルカイトに持って行くものがまた一つ増えた。リーンさんから以前に貰った、王国紀とあわせて、この本も大切なわたしの宝物だ。


「ベルカイトは、冬の時期はとても寒くなるらしいから、身体には気をつけてね。それから……」


言い淀むリーンさんには、心配の色。政情の事もある程度は把握してるのかもしれない。


「……無事で、元気でいてね?また、ローゼリアに帰ってきたら、顔見せてくれると嬉しいよ」


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