第133話 王都学院の貴公子
「じゃあ、シーナさん。少し出ますので、レイティシア様とマリーのこと、よろしくお願いします」
シーナさんが護衛騎士となって10日程が経って、仕事内容の共有ができたあたりで、わたしはレイティシアちゃんに許可を貰って、1日フリーとなった。
その間に、シーナさんの事情も聞くことができた。シーナさんは、もともと男爵家令嬢として育てられていたが、魔法適性が無かったこと、背が高くなり、14歳くらいで170cmを超えたところで、男性が寄ってこなくなって縁談もこなくなったことから、ひたすら剣術に打ち込んできたのだそうだ。
その頃には、学院のマドンナならぬ、貴公子として、やたら女性にモテたのだとか。
うん、そうだよね、わたしレベルでそうなのだから、もっとカッコいいシーナさんは、女性から格好の獲物だったはず。
学院の剣術の成績が認められて、近衛に取り立てられたとのこと。
最初の王族護衛の任務が、あのお茶会だったという。ついてないよね、近くに猫いなかった?
その時に、シーナさんの折れた剣を取って、闘ったわたしのことが、ずっと気になっていたのだそうだ。
そして、建国の宴の舞踏会。
シーナさんの脳が焼き切れたらしい。そこからの説明は、走馬灯時間のわたしにも聞き取れなかった。
取り敢えず、かろうじて聞き取れたのは、
結婚しない。
また見たい。
次はレイティシアちゃんと。
見てるだけでいい。
……等々。
一緒に聞いていたレイティシアちゃんが同意しまくって、マリーちゃんがテーブルを叩きながら呼吸困難になったあたりで、シーナさんは信頼を得た。
なんじゃそりゃ。
「はい!命に代えても、二人をお守りします!」
あー、そう言うだろうなとは思ってた。
でも、レイティシアちゃんの護衛騎士になるのならば、それじゃいけない。
「命と引き換えにはしないで下さいね、シーナさん。シーナさんがいなくなったら、殿下は無防備になってしまうんです。シーナさんも、絶対に生き残らなきゃダメですからね」
そうじゃないと、レイティシアちゃんが悲しむ。自分を責めちゃう。きっと。
ていうか、そもそも、ここで命に危機が及ぶこともないしね。
「……はい……。ルナさん…ッ!」
今、トゥンク、してないよね?そういうのいいから!
瞳を潤ませたシーナさんに後を託して、わたしは学院へ向かう。
王宮から学院は、そんなに遠くない。
なんなら、壁一つ越えれば、すぐに着いてしまうくらいの距離。
王宮から学院へ繋がる門を越えると、見覚えのある景色が広がる。
訓練場、教官棟、学生寮、図書館……。
懐かしい気持ち。
今は、講義中なのか、学生の姿は見えない。
あ……、あそこはアマテラスと初めて会った場所
……。
学院の記憶が、呼び覚まされ、走馬灯となって駆け巡る。
目指すは教官棟だ。
何度となく通った、リーンさんがいる場所。
今日、訪れることは、前もって伝えていて、待っている、っていう返事を貰ってるから、訪問することは問題ないはず。
間もなく教官棟に着くというところで、ちょうど、講義が終わったのか、学生達が、建物から溢れ出てきた。
足が止まる。
瞬間、わたしも学生の頃に戻った心地。
前世の知識とか、走馬灯知覚が無ければ、まだわたしも、あの中にいたはずだ。
寂しさと、安堵とが綯い交ぜになる。
あの中にいるのも、楽しかっただろうな。
でも、今、レイティシアちゃんとマリーちゃんの側にいることは、かけがえの無いことだ。
再び足を動かし始めた時、視界のほんの一角の景色が飛び込んでくる。
沢山の女子生徒に囲まれる男性。
金髪金眼、逞しい身体。
優しい笑顔に、視線を向けるそれぞれへの気遣いの表情。
クリストフ様、短い間に立派になったね。
振る舞いも、貴公子そのものだ。
わたしのことは、忘れちゃったかな…忘れてくれたかな。
女の子には、誠実にね。
軽い遊びの気分で翻弄しちゃ、だめだよ?
あなたは、本当に魅力的なのだから。




