第131話 優雅の裏側
「とても、お綺麗です、レイティシア殿下」
お針子さんと、マリーちゃん、タルおばちゃまで、婚礼用のドレスの試着が行われている。
と言っても、長い期間かけて仕立てたものの仕上げだ。もう少し詰めるかとか、動きやすさの確認とか。
てっきり、王族のウェディングドレスだから、プリンセスラインの、布をふんだんに使った物が用意されるのだと思ってたけど、今レイティシアちゃんが着ているのは、ビスチェタイプのマーメイドラインだ。
レイティシアちゃん、採寸してから、体型が変わっていく最中らしく、胸が少し苦しい、ウエストが余る等、羨ましい修正箇所を指摘していく。
なんか、こう……、うん、女性から見ても美しくて、可憐で、魅力的。さらに言えば扇情的、なんならエッチ。まことにけしからん。
クッ!エルディーン王子め!レイティシアちゃん泣かせたら、加州清光の錆にしてくれるからなッ!
そんな事を考えてるわたしは、サボってるわけじゃない。ちゃんと護衛のお仕事中だ。
扉の横に立って、来訪者の気配を探ってる。
何かと悩まされてる走馬灯だけど、今この瞬間は、有用だ。
綺麗なドレス姿のレイティシアちゃんを存分に眺めてられる……、じゃない、扉の向こうを行き交う人の気配を感じられるから。
そして、わかってしまう。
普段人が通る通路とは違う通路の存在。
多分、隠し通路。王族の緊急退避用か、諜報用。
ま、当然あるよね、そういうの。
誰かが通れば、わたしはそこに道があることを感じ取ってしまう。
いつか、これも役に立つのだろうか。
扉に向かってくる人の気配。
訪問者かな。
「どなたか、いらっしゃるようです。開けても大丈夫そうでしょうか?」
「わかりました。レイティシア様、少しケープを纏いましょう」
タルおばちゃまが、ためらいなく返事をする。
お針子さん達の怪訝な顔。
続いて扉をノックする音。
訪問者を確認すると、王妃様だった。
レイティシアちゃんがケープを付けたのを確認して、扉を開ける。
アマテラスを抱っこした王妃様が、お付の者を引き連れて入ってきた。
アマテラス、最近見ないと思ったら、王妃様のとこにいたのね。捕まってたと言うべきかもしれないけど。
「とても素敵だわ、レイティシア……。新しいデザインね、あなたが考えたの?」
王妃様がレイティシアちゃんに歩み寄っていく。アマテラスが腕から飛び降りて、わたしの隣でお座りした。なに?あなたも護衛、するの?
「ありがとうございます、お母様。デザインは、物語にでてくる物なのですが、記述がとても素敵だったので、この者達と考えて作ってもらいましたの」
ほう!マーメイドライン、今まで無かったのね!そういや、夜会とかでも見かけた記憶ないや。
ていうか、その物語、読みたい!
後で、レイティシアちゃんに教えてもらおう。
「『王都学院恋物語』よね、今度劇場で上演されるらしいわね」
………。
ウボァ……。我の作品であったか。
確かに決断篇で、ドレスの記述した憶えある…。
ていうか、上演って!作者、許可してねぇよ?!
機会があれば見に行こう…。
王妃様とレイティシアちゃんが歓談する中、マリーちゃんがわたしの方にやってきた。
「ルナ、大丈夫?」
人が増えたから、心配してくれたらしい。
お付の人も合わせると、10人以上がこの部屋にいるからね。
「マリーがいてくれるから、大丈夫です。あと、この子も」
視線を下にずらすと、得意気な顔をしているアマテラス。
マリーちゃんが屈んで、首のところを指で撫でると、気持ちよさそうにしてる。
視界に少しノイズ。
なるほど、王族が動くと、裏で動く人も一緒に来るのか。諜報なのか、表面から見える護衛の近衛とは別の護衛か。
きっと、憶えておくべき事だろう。
ベルカイトでも、きっと同じはずだ。
アマテラスの鳴らす喉の音とともに、わたしは裏側の状況を心に留め置いた。




