第125話 過去の答え合わせ
「それ、わたしに伝えても大丈夫なやつですか?代わりに何か見返りでも、求められてもこまりますよ?」
後から、『知ってしまったな…、知られたからには消えてもらう』なんて言われても困るし。
「なかなか頭が回るね、本当に10歳?誰も知らない情報を開示されるっていう状況、飛びついて後から痛い目見る人、結構、多いからね」
アウレリア様は、わたしをちゃんと女性としてダンスフロアまで、エスコートする気のようだ。
「まあ大丈夫、君に手をだしたら、大変なことになりそうだしね。……それに、君も無関係ではないんだよ」
ベルカイトの情勢に?わたしが?
ないない、ミラちゃんに肉あげて、フェンドールに啖呵きったくらいで何か起きるわけないでしょ?
あるとすれば……。
「レイティシアち…殿下の婚約者、エルディーン第二王子絡みですか?わたしにはあまり関係するとは、思いませんけど……」
それには、何も答えられないまま、なんとなく差し出された手を取ってしまい、ダンスフロアに進んでいく。
なんだろう、さりげなく行動を誘導されてる気がする。
「では、お相手感謝します、ヒノモト卿。始めましょう」
今度は女性パートを踊らないといけないのだろう。見様見真似のカーテシー。
スカートじゃないから、ちょっと様になってない気がする。
「わたし、ダンス、苦手ですけど……」
アウレリア様は動きに淀みがない。ただのポッチャリさんではない、訓練されたポッチャリさんだ。
「大丈夫、上手く踊る必要はないし、私がフォローするから」
フォロー?と、思うまもなく、ステップのタイミングを間違えた。
すると、アウレリア様が大げさによろめき、注目する人達に向かって、恥ずかしそうに頭を下げていた。次第に注目が外れていく。
わたしのミスを自分のミスにした……。
そっち!?なんてフォローの仕方よっ!
「さて、周りに気にされなくなったところで、まずは知られている事実の共有から始めようか」
喧騒に紛れる、でも流れるような声が確かに耳に届く。
「現ベルカイト王は、数年前より、不治の病を患い、そう長くないと城下にまで噂が広まっている。長くても3年は持たないだろうと」
初っ端から、凄いのきたな!
っていうか、城下までそんな話が伝わってるの?!
「当然、立太子が行われる。ベルカイトは4人の王子がいる。第一王子リオハート、第二王子エルディーン、第三王子アルドレン、第四王子ジルドーレ」
……ベルカイト王、子沢山だなっ!側室何人いるのよ!
「第一、第二の王子は、母同士が仲がいい。リオハート王子を差し置いてエルディーン王子が立つことは考えにくい」
ということは、第四王女のミラナリアちゃんも、そっち側ってことか。
長子が優先されるなら、わりと盤石じゃない?
「第三王子は母を同じくする、第二、第三王女と仲がいい。というより、あまり平和的ではない野心で繋がっている。第一王女は、他国に嫁いでいて、その国の次期王妃となる。第四王子はまだ6歳、いまのところは何も影響力は持たない。」
ステップを間違えた。
すかさず、アウレリア様がよろけてミスを被る。
「さて、問題。3年前のお茶会での暗殺未遂騒動、仮に第一王子の仕業だった、としたら。もしそれが露見したら、どうなると思う?」
戦慄。
空気を貫く矢の音、掴んだ矢の熱さ、切り裂く足の感触が蘇る。
わたしが、今ここにこうしている発端がまさにあの事件だ。
エルディーン王子とレイティシアちゃんは、どう見ても政略結婚というよりは、お互いに惹かれ、尊重しあっていた。
ならば……
「……当然、我が国が非難。我が国との摩擦を懸念して、第一王子が失脚、レイティシア殿下が害されようとしたことで第二王子が離れていく。それから、ベルカイトの王族がそれぞれどれだけの影響力をもっているかはわかりませんが、立太子の動向は、第三王子が筆頭になるかもしれませんね」
我が意を得たりとばかりに、アウレリア様が微笑む。今度は派手に、わざとアウレリア様からよろけた。
「さすが最年少学院卒業だけあるね、実際に、捕らえた暗殺者達は、第一王子の手の者だと、自白してる。でも、ローゼリアはそれを握り潰した」
暗殺の真相はわかってないって聞いてたよ!?
どういうこと?
緩やかにターンを決めて、一度身体が離れる。
いや、違う。偽情報で国同士の関係が悪化するのを危惧したからか。
その情報を鵜呑みにして、最も得をするのは誰か。そしてその人物の関与を疑ってたとしたら……。目の前のこの男がいる以上、その可能性は否定できない。
「じゃあもう一つ仮定の話。あの暗殺が成功していたら、そして、第一王子の仕業だったと露見したら?」
息が詰まる。
くそ、なんて話をするんだ。
理解できちゃったじゃないか!
「……さっきの状況に加えて、陛下とレイティシア殿下を失うローゼリアは混乱に陥る。もし、時期と野心次第では、ベルカイトがローゼリアを乗っ取りにかかるかも……」
そして……、もしそれが本当に第三王子の思惑だとしたら、それを防いだのは、わたしだ…。
アウレリア様が、仰々しく礼をする。
いつの間にか曲が終わっていた。
「大正解。諜報の見解とも一致するよ、ヒノモト卿。さて、まだ話は先があるけど、もう一曲、踊りませんか?レディ」




