第124話 意外な出会い
「もう!マリーったら、抜け駆けよ?ずるいわ」
笑顔でマリーちゃんを責める、レイティシアちゃん。マリーちゃんは得意気に、わたしの腕にしがみつく。
「レイティシア殿下は、婚約されてますから、他の殿方のエスコートは受けられませんよ〜」
なんだ、マリーちゃん。尊いじゃないか。なに?婚約申し込んでいいかな?騎士爵じゃちょっと身分足りないけど。ていうか、殿方じゃないけど。
「むぅ〜!マリーのいじわるぅ!」
レイティシアちゃんとマリーちゃんが、もう、気の置けない仲になってるじゃん!
いいなぁ…、むぅ〜って、可愛すぎじゃない?!
「レイティシア様、最低限、一度ダンスしたので、わたしは側にいますからね?ほら、はいっ!あなたの護衛騎士ですよぉ〜」
レイティシアちゃんが空いてるわたしの腕に抱きつく。
「ねぇ、ルナ?ここから抱えて逃げてもいいのよ?」
何から逃げるのよ、レイティシアちゃん?
ほら、そんなことするから、会場の女子達が大変なことになってるのよ?
さしずめ、一人の騎士を取り合う王女と、伯爵令嬢の図。この中に男子は一人もいないけど。
いや、わたしはいいよ?ダンス申し込まれることはないし、話相手になってくれるから。
でも、主催側と会場の花としては、そういう訳にはいかないんじゃない?!
ほら、そろそろ何とかしないと、よからぬ妄想で顔真っ赤にして浸ってしまって、腰砕けになってる令嬢がいるから!!
わたしのせいじゃないよ!
「レイティシア殿下?主催側として、まだ踊ってない殿方の相手をなさっては?ほら、ライニール様、余ってますよ?」
マリーちゃん、容赦ないね。
ていうか、ライニール様、余るの?……ああ、断ってるのか。
放蕩者とか言ってたけど、権力とのバランス感覚なんじゃないかなぁ。
「マリーこそ……、お兄様?私の大事なマリーの次のダンスパートナーがいませんの。お相手して差し上げてもらえないでしょうか?」
まさかの王太子様というロイヤルカードを切るレイティシアちゃん。一連の会話を聞いていた王太子様がノリノリだ。さすがにこれは断れないマリーちゃん。
二人して、仕方ないわね、なんて言いながらダンスフロアに歩んでいく。
いや、その、二人いなくなると、わたしここではボッチになっちゃう……。
走馬灯が早くなっていくよぅ……。
「ヒノモト卿、少し話をさせてもらってもいいだろうか?」
ん?だれ?
さっきから、タイミング見計らってたよね?
なんとなく見覚えあるけど、話したことはないよね?貴方。
「父、母から、話は聞いているよ、ルナ。アウレリアだよ。はじめましてだね」
……名前に聞き覚えはない。
ナンパだな。知り合いのフリして近づくタイプの。十中八九、この後に続く言葉は、『あれ?私の事は知らない?』だよね。そして、『じゃあお互いを知るためにちょっと二人きりでお茶しようよ』とくる。
「ドナタデショウカ…」
こちとら、一見さんお断りだ。
ていうか、社交会で初対面の相手に挨拶するなら、誰か紹介者もつれてきなさいよ。
「あれ?聞いてないかな?アウレリア・グラナド。グラナド家の嫡男で、クリストフの兄だよ。クリスが随分と執着してるって聞いたけど、困ってはいないようだね」
………ん?…………!!!!!
うおっ!クリストフの兄か!!
いや!いるとは聞いてたけど、名前もビジュアルも知らんし!
「こ、これは失礼いたしました、アウレリア様、クリストフ様にお兄様がいらっしゃるとは聞いていたのですが、お名前は存じあげず……」
目の前にいるのは、金髪金眼の……少々、いや、だいぶポッチャリした男性。
クリストフとは似ても似つかな……、目元はそっくりだ。
背はわたしより高い。
華やかになれるのに、わざと地味に抑えているような服装。
この人、それぞれのパーツは凄くいいのに、意識してないと、モブに紛れそうなんだ。
「いや、いいんだよ。一度くらいは、挨拶しなきゃって思っただけだから。弟が随分迷惑かけたみたいだし、……ていうか、妾はないよねぇ!あはは!」
知ってんのか、それ!
いや…その、ちょっとビックリだよ。
「アウレリア、ルナさんに何をしているの?……あなたっていう子は……、今度は太ったのね?前はガリガリだったのに……。身体は大丈夫なの?」
おお!クラリッサ様!
やっぱり息子で間違いなさそうだ!
え?前はガリガリ?どういうこと?!
「ルナさん、私の息子、アウレリアよ。変り者でね、今、諜報にいるの。だから、なかなか会わせる機会がなかったのよ、ごめんなさいね」
諜報……?
「いやあ〜、ルナさん、君の絵を見た時から諜報入りを打診しても、全然いい返事が学院から貰えなかったんだよねぇ、いつの間にか見做し近衛だし。もう無理そうだなぁ」
ええ?!ひょっとして、ずっと諜報から声かけてた張本人かな!?でも、前に諜報の人から直接声かけられた記憶あるけど、こんなんじゃなかったような…。
「アウレリアは、体型から声色、体臭にいたるまで、薬を使ってでも変えてしまう変人なのよ。
諜報では活躍しているようね、そろそろ落ち着いて家督を継ぐ決意はできないのかしら?」
体型どころか、体臭までってやばいな。
クリスチャン・ベイルかよ!
でも、それは諜報向きなのだろう。目の当たりしても意識させない、埋もれてしまえる存在感。
やっぱり、グラナド家はおかしい。
「家督はクリストフに任せるって何度も言ってるじゃないですか、母上。それよりも、最近まで、ベルカイトに行ってたんだ。ルナさん、情報必要でしょう?筆記していい類のものではないから、口頭で伝えたいんだけど、ダンスしながらで、どうかな?」




