第122話 走馬灯、悪化
叙爵の式典が終わると、隣の広間でちょっとしたパーティーだ。といっても、どちらかと言うと挨拶回りに近い。
そして、ナンパ。
いや、わかるよ?夜にはダンスパーティーなのだから。決まった相手がいないなら、パートナーを探さなきゃいけないんだから。
でも、前世女子高生感覚だと、チャラ男のナンパにしか見えない。
そして、わたしは壁の花。
遠巻きに観察はされているのだけど、誰も話しかけに来ない。
夜会は15歳からしか出れないのだけど、建国記念のパーティーだけは別。
だから、子供だから避けられてるわけではない。
服装だよねぇ。
男性からすると、近衛礼装の相手と踊るのか?ってなるし、女性からすると、女と踊るのかってなる。
ちなみに学院生はでることはできないから、クリストフもいない。
なので、シュライン伯爵やグラナド伯爵あたりに挨拶した後は、ポツンと果実水を傾けるボッチの出来上がり。
マリーちゃんは、レイティシアちゃんと一緒に下がっちゃったしね。わたしも行きたかったけど、叙爵者への祝いを兼ねるという名目上、わたしはここにいなきゃいけないらしい。
叙爵式にいなかった貴族子女達は、わたしを指差して、あれは誰なのかと聞き回ってる。
指差すのはやめようね?
今日叙爵された、ヒノモト卿だと言う声。
その周囲の子供達の興味がわたしに向けられていく。
回る走馬灯。
音が音でなくなる。
耳鳴り、動きを停める人々。
嫌な汗が滲む。
そして、視界に入るノイズ。最近、よく起きてる。特に人の注目を浴びると、顕著に表れる。
気持ち悪い、息が苦しい、誰か……
「動くな。命が惜しくば……」
背中に何かが突きつけられてる。
危険はない、むしろ…
「ふわぁ…、ありがと、マリー。助かったよ」
ノイズが晴れる。走馬灯がゆるやかに収まっていった。
「もぅ、何でわかっちゃうかな、少しも焦らないんだから……。素敵よ、ルナ。近衛礼装、ビックリしたでしょ?」
イタズラ失敗!みたいな顔してる。可愛いなぁ、マリーちゃんは。おかげで助かったよ、息ができる。
「わたしだけじゃなくて、クラリッサ様もビックリしてたよ?なんで近衛?!って」
マリーちゃんは当然知ってたんだろう。レイティシアちゃんが刺繍入れるところも見てただろうしね。
「そうでしょう?陛下にお茶会の話を報告したら、とても感心されてたのよ?それで、侍女って肩書だけじゃ勿体ないって。ふふっ!本当は帯剣できるドレスって決まってたのよ。それが急遽変更になって、担当の方が大変そうだったわ!」
帯剣できるドレス?!
そっちの方が可愛くない?そっち着たかったなぁ……。コルセット、つけないよね?
「それで?騎士様は、淑女たる私に何か言うべきことがあるのではなくて?」
言うべきこと?
……なるほど。でも、それシュライン伯爵に怒られない?
得意そうな顔、そして少しのイタズラ顔。
乗っかってやろうじゃないの。
騎士の礼とともに、わたしは口上を述べる。
「マリアンヌ・シュライン様、わたしはレイティシア殿下の護衛騎士、ルナアスカ・ヒノモトと申します。今宵の夜会、もし叶いますれば、わたしにエスコートする栄誉をいただけないでしょうか」
得意気な表情を保ったまま、マリーちゃんが返す。
「あら、話題の方からお誘いいただくなんて、嬉しいこともあるものね。私、ちょうど相手がいなくて困ってましたのよ。エスコートしていただけるかしら?ヒノモト卿」
演技ぶって差し出される手。
仰々しくその手をとって、指先にキスをする。
「光栄です。マリアンヌ嬢」
周りの女子から、黄色い悲鳴があがる。
好きでしょうね、こういうの。変な噂流れたらごめんね、シュライン伯爵。
わたし達は、笑いが堪えられなくなって、噴き出した。
走馬灯がちょっと狂い始めたけど、マリーちゃんが元に戻してくれそうだ。
さすがマブ。わたしの大親友だ。




