第121話 金蘭の契りを以て剣を拝す
「皆、この建国を記念すべき日に、集まってくれたことに感謝する」
ナーキアル王の一言から、この儀式が始まった。
さすが王様だね、威厳、覇気、そして自信が声から感じられる。
「この魔獣溢れる世の厳しさに命を散らした者もいる。まずは、ここに来られなかった者達、この世界の一部になった者達へ、祈りを捧げよう」
……村の宴と同じ、鎮魂の祈り。宗教なくて倫理感薄いとか思ってたけど、とんだ誤解だったな。
命に対する敬意とその折合い方は、曖昧な教義が入る余地がないほどに、この世界は厳しくて洗練されてるのかもしれないな。
だって、村の宴と、国の祝典の始まりが同じなのだから。
広間に広がる沈黙。ここに音楽は不要だ。
「では、次に、相応しい功績を挙げた者達への、叙爵、陞爵を行う。一人ずつ、前へ出よ」
一人、また一人と前に出て、功績が読み上げられて、新たに騎士爵を得た者は、剣を捧げ、その剣で肩を叩かれ、誓いの言葉を述べていく。
中には、最近の魔獣災害対応の功労者もいた。
ん?それなら、パパとかロリアンさんも叙爵対象でいいんじゃない?
と、思ったけど、たぶん断ったんだろうな。
パパはあの村がいいんだ。
じゃないと、あの腕で、あの洞察力で、ずっとあの村にいるわけがない。
ロリアンさんもそうだ。偉くなるより、自分の居場所を選んだ人達。
ノーマンは、とっとと最前線へ派遣されなさい。適材適所、レナちゃんと女の子達の安全確保のために。
「ルナアスカ、前へ」
名前が呼ばれる。
注目が集まる。やだな、最近気づいたけど、注目が集まりすぎると、走馬灯視界にノイズが走るんだ。気持ち悪い……。
「貴殿は、3年前に挙げた王族への多大なる功績を、学院卒業まで保留にしていた。今こそ、それに報いよう」
あの時は金一封とかでも良かったんだけどね。でも、おかげで、レイティシアちゃん、マリーちゃんとマブになれた。それだけでいいんだけど。
立場……、マリーちゃんの言った通りだ。きっと、平民のままだと、一緒にいられない。名前が問題になるくらいだから。
「それに加え……」
ん?加えなくていいよ?
「先日のベルカイトの第二王子とのお茶会において、王子に対して、護衛としての矜持を示した。あの最強の黒騎士に対して、怯まず、貶めず、我が国の格を示した」
……んん?あの〜、誰?それ?
「レイティシアの強い要望により、そなたはレイティシアの輿入れに同行することとなる。彼の国の王子に、認められた者を、ただの侍女として処遇するわけにはいかない」
いや、そこは処遇してください!!
「国の法で、いきなり近衛に取り立てる訳にはいかないが、レイティシア個人の護衛として、近衛の誉れだけ、贈らせてもらう。近衛騎士ではないが、その礼装を着る事を、王の名において許そう」
……王族の護衛じゃなくて、レイティシアちゃん個人の護衛か。……うん、それならいいや。ちょっと服装は仰々しいけどね。
「おそれながら陛下、それならば一つお願いをしてもいいでしょうか?」
可愛い我儘と、それの帳尻を合わせてきたんだから、一つくらい聞いて欲しいな。
「……言ってみよ、許す」
レイティシアちゃん、何か疑問?貴方の我儘の当然の代償だよ?
マリーちゃん、さすがマブ。わかっちゃったよね?遠いから届かないけど、グータッチ。
「叙爵は、レイティシア殿下から、受けとうございます」
会場がざわめく。
概ね好意的なざわめき。
いつの間にか、側にアマテラスがお座りしてる。
もう……、王妃様に嫉妬されちゃうじゃん。
「レイティシア、剣を捧げられよ」
ナーキアル王からレイティシアちゃんへ、権利の一時的な譲渡。
腰から南泉一文字を拵ごと引き抜き、捧げる。
震えるレイティシアちゃんの手。
たおやかな手に載せる。
レイティシアちゃんが、柄に唇を当てる。
刀へのキス。作法とは違うけど、それは心だ。
引き抜かれる刀身。
魔道具の明かりを浴びて、艶めかしく光る。
その刀身がゆっくりと、わたしの両肩を叩く。
「汝、ルナアスカ・ヒノモトを、我が護衛騎士として任ずる」
最低限の儀式に必要な文言。
わたしにとっては、千の言葉よりも雄弁だ。
「ルナアスカ・ヒノモト、レイティシア様の剣として、盾として……」
本来の誓いの言葉ではないけど、
「危機から逃げる足として、命の及ぶ限り、力を尽くす事を誓います」
南泉一文字が手に返ってくる。
鳴り響く歓声や拍手よりも、レイティシアちゃんの涙と、その後ろに控えるマリーちゃんの笑顔が嬉しかった。




