第119話 ご機嫌な王女様
遠くで鐘が鳴り、お茶会の終わりを告げる。
レイティシアちゃんが立ち上がると、エルディーン王子、ミラちゃんも立ち上がって退席の挨拶をする。
エルディーン王子は、こちらの侍女達にも一人一人、軽く御礼の言葉をかけていく。
なんとまあ、気さくなことだ。
学院の礼式授業では、全員に向かって軽く礼をするくらいでよいと習ったけど。
マリーちゃんに、声をかけ、そしてわたしが最後。そこで足を止めた。
ん?なんで?
「フェンドールに向かって、あれだけの啖呵を切れる女性、いや、剣士を初めて見たよ。名前をもう一度聞かせてもらえるかい?あと何歳なのかな」
……これはどういう意味だろう。
はじめに、自己紹介したよね?もう忘れちゃったのかな?
あとで覚えてろよ?とかそんな感じ?
なんか周りがザワッとしてるけど……。
「……ルナアスカ・ヒノモト…です。あと半年程で11歳になります」
エルディーン王子の表情が動く。何か、見定められてる?
「史上最年少卒業とは聞いたけど、10歳で……。ふふっ、ミラも負けていられないね」
隣のミラちゃんに振ると、ミラちゃんはブンブンと音が鳴りそうな勢いで首を振る。
とれちゃうよ?首。
「それでは、レイティシア殿下。次に会うのはベルカイトになるだろうか。それまでご健勝で。楽しみにしていますよ」
そう言ってエルディーン王子は去っていった。
…ミラちゃんも行きなよ?
わたしの袖、握ってないで。
「……ごめんなさい……、ありがとう」
それだけ、小声で言い残して、駆けて行った。
走ると、淑女らしくないって怒られるよ?……ほら、やっぱり。
でも、まあ、ミラちゃんらしいね。
気をつけておかえり。
ふぅ、と一息吐くと、周りのみんながわたしを凝視してる。
ふえ?なんかやらかしたかな?
マリーちゃんがニヤニヤ顔で、肘でつついてくる。
「王族が異性に直接名前を聞く意味、憶えてる?」
ん?学院でならったね、それ……、ぬああ!!
求婚……!?
いやいやいや!違う違う!それは古い意味だ!確か、そこから転じて、親愛、一人の人間としての交流、それから……
「親族と同等とみなす、よ。うふっ!私、結婚したらルナと親族同等になっちゃうわね!」
レイティシアちゃあん!
そんな!うふっ!だなんて!重い!重いよ!
「実際のところは、そこから転じて、自分への不敬は問わない、ですよ、レイティシア様?」
あああ!そうだった!テンパってわかんなくなってたよ。解説ありがとう!マリーちゃん!今回のお茶会のわたしの態度を不問にすると言ってくれたわけか。
レイティシアちゃんの前ということもあるのだろうけど、フェンドールとの一件、気にかけてくれてたってことだね。
いいところあるじゃないか、エルディーン王子。仕方ない、レイティシアちゃんと結婚は認めてやろうかのぅ……。
ほっとしたところで、レイティシアちゃんがわたしの手を取る。
「でも、素敵だったわよ、ルナ。私、知らなかったのよ。護衛が倒れてしまったら、護衛失敗だなんて。考えてみれば、そうよね、もう守ってくれる人がいなくなっちゃうんだから。
貴方があのフェンドールを前にして、言い放つものだから、私、ちょっと感動してしまったわ!」
そんな!満面の笑みで!レイティシアちゃん、照れるよ!顔、近い!
「だから、いざという時は、私を抱えて逃げてちょうだいね!ルナにも皆にも、居なくなってほしくはないもの!」
まったく、可愛らしいご主人様だ。
マイペースで、ちょっと抜けてるけど、情に厚い、優しい我儘を言う姫様。
わたしが仕えるのにピッタリの主だ。
ここに居る皆が同じ気持ちになる。
ベルカイトに付いて行ける人数は限られているけど、ここにいる皆は、レイティシアちゃんの幸せを願っている。
わたしの人生二度目のお茶会は、不穏さを含みつつも、そんな暖かい気持ちに包まれて、終わりを告げた。




