第118話 護衛とは
物騒な気配を隠さなくなったフェンドール。
圧力が増したようにも感じる。
ここまでくると、さすがにマリーちゃんも感じるようだ、身体が強張って文字を書く手が止まり、目は釘付けになっている。
まったく、この戦闘狂は……。
よくわかった。この男は生粋の武力バカなのだろう。ただ規格外の戦闘力を持った。
社交の場に放つには不適格だと思うのだけど、よく近衛にしたね、ベルカイト王国は。
……王族しか止められないからか。
そんな理由で近衛にするなよ、そんなの連れてくんじゃねぇよ、怖いでしょ?お互い。
「今は、レイティシア殿下の護衛中ですので、その申し出は受けかねます」
お前もだろ?私欲を満たそうとするんじゃないよ。
「それならば、殿下を狙えば、闘ってくれるか?」
不敬だぞ、貴様
そちらの王子が婚姻関係を結ぼうとしている相手に対して。雰囲気作るとか言って、ぶち壊してんじゃねえよ。
「わたしがあなたと闘ったところで、一太刀で斬り捨てられる未来しか見えません。ですので、その場合は殿下を抱えて逃げます」
レイティシアちゃんに対して、不敬となる事を言ったんだ。好意的に見てもらえると思うなよ。
フェンドールを睨みつける。
「護衛は、死んでしまったら、その後、護衛対象を危険に晒してしまうことになるのです。それは護衛失敗です。故に、あなたとは立会いません。御理解いただけましたか?」
南泉一文字の鍔に親指をかける。
「それでもなお、無理強いをするというならば、戯れではなく、賊として認知します」
さすがに顔を青くしたエルディーン王子が声を放つ。
「フェンドール、やめよ!すまない、レイティシア殿下、こちらの非礼を詫びる。どうか許して欲しい」
レイティシアちゃんは、少しの沈黙の後、それに応えずにわたしの方を見た。
「ルナアスカは、フェンドールに勝てないの?」
気にするのそこ?!レイティシアちゃん!
無理だよ、無理。あれ、化物だから。
「仮に立ち会ったとして、よくて相打ち。たぶん何もさせてもらえませんね。魔獣とは違いますから」
何か考えてるふうのレイティシアちゃん。なに?他に強い護衛、入れてくれるのかな?ゴリラとか。
「ふふっ!ルナアスカに抱っこされるのも悪くないわね!」
ぐはっ!そっちか!なんて呑気な。
でも、空気読んでるのか天然なのかわからないその言葉が、張り詰めた空気を弛緩させる。
エルディーン王子の顔色も少し戻った。
「それなら、私がレイティシア殿下を抱えてフェンドールから逃げるよ。婚約者だからね」
ぬおっ!甘くしてきやがったな、王子。
レイティシア殿下も満更でもない雰囲気だ。まぁ素敵、だってよ?
でも、わたしのせいで台無しになりそうだったお茶会を、レイティシアちゃんが元に戻してくれた。
下手したら外交問題になってたよね、反省。
気づくと、ミラちゃんが泣きそうになってたようだ。唇がわなわなしてる。
そりゃそうだよね、自分の護衛がお茶会をぶち壊しそうになったんだから。8歳の子が遭遇するには、状況が重すぎる。
不安そうに、わたしの方を見てきたので、ニッコリ笑って口だけで『大丈夫だよ』って伝えた。
少し、ほっとしたのか、肩の力が抜けていくのがわかる。
なんだかんだ、素直で憎めない子だよね。
その後は、和やかにお茶会が再開され、会話が紡がれていく。
たぶん、二人の仲は問題ないだろう。
護衛同士はどうかわからない。
少なくとも、わたしはあいつは嫌い。
書くことがなくなったのか、マリーちゃんが側にきた。そして、また私だけに聞こえる声で囁いた。
「ルナ、素敵だったわよ。最高の護衛ね♪」
ありがと、マリーちゃん。
何かあったら、マリーちゃんも抱えて逃げるからね。
軽く微笑み合ったあと、前から見えないように、身体の後ろでグータッチをした。




