第115話 自称貧民の女の子との再会
とりあえず退出の許可が出た。
マリーちゃんの方を見ると、新たなハンドサイン!
…後で、そっちに、行くから、待て…
おう!いくらでも待つよ!こちらからもハンドサイン。
…こぴー、ざっ!…
ザリザリと、手の甲を舐めさせて悶絶するレイティシアちゃんママを尻目に、応接の間からでた。
脇の控え室に入ると、ディアさんが心配そうに待っててくれてる。
「戻りました、ディアさん。急に変なお願いしてごめんなさい」
何の説明もなしに、衛兵からマント渡せとか言われたら多少は面食らっただろうに、ディアさんは平然としている。
ちょっとくらい、驚かせたいな……
「いえ、よくあることですので。それで、ルナさん。何があったのですか?」
ディアさんには、ちゃんと共有しとかないとね。
「えっと、結局、マクスさんの予想通りでした。でも、その前に、服を仕立てて貰えるそうです。それと、改名をすることになりました」
ディアさんの表情は崩れない。
さすが、使用人1st!
「なるほど、そうですか。予想外……いや、レイティシア様についていくならば、予想するべきでしたね。申し訳ありません」
頭の回転、早すぎ!わたしより、ディアさんの方がチートじゃん?!ちょっと悔しい。なら……
「そんなわけで、名前がかわりましたの。わたしの名前は、ルナアスカ・ヒノモト。ルナ、でも、ナアス、でも、アスカでも、好きなようにお呼びになって?」
どうだぁ!クラリッサ様流自己紹介!しかも、かなりの再現度で!もちろん、無表情!走馬灯の観察力の無駄遣いだ!
ディアさんが、一瞬の沈黙。
「ぶほぉ!!………ぶっ!……くぅ〜〜。んんっ!ナアス様、グラナド家らしい自己紹介ですわね、ぶふっ!」
やったぁ!冷静なディアさんを打ち崩したぞ!
でも、なんで、よりにもよって、真ん中のナアスを選んだ?!
「え〜と、ルナでいいです…。ディアさん、それで、この後、午後にベルカイトの王子様、王女様、それからその側近方を含めたお茶会で、顔合わせをすることになりました。ここで待つようにって言われたんですけど、何か準備しなきゃいけないこと、ありますか?」
服はこのままで、って言われたけど、他に何かやらなきゃいけないことがあるかもしれないしね。
「……んんっ!そうですね…、服はそのまま、なのですね。それならば、軽く顔を作りましょう。ルナさんは、お顔が整ってますから、少し肌を手入れして、チークを入れましょうか。唇に朱を差してもいいですが、ちょっと浮きそうですね」
わたしを座らせてテキパキと、化粧を施していくディアさん。化粧品とかどこに持ってたのかな?わたしも侍女になったら、その技使えるようになる?
わたしの顔が、ディアさんの作品になったころ、マリーちゃんと、レイティシアちゃんがやって来た。
「ルナ!やっと会えたわ!もう!卒業したらすぐどこかにいっちゃうんだから!」
マリーちゃんが、抱きついてくる。
最後に会ったときより、女性らしくなってる。マリーちゃんのメタモルフォーゼは、大成功の部類だ。
「お母様のことは、忘れてちょうだい…、ね、ルナ?あと、名前……ありがとう」
レイティシアちゃんの複雑な顔。
そんな顔しなくてもいいんだぞ?偶然だけど、前世の名前取り戻してガッチャンコした感じだし。
「一緒に行きますって決めてましたからね!ルナって呼んでもらえるのが残るなら、本名なんて飾りです!偉い人にはそれがわからんのですよ!」
何それ〜!って笑い声とともに、会えなかった期間を埋めるように、わたしはガールズトークを楽しんだ。
「レイティシア様、お茶会の時間となりました。皆様も、庭園までお越しください」
使いの人が、お茶会の時間を知らせる。
わたしに襲いかかる緊張感。
大丈夫、今日はただの顔合わせ。
南泉一文字を腰に差し、庭園に向けて、レイティシアちゃん、マリーちゃんとともに歩いていく。
前のお茶会と同じ庭園。
暗殺者が襲来した庭園。
記憶が呼び起こされる。あの時、無我夢中で、脚を切っていった記憶。
少し吐き気。無理やり飲み込む。
石畳の開けた場所。
そこに置かれたテーブルに二人の男女が座っている。その後ろには、その護衛と側仕え。
一人の男に目が引き寄せられる。
フェンドール・ジルタナ。
やっぱり凄い迫力。
視野が狭窄していきそうになった、その時。
「あ?あああああああ!!あなた、肉の子!」
おいこら、ミラちゃん。
肉の子とはなんだ。またデコピンしちゃうぞ?




