第113話 改名の理由
「リユウヲ、オキカセイタダイテモ、イイデショウカ……」
言語道断な命令だけど、悪気があるわけではないのは、表情を見ればわかる。だから、理由くらいは聞いてやろうじゃないか。
「まずは、貴族の名前のつけ方について、知ってもらわねばならん」
むう、長い話になりそうだ。
「今、貴族として生まれてきたものは、昔の偉人や、神の名前にあやかって、その名前を少しばかり変化させてつける。レイティシアならば、建国の女王、レイテ様の名をいただいて、という感じだ」
おお、なるほど。
その名付けルールからすると、マリーちゃんはマリアンヌだから、神の落し子、マリアから、クリストフは、護国の騎士、クリストからかな?
「当然、ルナという名前を元にした名前も数多くある。平民なら、偉人の名前をそのまま、例えば、お前のように『ルナ』という名を名乗る者も珍しくない。」
音にして二文字だしね、偶然一致することだって珍しくないでしょうよ。でもそれの何が問題なのよ。
「功績を挙げたことで、お前は叙爵して準貴族となり、レイティシアの侍女となることを望んだ」
王様がここで指を2本立てる。
なによ、ピースして。動脈ピースで返すぞ?
「ここで問題が二つ発生した。一つ、我が国のみならず、他国でもこの名付けが長く続いていることにより、貴族が、短い名前や、過去の偉人の名をそのまま名乗るのは、貴族らしからぬ、不敬なことであるという風潮があること」
ぬぉ!なんじゃ、そのくだらないメンツみたいなのは!
「二つ、レイティシアの嫁ぎ先、ベルカイト王国では、『ルナ』という名前は、過去に悪逆の限りを尽くし、国を傾けた狂乱の王女の名前であることから、忌み嫌われているということ」
ええ……。とんだとばっちりじゃん……。
「ゆえに、お前『ルナ』がレイティシアに付き従う侍女としてベルカイトに赴くと、レイティシアの立場が揺らぎかねんのだ。ただでさえ、彼の国は、今、政情が不安定になりかけているしな。弱みは少ない方がいい」
……。
それでか。レイティシアちゃんが申し訳無さそうな顔をしたのは。それなら、侍女にする事を取り下げればよかったのだろうけど、レイティシアちゃんは、わたしに一緒に来てほしいと願ったのだろう。
なんて、優しい我儘だ。
嬉しいじゃないか、他にも、もっと相応しくて、由緒正しい御令嬢がいるだろうに、わたしを選んでくれるなんて。
そういうことなら、名前、変えてあげようじゃないの。二人と一緒にいるって、誓ったんだ。どうせ、既に『御門あすか』から代わってるしね、名前長くなるなら、戒名とでも思えばいいや。
レイティシアちゃんとマリーちゃんに微笑む。
ほら、不安そうな顔しないで?わたしも二人と離れたくはないんだよ。
「わかりました。そういうことなら構いません。どのような名前にしましょうか。フランソワ・ジャルジェ、エポニーヌ・テナルディエ、アスカ・ラングレー、何でもいいですよ!」
王様が苦笑いしながら、頷いてくれた。
一方的に命じることだってできるのに、いい王様だね、今度、ガゼムさんに刀献上するようにいっとこう。
「ジャルジェ家もテナルディエ家もラングレー家も既にあるからな。それに、愛称はルナとなる方が、混乱も少なかろう。その中からならば……」
あ、もうあるのか。
ん?この中から選ぶって感じになっちゃった?
「アスカ……ルナアスカと名乗るのがよかろう。家名は希望はあるか?」
うぶおあ!!図らずも前世の名前と今世の名前がくっついたよ!!あああ、意外と馴染むけど恥ずかしくなってきた!
家名……家名……、さすがに『御門』はダメだよなぁ……。
「出身地を家名にするものもおるぞ?」
出身地かぁ……、あれ?村の名前、知らないや。
まったく薄情だなぁ、わたし。
でも、まあ、それなら……
「家名、他に被ってなければ、『ヒノモト』、でお願いします」




