第112話 王宮での再会
なんだか、前に来た時よりも物々しく感じる。
お茶会事件の時に足を踏み入れて以来の王宮だけど、誰も彼も緊張を強いられているのか、表情が固いし、余裕がなさそう。
「ねぇ、ディアさん。王宮って前もこんなんだったっけ?」
小声で聞くわたしに、ディアさんは小さく首を振る。
「恐らく、他国の王族が来てるからですよ。何かあったら大変なことになりますから」
その『何か』がどんなことかにもよるよね。
無事平穏であって欲しい。少なくとも、この召喚令状の要件が終わるまでは。
大きな扉の前。
そこで衛兵に止められる。
「腰の物は、ここで預かります。それから、お付の者はここまでです。横の部屋で待機していて下さい」
そう、わたしはドレスではなく、剣士服なのだ。
召喚の際の服について、前日に帯剣で来るようにと、連絡があったのだ。
叙爵の日ならわかるんだけど。
おかげでコルセット地獄にならなくて済んだけど、不穏さは増した。
腰から南泉一文字を引き抜くと、衛兵に渡す。
衛兵が息をのんだのがわかった。
まあ、平民が持ってるような代物ではないよね、没収とか、献上しろとか言われないよね?
衛兵に促されて、開けられた扉を抜ける。
前に謁見したときとは違う、応接のような場所。
向かう先に、ナーキアル王と、王妃様らしき人、それからレイティシアちゃんが、座っていた。
その後ろには使用人さん達に混じってマリーちゃんもいる。
二人とも、優しい笑顔。表情に、遅いぞ!って書いてある。
懐かしい、やっと会えた。
こっちだって、最速だよって顔に書いた。
「召喚の命に従い、参上いたしました。グラナド伯爵にお世話になっております、ルナにございます」
王様は鷹揚に頷いて、表情を和らげた。うん、よかった。何かやらかしたわけじゃなさそう。
「うむ、ご苦労。久しぶりだな、ルナ。3年前以来だな。学院の中等部に入ったばかりだと聞いていたが、もう卒業したのか。優秀なことよな」
さすがに把握されてるか、そうだよね。
「お褒めに預かり、光栄です、陛下。本好きが高じて、多少知識を溜め込んだだけにすぎません。これからは、レイティシア様の侍女として、精進して参ります」
大丈夫?!この受け答えで!
ホントは、わたしなんぞ取るに足らない小娘ですよぅ、って言いたい!
「謙虚なことよ、ハッハッ!さて、本題といこうか。お主を呼び出した理由は四つある。一つずつ片付けていこう」
四つも!?そんなに?
呼び出されるような要件に心当たりないよ?
「まず、1つ目は、叙爵の準備について。レイティシアが、叙爵の時の服を礼として用意すると約束したと言っておってな。その採寸、それから剣だ。叙爵の時の剣は、その者が持っている剣で行うことが多いが、平民から上る者は、相応しい剣を持っていることが少ない。それ故、その場合はこちらで用意することになる。持って来るように伝達したが……、ふむ、これか」
先程、預けた南泉一文字が、なぜか白い布に包まれて王様に渡された。
あ〜、それでか。
てっきり誰かと真剣でやり合え!腕試しだ!とか言われるのかと思ってたよ。
平和でよかった。
王様は布を開くと、動きが止まった。
あは、やっぱりそういう反応だよね。凄いでしょ?お爺さんが、仕事ほっぽり出して仕上げた一品だからね!
動きだしたと思ったら、鞘から刀身を引き出す。
窓から差し込む光を受けて、刀身が光を放った。
ガゼムさんと、アマテラスの渾身の作だよ、王様。なかなかなもんでしょ!
……王様?なにかしゃべって?
「……グラナド伯爵は、このような宝剣を持っていたのか……。」
おーい、ナーキアル?
見惚れるの無理ないけど、要件、あと3つもあるんでしょ?巻いて?
「お父様?何か問題ありまして?」
あ、さすがにレイティシアちゃんが、待てなくなったらしい。いいぞ、もっと言って!
「……ん!あ、いや、何も問題はない。とても良い剣だ。この剣で良いだろう。……うむ…イイ」
なんだよ、最後のは。
あげないよ?
王様は、名残惜しそうに鞘に納めると、お付きの人に返した。
「2つ目の要件にいこう。叙爵にあたり、貴族らしい名前を名乗ってもらう」
ほえ?名前?なんで?
あ、家名をつけろってことかな?
「家名をってことでしょうか。どこか断絶してしまった家の名前……とかですか?」
王様は首を振る。なんか申し訳無さそうな顔してるな。ん?レイティシアちゃんまで、なんで?
「いや…、『ルナ』という名前自体をだ。家名も今までにあったものではなく、新しい物を」
え……?何言ってんのよ。
わたしの名前はルナだ、それしかありえない!まったく、何を言っているんだナーキアル。お前もナーリアキラ・シマヅに改名させるぞ?




