第109話 村の日常と旅立ち
宴は、鎮魂の祈りで始まり、わたしの歌で終わりを告げることになりそうだ。
やっぱり、ドストレートの恋歌は、刺激が強かったのか、夫婦やカップルがとってもいい感じになってる。
相手がいない人も、ちらちらと想い人の方に視線を送ってる。新たなカップルができるかも知んないね。
歌い終わると、皆が拍手してくれた。
照れくさい。でも、ちょっと気分がいい。まあ、次の宴は誰か歌えるようにしといてよ。
「ルナさん、とても素敵でした。……まだ有りますよね?」
ディアさん!やめて?もう歌わないから!
ブーツ見せてもダメ!
「もう疲れちゃったし、お腹もすいたから、何か食べて寝ますぅ〜」
仕方ないとでも言わんばかりに、ディアさんが軽食を持ってきてくれた。実際、歌ってる間もお腹ぐぅぐぅ言ってたしね。
パンに肉を挟んだもの、それから芋を蒸したものが目の前に出された。
うん!素材の味!ていうかこれ、言ってみれば、ハンバーガーだよね。味付け工夫すれば、カンギルの露店で売れるんじゃないかな?
肉が供給し続けられればだけど。
気がついたら、宴はお開きなのか、カップルを中心に次々と人がいなくなっていく。
幸せに語り合うといいさ、爆散しやがれ。
慌ててお腹に詰め込むと、パパとママに連れられ、家路についた。
アマテラスが、なぉーんと一鳴きして、フードに入ってくる。
満足したようだ。ていうか、あなたが引き起こしたんじゃないでしょうね?この一連の流れ。
微かな疑念を抱えて、わたしは眠りについた。
翌朝からは、昨夜までとは一転して、わたしの記憶にある通りの日常がやってくる。
荒らされた畑を整備し、壊されたものを直し、そして狩りにでる。
森の中は、やっぱりデヴォアインプが喰い荒らしたようで、まだ狩りの獲物になりそうな獣は戻っていない。
それでも毎日森に入るのは、他の獣がいなくなったことで、住み着いては困る害獣が入り込むのを防ぐためだそうだ。
なるほど、狩りは森の管理でもあるんだねぇ。
数日経った頃に、近隣の村の情報もわかってきた。グラナド領内の他の村に被害は無いらしい。他の領はわからないみたいだけど、あれだけの規模の群れが遠いこの村まで来てるのだから、もっと近い他の領内に影響がないなんてことはないだろうとの、ロリアンさんの談。
その間、わたしはルカとレナちゃんの相手をしていた。ルカはまだ姉という存在に慣れていないみたいだけど、パパと一緒に魔獣退治したという事実に、少しだけ懐いてくれるようになった。
むふふ、次に来るときは憶えていてよね。手紙かくからさ。
やるべきことがあると時間の流れが早い。常時走馬灯だけど、あっという間に滞在できる期間が過ぎ去っていく。
この間、魔獣が再び襲ってくることはなかったから、もう大丈夫だと見ていいだろう。
「レナちゃん、元気でね。次に来る時、憶えててくれたら嬉しいな」
そう、今日は再び王都に旅立つ日。
「おねえたん、おでかえ?いやぁ〜」
ふふ、可愛い、天使だなぁ。
見回すと村の皆が見送りに来てる。
学院にいくときは、家族だけだったのに。
魔獣退治ありがとうだの、また歌きかせろだの、クリストフ様を連れてこいだの、いろいろ。
「ルナ、またいつでも帰っておいで。王女様にお仕えするようになったら、難しいかも知れないけど、パパたちはいつでも待ってるから」
パパがママと身を寄せ合って、嬉しいことをいってくれる。
ほんとに仲いいね、その内また新しい弟か妹ができそうだ。口に出すと実現しちゃいそうだから、出さないけど。
「ルカ、パパにしっかり稽古つけてもらって、ママにいっぱい勉強を教えてもらうんだよ?」
ルカが俯いている。
じっと、何かを耐えるように。
「……ルナお姉ちゃん、また来て……」
ルカの足元に涙が落ちた。
ああ、やっと、『お姉ちゃん』になれたよ。
ルカをそっと抱きしめる。
「また、来るからね。ルカが王都に来てもいいのよ?ふふ!」
ルカなら、前世知識や走馬灯チートがなくても、学院でいい成績を出せるはずだ。姉の勝手な買いかぶりだけど!
「それじゃあ、みんな!行ってきます。元気にしててね!」
そう、行ってきます、だ。さよならじゃない。
皆の歓声を受けながら、わたしは馬車に乗り込んだ。




